コラム

組織共通の価値観の醸成こそがミッションの推進力(福田 尚好さん)|100周年ビジョンコラム #04

組織や組織の構成員にとって、ビジョンを持つことの意味とは何でしょうか。多くの組織を見てきた中小企業診断士の視点から語ってもらいます。今回の執筆者は福田尚好さんです。

「わが社もビジョンを作成したいのですが、ビジョンとミッションとの関係がゴチャゴチャになって、うまく作れません」

これは、多くの中小企業がビジョン作成時に発する言葉である。
企業が成長し社員も増加してくると、「組織がうまくまとまらない」、「社員がすぐにやめてしまう」等の悩みを抱える企業が多くなり、それらを乗り越えるために、「ビジョン」・「ミッション」の作成に取り組むようになる。

言うまでもなく、ビジョンとは「将来のあるべき姿」を表現したものであり、かつ、社会との接点を考慮したものでなければならない。成功企業のビジョンは、その表現方法は違えども、社会との接点を踏まえつつ、「将来のあるべき姿」を見事に表現している。

一方、小生が経営指導時において多くの中小企業のビジョンと接する時、「このビジョンを誰が支持できるのだろうか?」と疑問に感じる時が多々あるのも事実である。
なぜならば、社会との接点が欠如した我田引水的なものであったり、接点は考慮してはいるものの、その実現性が危ぶまれる「単なる夢物語」的なものだからである。

つまり、社会との接点や、実現性を包含するためには、ミッションとの整合性を重視する必要があるのだ。したがって、ミッションとは、言うまでもなく企業が果たすべき使命であり、その企業の存在価値であると言える。このミッションを遂行し続けた結果としてビジョンが実現するという図式が出来上がってこそ、ビジョンが説得力を持ち、支持されるようになるのだ。

また、ミッションを遂行し続けるための推進力としてのバリューについても検討しておく必要がある。バリューとは言うまでもなく組織共通の価値観であり、この価値観の醸成こそがミッションの推進力となり、その結果として、ビジョンが実現するのである。
これらの構造を理解できた中小企業者の多くは、ビジョンの作成に取り組み始めるが、それでも作成を躊躇する企業者も、特に小規模企業者を中心に少なからず存在するのも事実である。

このような場合、私は、以下のような手順で作成に着手することを勧めている。

① まず、当該企業のターゲットや、その関係者を特定する。
② 彼らが、当該企業やその同業他社の提供する商品やサービスに対して、抱いている「不満」や「不快」や「不便」や「不安」などの「不」を列挙する。
③ それらの「不」の要素を排除したり、軽減する商品や、サービスを検討する。
④ それらを、どのようにして提供するかを検討する。
⑤ これらの結果、当該企業はどのようになるかを検討する。

以上の結果、①②③がバリューに近い概念となり、③④がミッションに近い概念になる。
また、その結果である⑤がビジョンに近い概念になる。
このような手順で、作成したビジョンに準じるものを、経営理念や社是として掲げることを勧めている。

もちろん、これらの作成手法はドラッカーの提唱するものとは、少なからず相いれない部分もあるが、中小企業には作成しやすいものであり、「やっと出来ました。ありがとうございました」との声を聴くことが多く、特に小規模企業にお勧めしている。
なお、ビジョンは、社員全員の共通認識が必要であることから、少数の経営幹部だけで作成するのではなく、できる限り多くの社員の参加によるものを目指すほうが、共通認識を醸成しやすくなることは、言うまでもない。

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執筆者略歴

大阪経済大学中小企業・経営研究所 企業支援担当特別研究所員

福田 尚好(ふくだ なおよし)

中小企業診断協会全国本部相談役(前会長)
大阪市立大学大学院経営学研究科修士課程修了