密度の濃い指導と研究活動を通じ、情報の力を使って新しい何かを生み出すための知識と経験を養う。

本学では毎年10~11月、ゼミ活動における成果発表の場として、プレゼンテーション大会「ZEMI-1グランプリ(以下、ZEMI-1)」を開催しています。情報社会学部の米川雅士准教授のゼミでは、この大会を活用して研究活動を行っています。大会では本選出場の常連ゼミとして、その取り組み内容は高く評価されています。ゼミ生たちは米川先生の指導のもと、多くの時間を費やして熱心に研究に取り組んでいるといいます。指導方針やゼミ生との関係性について米川先生に話をお伺いし、学生の力を引き出すためのゼミ運営のヒントを探ります。
教育ビジョン
自ら学びをデザインできる学生を生み出す
予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。
お話を伺った方
米川 雅士さん
大阪経済大学情報社会学部情報社会学科准教授。慶應義塾大学理工学研究科 基礎理工学専攻博士後期課程単位取得満期退学。修士(工学)。専門分野は、信号処理、自動制御システム、計測工学、宇宙工学。衛星測位、画像処理、GIS、AIなどの技術を用い、最適なシステムの研究と開発に取り組む。
授業外での教員と学生の対話も、ゼミ活動の一環
3年生時にZEMI-1にチャレンジする米川ゼミ。その準備段階として、2年生の秋学期にゼミ活動が始まると、まもなく4つのチームに分かれてのグループワークに取り組みます。初めは、情報を集めることを主題としたワークです。引き続き、コンピュータプログラミング、AIの作成を行います。
これらのグループワークは、自身の現時点での力や、何を学んで、どのような力を身につけたいのかを学生たちが認識するための取り組みです。米川先生は、取り組みの様子や対話の中から、学生たちの力や考えを読み取って、ZEMI-1のチーム分けを行います。
まだ知識の浅い2年生にとって、プログラミングやAIの作成はハードルの高い課題です。そのようなテーマを課す狙いについて、米川先生は「もちろん、自分たちの力だけで取り組みを進めることはできません。わからないことは何でも聞いていいと声をかけ、先生に質問しても大丈夫なんだという雰囲気をゼミ生の中に浸透させます」と説明します。
というのも米川ゼミは、先生と学生との密度の濃い関わりを通じて研究が進められていくスタイルだからです。ゼミの授業時間内は、グループで研究した内容を発表するのが主体。グループごとに2週間に1度のペースで発表します。発表後には先生から内容に対する指導があり、その指導内容を踏まえて研究を深めていきます。次の発表までに授業外の時間で研究を自力で進めていく学生たちは、頻繁に先生のもとへと質問に訪れます。
「発表後は質問攻めにします。投げかけた質問に答えられないと、次回までに調べて考えて発表準備をしなければなりません。当然、わからないことが出てくるし、研究が行き詰ることもあります。悩みに悩んだ上で、学生たちは質問に来ます。授業外の私の空き時間は、2、3週間先までゼミ生のアポイントで埋まっています」
学生にヒントを与え、段階的に力を引き出す
米川先生はこうした指導を通じ、自分に足りないものに気づかせ、社会に出た時に武器となる力を身につけさせたいと考えていると言います。「学生たちにはよく、知識と経験の両輪が必要だと話しています。とくに学生たちは、経験の部分が圧倒的に足りません。興味のある題材があっても、そこから何をしてどう深めていけばいいかがわからない。たとえ知識があっても、その知識を使って実践する時の難しさや課題は、経験がないとわからないからです。逆に、知識がない場合は、アイデアがあっても形にすることができません。だから対話の中でヒントを与えて、段階的に成長をうながします」

例えば、ゼミに所属したばかりの学生が情報源とするのは、インターネット上の知識のみ。次に、情報として精度の高い論文を活用することを学んでも、論文で得た知識を自分の手で再現しようとはなかなかならないといいます。また、AI分野ではさまざまな課題解決に対応するモジュールがすでに開発されていますが、それらを使うことはできても、その中身はどうなっているのかといった領域まで自ら考えられる学生は少ないようです。しかし、悩みながらも研究を進め、先生の指導を自分の糧にして力を伸ばしていきます。
「両輪がうまく回り出せば、“情報”とは何かを理解し、情報を使うための力を身につけ、新しい何かを生み出すことができるようになるでしょう。実際、卒論を書く頃になると、言われなくとも自分で考えて動けるようになります。『先生、こんなことができました!』と、報告に来てくれます。その段階になると、私の役目は軌道修正をするだけ。方向性が間違っている時もあるけれど、そうした取り組み姿勢を身につけたことが何よりの成長だと思っています」と米川先生は語ります。
システムエンジニアとして6年間の社会経験を持つ米川先生は、就職活動、社会での活躍を見据えた力の育成を重視しているとのこと。「今は新卒で入った企業にずっと勤めるのが当たり前の時代ではなくなりました。そんな時代だからこそなおさら、自分の市場価値を高めることが必要。市場価値とは自己評価ではなく第三者が決めるものなので、人に伝わる形で価値をアピールできなければいけません。まずはZEMI-1でグループとしての力を養い、それを土台として個人研究につなげ、自分は第三者からどう見られているか、どんな力を武器として持っているのか、意識しながらゼミ活動に取り組んでほしいと思っています」
卒業生も含めたゼミ生のつながりを築く
先生との対話によって研究が進められていくゼミだけに、学生との関係性が研究の深化にも影響を及ぼしかねません。ですから米川先生は、普段から学生と積極的にコミュニケーションを図っていると言います。ゼミ旅行や食事の場では、人生や学びに関わる真面目な話からプライベートな相談まで、学生たちといろいろな話題で盛り上がるそうです。「最近はとくに、学生が使用しているツールや価値観など、移り変わりがはやくなっていると感じます。学生と話が合わなくなって関わりが薄れると、理想とするゼミ運営ができなくなるので、私自身のアップデートも怠れないですね」
毎年1回行われる卒業生の懇親会には、たくさんの元ゼミ生が集まります。多い時には現役生を含めて90人超が参加した年もあったそうです。米川先生との間で学生時代に深い関わりを築いていたからこそ、これほど多くの卒業生が足を運ぶのでしょう。「緩やかな縦のつながりを作りたいと思い開催しています。卒業生は仕事の話など、現役生にいろいろな話をしてくれます。これも、学生たちの良い経験になっているのではないでしょうか。学生にとってゼミという場が、長く続く関係性が築けるような場所の一つになってくれればと願っています」

学生に最も伝えたいメッセージとしては、「学生時代にしかできないこと、経験したことがない新しいチャレンジをどんどんしてほしい」と語る米川先生。「何かおもしろいものが見つかったり、新たな気づきがあるかもしれない。それが知識と経験の両輪となって、研究や自分の将来に活かされる可能性もあるでしょう。研究活動にしてもそれ以外の活動でも、とにかく少しでも気になったことをやっていくぐらいの勢いで、チャレンジすればいいと思っています。学外まで飛び出して活動できたなら、さらにすばらしいですね」
Hints for SOUHATSU
創発につながるヒント
たとえ学生にとって負荷のかかる取り組みであっても、先生の熱意が伝わる丁寧な指導があれば学びへの意欲は引き出されるのだと感じられました。米川ゼミの学生たちは、ハードルの高い課題にも精力的に取り組み続けています。段階的に力を伸ばしていく指導によって自身の成長を実感できていることが、その意欲の源となっているのでしょう。米川先生と学生の双方が努力を惜しまないゼミ活動を通じ、社会に出てからも力を発揮できる知識と経験を身につけた人材が育っていくに違いありません。卒業生を含めたゼミ生のつながりが今後も継続し、ポジティブな関係性が築いていけるように期待します。
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