学生との対話で学びへの意欲を引き出し、スポーツビジネスの現場体験で主体性と実践力を育てる。

2024年4月に本学に着任された、人間科学部の藤本倫史先生。スポーツを通じた社会・地域課題の解決、スポーツとまちづくり、スポーツ観戦において高付加価値のサービスを提供するスポーツホスピタリティ等を主な研究テーマとしています。昨年は担当する基礎ゼミの1年生チームが外部コンペにチャレンジし、日本スポーツ産業学会主催の「【スポーツ庁長官賞】アイデアコンペ」でベスト5入賞、スポーツ庁「スポーツ・健康まちづくりデザイン 学生コンペティション2024」のアイデア部門で優秀賞を受賞。着任1年目から高い指導力を発揮している藤本先生に、ゼミの運営や指導の方針を伺いました。
教育ビジョン
自ら学びをデザインできる学生を生み出す
予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。
お話を伺った方
藤本 倫史さん
大阪経済大学人間科学部人間科学科准教授。広島国際学院大学博士前期課程修了。修士(社会学)。専門分野はスポーツマネジメント、スポーツ社会学。広島県スポーツ政策アドバイザー、スポーツ庁令和6年度スポーツの成長促進事業 スポーツホスピタリティ推進事業 事業アドバイザーなどを務める。
ゼミは、最も学生と密なコミュニケーションを図れる場
昨年の外部コンペで優秀な成績を残した1年生は、藤本先生からの参加の呼びかけに応えた有志によるチームで、授業外の時間を使ってコンペの準備に取り組みました。藤本先生は、前任校で3、4年生と行っていた取り組みを、今回は1年生とも挑戦してみたいと考え、その実現に至ったとのこと。空き時間や授業後に研究室に集まり、藤本先生のサポートを受けながら調査・分析し、アイデアを練り、プレゼン資料をまとめ上げました。
「基礎ゼミは1年生が大学での学びに必要な基礎的なスキルを身につける授業ですが、すでに一定の力を有している学生がいたのでチャレンジを促しました。通常なら2年生以降の学生が取り組むような専門分野の学びを含めた内容で、1年生には荷が重いかと思う時もありましたが、学生たちは最後まで粘り強くやり遂げました。だからこそ好結果につながったのだと思います。取り組みを通じて成長する学生たちの姿を見て、意欲のある学生に対しては学年にこだわらず、力を伸ばしていく働きかけが重要だと改めて感じました」

ただし、すべての学生が最初から学びに意欲的なわけではありません。とくに1年生は、各高校での学習内容が異なることもあり、すでに身につけている力に差があります。学生の個性や考え方もそれぞれ。中には、まだ自分がめざしていきたい将来像が見えていない学生もいます。そんな学生たちに対し、どのように指導しているのでしょうか。
「いろいろなタイプの新しい学生たちが入ってくる基礎ゼミは毎年、どこにゴールを設定するのか悩むところ」と、藤本先生はゼミ運営の難しさを語ります。「所属する学生の力や個性を見極めながら取り組みを進めていきますが、意欲がないように見えていた学生が意外と力を発揮して活躍したり、逆に力があると思っていた学生が伸び悩んだり。そこが難しさでもあり、やりがいでもありますね」
このような多様な学生たちを指導する上で、「とにかく学生と話すこと」を大切にしていると言います。「例えば、表面には出さなくても内には情熱を秘めている学生もいます。そうした学生も根気強くコミュニケーションを重ねていくと、興味のあること、自分のやりたいことを話してくれるようになります。ゼミは最も学生と密にコミュニケーションをとれる場。いろいろな話題を投げかけて対話する中で、学生の考えやニーズを汲み取り、学びへのモチベーションにつながる興味や意欲を引き出していきたい。まずは一歩踏み出すこと、その手助けをするのが私の役割だと思っています」
学生ならではの特権を利用して、多様な体験を
教育的ミッションとして藤本先生が重視しているのは、主体性と実践力の育成です。この2つの力の重要性を認識したのは、先生自身の学生時代の経験からだそうです。「私が大学に入学した当初、期待していたほど楽しくなかったんです。それは、自分が何をやりたいかを発信して行動していなかったから。でも、主体的に動き始めると、周囲が力を貸してくれて特別な体験ができ、多くの学びを得られました」
企業の経営者、政治家、スポーツ選手など、普通なら簡単に会えない人でも学生の学びのためならば協力してくれる例は珍しくありません。「私の実体験を踏まえ、学生の特権をもっと利用してみればいいのではないかと学生たちには伝えています。大学教員の力もうまく使ってほしいと思っています」と、藤本先生は話します。
藤本先生のゼミや授業ではフィールドワークやアウトプットの機会を多く取り入れることで、主体性や実践力を育みます。コンペのプレゼンに挑むために学生たちが東京に行った際には、東京ドームやメジャーリーグのショップなどスポーツに関わる施設を訪れました。最近ではPBL型授業の一環で、2025年4月にオープンしたばかりの神戸の新アリーナ「GLION ARENA KOBE」を訪問。施設を見学し、プロバスケットボールの試合を観戦しています。

バスケットボールの試合を観戦した経験のある学生は少なく、「こんなにエキサイティングなんだ」と驚いていたそうです。「現場に行くと、映像や本ではわからないエネルギーを感じられます。スポーツビジネスに関する理解も深まります」と話す藤本先生。現場に行って刺激を受け、興味関心の種が見つかれば、きっと学生たちの学びへのモチベーションも高まっていくに違いありません。
研究力とチームマネジメント力の両方を育成
専門分野の学びが本格的にスタートする2年生のゼミ活動では、グループワークを中心に進めていく計画です。「神戸のアリーナとその周辺地域も含めたまちづくりをテーマに、外部の関係者とも関わりながら課題解決策やアイデアをグループで検討し、コンペにも挑戦できればと考えています」とのこと。専門知識を深めると同時に、グループの中での自分の果たすべき役割について学び、大学外の人と関わる際のビジネスマナー、発信力といった実践力を高めていきます。
3年生のゼミ活動は主に卒業論文の作成に向け、個人の興味に応じたテーマに沿って研究に取り組んでいきます。これに加えて、チームでの取り組みも並行して行っていきます。「社会に出てからのことを考えると、マネジメント力が重要だと考えているからです。2年生でのグループワークを通じた学びを土台に、チームの力を最大限に発揮するためのマネジメント力を伸ばしてほしいですね」

昨今、日本国内でも大規模なスタジアムやアリーナが増え、スポーツのエンターテイメント化が進んで注目を集めています。藤本先生の指導のもとで楽しみながら実践力を高め、今後さらにスポーツの世界を盛り上げる人材がゼミ生の中から育ってくれることが期待されます。
Hints for SOUHATSU
創発につながるヒント
個々に寄り添い、とことんコミュニケーションを図るという藤本先生の関わり方が、ゼミ生たちの成長のきっかけになっているのは間違いないでしょう。先生との密な関わりの中で自分の興味関心や目標を見つけられたなら、その先は自ら学ぶ学生へと育っていくはずです。また、大学を飛び出して活動するさまざまな場が用意されていることは、学生にとって多くの学びを得られる絶好の機会です。学生たちが何と出会い、どのような気づきを得て、新たに何を生み出すのか、楽しみになります。この貴重な場を最大限に活かしてくれることを願っています。
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