創発レポート

研究ビジョン「知の“結接点”となる」をもとに本学にとっての研究について考える、FD・SD合同フォーラムを開催。

開催日:2025年5月23日
参加者:対面57名、オンライン174名(教員145名、職員86名)

2025年5月23日、「FD・SD合同フォーラム」を開催しました。2023年には教育ビジョンをテーマに実施しましたが、今回のテーマは、「研究ビジョン『知の“結接点”となる』から考える、わたしたちにとっての研究とは」です。専門分野の異なる教員の事例紹介をメインに、知の“結接点”とはどのようなものなのか、それぞれの立場から意見を交わしました。


研究ビジョン

知の“結接点”となる

分野や産学官民を問わず、国内外の多彩な知を集積し、それぞれをつなげる場を形成する 
ことで、新たな価値を創出していきます。

登壇者

高木 久史さん

専門は前近代日本の経済史。これまで学芸員等として学際的な研究にも取り組んできた経歴を持つ。日本経済史研究所所長。
事例テーマ:学際的に渡り歩く中で生まれた、積み重ねとしての結接点

芹澤 成弘さん

専門は理論経済学、ゲーム理論。米ロチェスター大学にて博士号を取得。国際的な共同研究などにも精通している。
事例テーマ:「知の“結接点”」とかけてなんとととく。「営業」そのこころは?

中村 健二さん

専門は情報通信、社会システム工学。企業や自治体との産学官連携の取り組みを多数進めている。
事例テーマ:実社会との連携により生まれる取り組みとしての結接点

高濱 悠紀さん

企画課職員。入職後、研究支援を担当。総務課を経て広報課へ配属となりメディアへの発信に努めてきた。2025年5月より現職。

花岡 正樹さん(モデレーター)

株式会社hotozero代表、ウェブマガジン「ほとんど0円大学」編集長。研究広報の広報戦略コンサルティング、広報物の企画・制作等に幅広く携わる。

これからの研究について考えるきっかけに

今回のフォーラムは、3名の教員による事例紹介と座談会という内容で行われました。冒頭の挨拶で山本学長は、これからの大学の存在意義を考えると最先端の知見を発信していくべきだと、以前Top Messageでも発表した研究ビジョンの考え方を紹介。「研究ビジョンの実現に関しては各個人の尽力に頼ってきた面がありますが、100周年となる2032年に向けて、教職員が連携していくことが大切です。このフォーラムを、本学がどのように研究を進めていくかを考えるきっかけにしてほしい」と語りかけました。その後、登壇者の紹介が行われ、事例紹介に移りました。

2032年に向けた指針を話す山本学長

3人の研究者が「知の“結接点”」の事例を紹介

最初の事例紹介は、高木先生の「学際的に渡り歩く中で生まれた、積み重ねとしての結接点」です。自身のメインフィールドである、貨幣や金融とは別に取り組んできた学際的な研究成果について発表しました。ある町の教育委員会に勤めていたときには博物館や文化財保護事業に携わり、その中で考古学や美術史、民俗学を専門とする同僚や同業者などから学びを得たといいます。また、前職の大学でも日本文学や言語学、教育学などを専門とする教員と交流があったそうです。こうしてさまざまな人と出会い、専門分野以外の学びにふれ、複数の方法論を取り入れることで、「アウトプットとして『戦国日本の生態系(エコシステム)』(講談社)を2023年に出版し、“ひとり学際研究”ともいえる成果を出すことができました」と締めくくりました。

芹澤先生は、商品やサービスの営業と同様に、研究にも売り込みやブランド確立が必要と、実体験をもとに話しました。研究とは本来何かを発見することですが、職業として考えるときには他人の評価も大事と芹澤先生はいいます。経済学のいくつかの分野では、国際的な学術誌への公刊や引用が評価指標になり、それを増やすためには営業努力が欠かせないとのこと。膨大な数の研究があるため、多くは足切りにあってしまうためです。「そのため、学術誌の編集者や審査員、影響力のある研究者へのアプローチ、つまり“営業活動”が大事です。難しいことですが、そのときにブランド化ができていて、『この大学の研究なら読む価値がある』と思ってくれると営業もスムーズにいきます」

事例紹介では、知の“結接点”と考えられる取り組みや、結接点をめざすためのアプローチなどさまざまな話題が提供された

中村先生は、2019年から静岡県や奈良県香芝市などとの連携活動を行ってきました。例えば、香芝市では建設現場のDXを実現するために、点群データを用いて橋梁や遊歩道などの点検作業の効率化を図っています。社会連携の経験から、中村先生は現場の重要さを強調。「私の専門である土木情報学は、土木・建築に関わる課題を情報工学によって解消するものですが、情報工学はあくまでツールであり手段です。課題は、企業や地方公共団体の現場もしくは人に関わらないとわかりません」。また、企業や地方公共団体にとっても、大学との連携は課題解決や不得意領域の補完など、大きな意味があるといいます。「こうした関係をつくりあげると、企業や地方公共団体、大学の研究者などいろいろな人を巻き込んだ仕組み、知の“結接点”ができると考えています」

個々の尽力と学内外への発信がブランドに

続いて行われた座談会では、本学を知の“結接点”にするための工夫や、発表を聞いて気づいたこと、職員からのサポートなどについて思い思いに語り合いました。工夫のひとつとして、芹澤先生は国際会議にふれました。「営業努力の結果、自分の研究や大学がブランド化されると評価されやすいといえます。時間はかかりますし、海外の研究者などへのアプローチは大変ですが、国際会議を大阪や本学で開催すればアプローチしやすいでしょう」

中村先生は「営業に近いのですが」といいつつ、研究成果に関わる外部への働きかけについて提案。「ただ論文を書きましたというのではなく、成果を使ってもらうために、自分の技術が入ることを前提として企業や自治体に売り込み、現場の技術に当てはめるなどして予算を取ることが大切です。現場の課題と絡めていくために自分でアウトリーチする必要があると思います」

続けて山本学長も営業に言及しました。「振り返ってみると、大学院生の頃は、当然のように自分の論文を関係者に郵送していましたが、職を得るとあまり営業活動していないなと。待っていても結接点にはならないと、改めて気づかされました」と話しました。

高木先生は大学のブランドやイメージについてふれました。「世間の人は『東大の先生の本ならクオリティは高いだろう』と考えるでしょう。それと同様に『本学の研究者が書いたならそこそこ信頼できる』とのイメージを社会的に形成できれば成功だといえます」。これに関して芹澤先生は、ブランド化の一案として「日本の大学ランキングは明治以降ほとんど変わっていません。そのため、これからは国際的な評価の高い大学としてアピールする方法も必要だと思います」と、海外での評価を高めることの重要性を指摘しました。中村先生は「研究は最先端のことをするものですが、現場に伺うとまだまだアナログで、最先端の技術を導入するより前につまずいておられることも多いです。近隣の企業や自治体にとって、現場の困りごとを気軽に聞きに行ける場所が本学になるとより良いのではないでしょうか」と、結接点として考えられる役割を話しました。

それぞれの立場から、本学にとっての研究、研究ビジョン推進について意見を交わした

また、広報に携わってきた立場から、高濱さんは「職員としては、先生方の研究を支える・つなげる・広げていくことに関われるのではないかと感じています」と話しました。「例えば、社会連携の際に『他にどんな分野の先生がいるのか』と聞かれることがあります。また、広報でも、ウェブサイトで発信するだけでなく、メディアに売り込むことが大切です。記事になると追加取材を受けることも多いため、先生の研究を広め、ひいては本学の名前を広めることができます。援護射撃のようなかたちで職員として関われる部分があると思います」と、職員からのアプローチを話しました。

職員が関わることについて、先生方からは「助成金申請の書類作成などでバックアップしてもらっている」「教員の数に対して研究支援課の人数が少ないので大変だろう。もっと増やした方がよいのでは」といった声が上がりました。

モデレーターの花岡さんはさまざまな大学の研究広報に携わっていることから「十数年前から研究広報に力を入れる大学がかなり増えています。国立の一部の大学がやるべきものだったものが、ブランド価値があると理解されるようになってきているためです」と他大学の現状にふれました。

最後に、山本学長は「今の段階では個々の研究者の尽力に依存していますが、その方がさらに学外と関わりを持つようにすれば、結接点としての大学の価値はおのずと高まっていきます。研究で本学の知名度を高めること。そしてその先に本学で学びたいという受験生が増加するように、今後もブランド力の形成に向けてできることを考えていきたいと思います」と締めくくりました。

終了後のアンケートでは、95件の回答が寄せられ、関心の高さが伺えました。「『研究の営業』という視点が新鮮だった」「研究の意義を再認識した」「他者の取り組みに刺激を受けた」といったご意見・ご感想を多数いただきました。
本学にとっての研究について考えるスタートラインとなった今回のフォーラム。Talk withでは、続編として研究者の座談会でこのテーマを改めて掘り下げ、これからのヒントとなる内容をお届けしていきたいと考えております。

理解・納得した