座談会

産業界や地域のハブ機能と、課題解決を担うプラットフォーム機能。大経大が商都大阪に果たす役割を考える。(前編)

100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は社会実践ビジョンをテーマに、ビジネス社会や地域社会と大学との接点となる部署の方たちが学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、大阪経済大学の社会実践の現状を具体的に検討しながら、その意義について考えました。


社会実践ビジョン

商都大阪の原動力となる

学内のリソースを一体化し、中小企業や経済団体、自治体といった学外機関をつなぐハブ機能と、
地域課題の解決を担うプラットフォーム機能を強化します。


今回の参加者

学長

山本 俊一郎さん

埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。

教育・研究支援・社会連携部

大塚 好晴さん

図書館・研究所事務課長として中小企業・経営研究所、日本経済史研究所の研究支援、中小企業との連携事業などを担当。中小企業診断士登録養成課程の運営にも携わる。

教育・研究支援・社会連携部

後藤 健治さん

図書館・研究所事務課。中小企業・経営研究所の研究支援、各自治体や企業との連携を中心に社会連携事業を担当。

学生部

辻 大輔さん

スポーツ・文化振興課長としてクラブ・サークル活動の活性化(する・みる・ささえる)を担当。その他、クラブ・サークル所属学生による地域支援・交流活動を企画・サポートする。

学生部

高石 航佑さん

スポーツ・文化振興課。クラブ学生が小学生にスポーツを教える「大経大キッズカレッジ」「出前授業」などを担当。

「学生とのコミュニケーションが持つ価値を考える」後藤 健治さん

——大阪経済大学が社会とどのようにつながっているのか、その現状を知らない方も多いと思います。まずは中小研から、社会とどのような関わりを持っておられるのかを教えてください。

大塚さん 中小研では従来からの研究所としての役割に加えて、今後は中小企業の支援や連携事業にも乗り出したいと考えています。現状はまだ、直接的な支援には至っておらず、中小企業が抱える課題に対応するようなセミナーを開催し、それを通じて悩みに応えているという状況です。

学長 研究ではむしろ、中小企業から教えてもらっていることが多いですよね。アドバイスやコンサルティングできるようなところまでいけばいいのですが。

大塚さん 事業承継をテーマに、現社長と後継者候補の息子さんなどが親子で参加するセミナーを開催したことがあります。ある親子は、息子さんに会社を継ぐ気が全くなく参加も積極的ではなかったのですが、講師の話を聞きディスカッションを重ね、親子でも自社について話す機会を持ったことで、後日、後継者としての道を歩むことに決めたと連絡がありました。1社ではありますが、そういう直接的な貢献ができたのはとてもうれしいことでした。

後藤さん 中小企業を支援する機関はたくさんありますから、大学ができる支援とは何なのかを常に意識しています。可能性としてあるのは、学生とのコミュニケーションです。中小企業の経営者は若い人と接するのを非常に喜ばれるので、学生が力になれることがあるのではないかと感じています。

辻さん 以前、社会連携を担当する別の部署にいた時、中小企業が持つ部品や材料の使途の説明を学生に行い、アイデアを出させて、それを職人さんが商品開発し、メイドイン大阪で売り出そうという企画がありました。職人さんは、技術はあっても発想が固まってしまっているところがあり、それを学生の柔軟な思考でカバーしようというねらいでした。

大塚さん 中小企業、零細企業に入社したいという学生は多くはないでしょうが、企業が抱えている課題を在学中に一緒に考え、中小企業の実態を知っているということは社会に出た後の強みになり、学生にとっても意味のあることですよね。

辻さん メイドイン大阪企画は残念ながら実現には至りませんでしたが、大阪中小企業診断士会との連携事業として、中小企業の国際化支援や留学生と中小企業をマッチングする「関西をげんきにする国際フォーラム」を開催するなど、面白い企画がいくつかありました。

学長 最終形態まで持っていくというのは、非常に難しいでしょうね。でも、実現できなくても、プロセスが大事。若い人と話したいという中小企業のニーズは確かにあると思います。若い人と話すだけで、何か得られるのではないか、という期待感がある。普段接する機会のない人と話をするだけでも刺激になるでしょう。大学として何か支援をしよう、とおこがましく考えなくても、学生と話す機会を設けるだけでもいいのかもしれませんね。

後藤さん 大学には二十歳前後の若い人がいるというのは、12年後の100周年になっても変わらないでしょうから。

学長 学生に限らず、私たち大学の中にいる者にとっては当たり前でも、社会にとっては意外に役立つ特長になるということもあり得ますね。

「中小企業支援の新しい形を追求していきたい」大塚 好晴さん

——学生が産学連携に関わった事例もあったとうかがっています。

大塚さん 町工場が情報共有し、互いの技術を高め合うために協働するオープンイノベーション拠点「ガレージミナト」という機構が大阪市港区にあるのですが、そこの方が第一号商品である野球のティースタンド開発に協力して欲しいと、本学に相談に来られたのです。一般的なティースタンドにはできなかった下方向から打つことができるという画期的な機能を持った商品で、実際に野球部が導入してその使い心地をフィードバックし、開発に役立ててもらいました。うちのような文系大学の学生が町工場を就職先として考えることはほとんどありません。しかし、商品開発などに携わることで、町工場の持つ技術力を知ることができると思います。

後藤さん 企画段階からうちに声をかけてもらって、うまくいった事例を授業に還元するといった流れができれば理想的ですよね。今後も、スポーツ分野などで一から商品を開発してビジネス化するといった形で連携できないかと思います。

大塚さん ガレージミナトの方も、いいものをつくっても、どうやったら売れるのかという知識や視点が足りないのが課題だと仰っていました。こういう企業に対して、先生や学生がマーケティング的な視点で販路や販売戦略を一緒に考える、といったことは社会科学系の大学における連携のひとつの形になると思います。

学長 社会科学系の学部との産学連携は難しいと思われがちですが、企業とはまた違った発想でマーケティングや市場調査をお手伝いするなどの連携も考えられます。もっと産学連携のニーズを掘り起こしていく必要がありそうですね。

大塚さん 中小研を持つ本学の特色を生かすという意味では、2019年2月に開講した中小企業診断士登録養成課程にも一つの可能性があると思います。中小企業診断士とは、企業の経営状態を診断しコンサルティングなど直接的に支援するための国家資格です。もともと非常勤講師や客員教授として先生方に来ていただいていたご縁もあって大阪府中小企業診断協会との連携が実現しスタートしました。定員を大幅に超える社会人の方々にご応募いただき、昨年は24名が受講されました。可能性と言ったのは、修了生の方々に中小企業の経営相談やコンサルティングに携わってもらうことで、中小企業の経営課題の解決に向けた直接的なお手伝いができるようになるかもしれないからです。また、修了生の方々は、一期生ということもあるかもしれませんが非常に帰属意識が高い。修了生の組織化を独自の形で進めることで、中小企業支援の新しい形を追求していきたいですね。

「学生が自発的に地域と関わりたいと思えることが大切」高石 航佑さん

——スポーツ・文化振興課では地域社会との接点を持っていらっしゃるわけですが、最近の取り組みを教えてください。

辻さん 本学は、2018年4月にスポーツ・文化センター(以下、KSCC)を開設し、学生の学びとクラブ活動、クラブ活動と地域貢献・社会貢献を結びつけるさまざまな取り組みを行っています。中でも「大経大キッズカレッジ(以下、キッズカレッジ)」と「出前授業」は、主要な行事であり人気も高いです。

高石さん キッズカレッジは、本学のグラウンドや体育館に近隣の小学生を招待して行っているスポーツ教室です。出前授業は、反対に、地域の小中学校から依頼を受けてクラブに所属する学生が指導に出向く活動です。両方とも、実施内容の企画から当日の運営、講師にいたるまでクラブ学生が中心となって活動しており、学生の成長にもつながっています。そのほか、CBS文化放送局が病院のコンサートの司会をしたり、吹奏楽総部が小学校での演奏会を行ったり、地域の団体などからクラブにオファーがあれば応えています。

辻さん 学生を安価な労働力ととらえているような依頼はもちろんお断りしますが、学生にとってもメリットがあるような依頼は喜んでお受けしています。基本的にはクラブが受けるかどうか選ぶのですが、今まで依頼を断ったところはありませんね。そういうのをやりたいというクラブは多いです。

高石さん ほとんどの学生はやりがいを感じて取り組みますし、終わった後もまたやりたいと言ってくれます。事前に企画や運営プランの立案の相談に乗り、マナーについてのレクチャーなども行いますが、こんな教室にしたい、と学生が自発的に取り組めるよう心がけています。

辻さん 参加したクラブ指導者によると、普段は目立たない学生が前に立って指導したり、子どもの立場に立って考えることができたりなど、学生の新たな面を発見できるそうです。

大塚さん 直接、地域社会と関わることで、自分でも気づいていなかった適性や、やりたいことに気づくことができるのかもしれません。

辻さん KSCCとしては、7,700人の学生を学内に留まらせておくのはもったいないので、若者のチカラを地域にどんどん動員していきたいと思っています。学生自身に、なぜ地域貢献を自分たちがやるのか理解してもらい、意欲をもって、自主的に取り組んでもらえるように導くことが僕らの仕事だと思っています。

大塚さん 自分たちがやっていることが、誰かに喜んでもらえている、役に立っていると思えることが大事なんでしょうね。

学長 これまでの取り組みから、地域との関係が変わってきたなと感じるようなことはありますか。

辻さん 2006年から連携協定を結んでいる東淀川区をはじめ、つながりを深めている地域からは信頼をいただいているという実感があります。どれだけ、地域の人と直に話をして関係性をつくれているかが大切なのではないでしょうか。

高石さん キッズカレッジの際には多くの保護者が学内に来られ、参加者の表情やアンケート結果を見てもよい印象を持ってもらっているようです。親しみを感じていただくチャンスにはなっていると思います。

辻さん 学生さん、親切でいい感じだったよと、そんな評価につながればうれしいですし、最終的には地域の方に「大経大の学生さん」と愛着を持ってもらいたいです。地域に根ざし、受け入れられ、地域から必要とされる大学になっていくためには、足元をしっかりと固めることが大事だと思います。

学長 顔が見える関係、ですね。

辻さん 学長は大桐のお祭りなどにも参加されていますが、毎年、続けておられることがとても大事なことだと思います。

「地域がキャンパス、地域全体で学生を育てていく」辻 大輔さん

——ビジョンには「地域の課題解決」という視点が盛り込まれています。その意味では、どのような社会実践の方向が考えられるでしょうか。

辻さん KSCCでは、大阪府能勢町からの依頼で児童・生徒の運動能力低下を防ぐ体操を提案し、今では町ぐるみの体力向上活動へと発展しています。これは、過疎化が進んで通学バスを導入したことによる子どもたちの体力低下という課題に応えたものです。また、今年度、大阪市経済戦略局との連携協定も締結しました。

後藤さん 経済戦略局との協定締結をきっかけに、大阪・関西万博やワールドマスターズゲーム2021関西など、大阪のビッグイベントに大学が協力できれば理想的ですよね。

辻さん 学長と市長さんに対談してもらうとか、いいんじゃないでしょうか。

学長 学生が市長と話すというのもいいですね。

大塚さん 地域連携では、地域に役立つことが学生の教育にもつながります。近年は地方との連携も進めていますが、都市圏の大学だからこそ、地方の生活に触れ課題に取り組むことが、学生にとっても大切な経験になると思います。2015年度からは兵庫県豊岡市合橋地区とスタディツアーなどを通じて交流を続けていますし、2020年1月末には和歌山県白浜町と協定を結びました。

学長 正課でも課外でも、学生に貴重な体験を提供できるわけですね。

高石さん キッズカレッジでも、何をするかは当日の指導も含めてゼロから考えさせるという点に意義があると思います。

辻さん 正課と課外という分け方がだんだんなくなってきて、すべて教育の一環としてとらえられるようになってきています。

学長 ボランティア活動にも単位を出すなど、課外活動も授業と同じように重要性を認めようという方向になってきていますよね。

大塚さん 今まで地域連携は、積極的に地域に出ていかれる先生の尽力にかかっていた部分があり、その先生がおられなくなると連携が止まってしまうということもありました。正課、課外を問わず、組織として受け止める体制や仕組みが必要だと感じます。キャンパス内で出会うほとんどが18歳から22歳で、大阪や兵庫出身の学生が大部分です。だからこそ、どんな人と出会うかわからない学外に飛び出して経験を積むことが、社会に出る準備として必要ではないでしょうか。学生はどんどん社会に出ていかなければならないし、私たちはそういう場づくりをしていかないといけないと思います。

学長 うちのような規模の大きくない大学には、地域貢献や地域連携を積極的にやっていくことはとても重要だと思います。多様な価値観が目の前で交じり合っていく体験を通して、ミッションにもある「創発する場」を実現していくことができるからです。

——社会実践の具体的な取組みや意義について語り合うことができました。後編では、それをより充実させていくための課題や社会との連携の仕方について考えていきます。


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