座談会

主体的に学ぶ姿勢をはぐくむために教員・職員それぞれが何に取り組み、学生とどう向き合うべきかを考える。(前編)

100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は教育ビジョンをテーマに、各学部の教員と教育や学習支援に関わる部署で働く職員が学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、教員や職員とは学生にとってどのような存在なのか、今の学生に必要な教育とは何かなど、それぞれの教育観を語り合いながら今後の教育の方向性に対する考えを確認しました。

教育ビジョン

自らの学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。


今回の参加者

学長

山本 俊一郎さん

埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。

経済学部

閻 立さん

経済学部教授。日本経済史研究所所長。専門は近代日中関係。日中交流史、中国近現代史、中国語を担当。

経営学部

高原 龍二さん

経営学部教授。専門は産業組織心理学。組織調査演習、行動科学実験法、リーダーシップ論を担当。民間の調査研究機関で働いた経験を持つ。

情報社会学部

岩佐 托朗さん

情報社会学部准教授。専門は日欧比較文明・比較文化。ヨーロッパ研究、国際社会論、TOEICⅡを担当。グローバル企業に勤務後、フランスで修士号、イタリアで博士号取得。

人間科学部

田島 良輝さん

人間科学部准教授。専門はスポーツとまちづくり。スポーツ社会学、地域スポーツ論を担当。ゼミではスポーツの現場に出かけ体験的な学びを重視。

SCTL(教育・学習支援センター)

荒川 崇さん

教育・研究支援・社会連携部教育・学習支援センター(SCTL)。教学IR、FDなど教学マネジメント支援、入学前教育、授業支援、学生支援などを担当。

教務部

矢島 克也さん

教務部教務一課。学籍や試験成績業務を経て、現在はカリキュラム改革支援、授業時間割編成、履修管理(履修割当・登録)などを担当。

「教員には『待つ』『許す』ゆとりが必要」田島 良輝さん

——まず、学生と教員の関わり方という面から考えていきたいと思います。ご自身の学生時代も振り返ってお聞かせいただけますか。

荒川さん 学生時代は金融のゼミに入っていました。8人のメンバーと週に一度ゼミの時間に顔を合わせ、たまに飲み会をする程度。指導教員とも特に密なコミュニケーションはなかったですね。魅力のある人柄の先生でしたが、卒業後はほとんど関わりがなく、気づいた時には引退しておられました。

田島さん 私の先生はいい意味で放牧主義、学生が気づき動きだすのを待ってくれ、間違いもまずは許容してくれました。忍耐力があったと思います。それに比べて今の私は、卒論の締め切り間近になれば、つい赤字で添削し答えを言ってしまう。学生の主体性を引き出すためには、もっと待つということも大切だなと思っています。教員には、時間的にも余裕が必要です。教職協働を含め、制度的なところを変えていかなければならない面があるのではないでしょうか。

閻さん 私は留学生時代、恩師から「歴史は解釈。僕とあなたの解釈は違うので、資料をこう読めとは指導できない。感性を磨いて、悟ってください」と言われました(笑)。評価も厳しくて、論文をなかなか通してくれませんでしたね。どの学生にもそのやり方がいいわけではないと思います。学生にはいろんな可能性があるので、ゼミの2年半でそれをできるだけ伸ばしてあげたい。早めに論文のテーマ決めに取りかかるのもそのためです。自分の関心を自分で見つけるところに十分時間をかけています。

高原さん 私の学部時代の指導教員も、完全な放任主義でした。国立大学のゼミにしては1学年20人を超える大人数で、指導教員は「私に名前を憶えてほしければ、大学院まで来てください」と言っていました。卒論の指導もほとんどなくて、好きにやれと。逆に言うと、自分でやらないとどうしようもない状況におかれていたので、自然と各自やりたいことを一生懸命やるようになりました。なかなか面白いテーマが多くて、例えば臨死体験の研究がしたいと、自分のお金で新聞広告を出して体験者にインタビューしてまわったやつとかいます。今、学生に「どうしたらいいですか」とよく聞かれるので、「どうもしなくてもいい、私が困るわけではないから」と返しています。できるだけ、自分で考えるように、たとえば「こうしたいのだが、それでいいか」というような聞き方をするように仕向けています。

田島さん 今の大学は手取り足取りですからね。本学も、私が来た時と今とを比較すると、良くも悪くも、面倒見のよい方向に進んでいるような気がします。

岩佐さん 私は、心から尊敬する2人の恩師に出会い大きな影響を受けました。大学時代のゼミでは、デンマークに関する論文を書こうとデンマーク語の文献を探しましたが、日本中どこにもありませんでした。指導教授に「僕ならデンマークに行って探す」と言われ、親に飛行機代を借金してデンマークに行き必死に文献を探しました。一方、社会人を経て進学したイタリアの大学院では、考えても考えてもどうにもわからなくて指導教員に相談に行ったところ、「何をしたらいいのか私に聞くな」と強烈な一言を返されました。博士課程なのだから、言われてみれば当然のことです。心に甘えがあった自分に気づき、必死に行動しないと、と心に火が点きました。やはり先生の影響は学生にとってとても大きいものです。本学には真面目で素直な学生が多く、吸収する余地はたくさんある。働きかけ次第で大きく成長します。同時に、待ちの姿勢の学生も多い。自分は学生に何ができるのか、どうすれば学生にヒントや刺激を与え、やる気に火をつけられるのかを常に考えています。

「強い影響力を持った教員になれているか」岩佐 托朗さん

矢島さん 岩佐先生がおっしゃった、先生の影響力は大きいというのを私も感じます。私にとって大学での一番の思い出は、人生の師のような先生と出会ったことです。ゼミの先生ではありませんでしたが、週に1度、自宅を開放して読書会を開いておられ、常に誰でも歓迎しておられました。卒業後にすぐ就職せずに町工場で働いたり、イタリアに滞在して気ままをしていた私に、声をかけ自宅に招いてくれたこともあります。私が人生の進路に悩んでいることに気づかれていたのだと思います。悩みや困りごとがあるような一番大変な時にこそ寄り添ってくれる先生で、私の人生全体に影響を与えてくれました。

学長 私にも人生の師がいます。ゼミの指導教授でした。語学が堪能で、豊かな知識を与えてくれるだけでなく、何でも受け止めてくれる。私がよく口にする、柔軟性や寛容が大切という考え方はその先生から学びました。研究室の隣にあるゼミ室にずっと入り浸って、週に1度ぐらい必ず飲みに行っていました。でも、勉強はあまり教わっていません。その先生の近くにいたくて修士課程まで進みましたが、諸事情で博士課程は別の大学院に進みました。修士で勉強していなかった分、博士課程では最初の1年、相当しごかれました。とても厳しい先生がいて、その人を見返そうと頑張ったから今があります。教員といっても、いろんな教えのパターンがありますよね。

岩佐さん 私も、大学時代の先生に心酔していたからこそ、論文を頑張って書き切ることが出来ました。お二人も私も感化される強烈な先生がいて、その先生に近づきたいと感じたり憧れを持ったわけですよね。一方、果たして今、自分がそんな教員になれているのかと考えてしまいます。

田島さん 大きなインパクトを学生に残せるかというと、そんなことはできていないと私も感じます。一方で、今は、一人の先生の圧倒的な影響力というよりは、大学全体で何かを残していかないといけない時代であるとも思います。たとえば部活動やその他の課外活動も含めて、何かひとつでも学生の心にインパクトを残すためには、いろんな経験ができる接点(きっかけ)をたくさん作っていくことが必要ではないでしょうか。私にとっては、所属していたソフトボール部で海外遠征に行ったことが強く印象に残っていて、何十年経っても仲間たちと昨日の事のように話しています。

矢島さん 確かにそうですね。私の場合、先ほどの恩師と同じぐらい寮生活にも影響を受け、たくさんの思い出ができました。2人部屋の相手は上級生か留学生かのどちらかと決まっていて、ミーティングでは日本語と英語の両方で話さなければならないなど、生活の中でさまざまな学びや今でも続く人間関係を得る機会がありました。

「ひとり一人違う成長の軌跡を感じられる面白さ」荒川 崇さん

——日頃から学生と接する中で実感されておられる、教育という仕事の魅力ややりがいについてお聞かせください。

荒川さん 以前、教務部にいたのですが、履修相談に来る学生というのはだんだんと固定化していきます。毎年、毎学期、相談に来て、その内容が変化してくるところが魅力ですね。関心が広がってきたなとか、就職活動を意識してきたなとか年を追うごとに成長を感じるし、徐々に心を開いていろいろな話をしてくれる中で、彼らの生きてきた人生を感じられるのはとても面白い。そこに、私自身が少しでも関わっていると思うとやりがいを感じます。教育というより、学生と関わる面白さでしょうか。卒業後も何人かとは連絡を取っていて、近況報告をしてくれます。

岩佐さん 教員より職員さんの方が、卒業後も連絡を取るというのは聞きますね。ちょっと、ショックではありますが(笑)。学生は、教務とか進路支援とか、困っていることの数多くを職員さんに相談している。職員さんの力は本当に大きいですよ。

田島さん 昔は教員の役割だったのかもしれませんが、今は教員と職員とがそれぞれいろいろな接点をつくらないといけないのだと感じます。チームで学生を育てていくということですね。

高原さん 企業でも直接の評価者ではなく、メンター制度など利害関係のない人が面倒を見るという仕組みを取り入れているところがあります。私はスクールカウンセラーの経験がありますが、カウンセラーに相談したいことと先生に相談したいことは同じとは限りません。教員に聞けないことを、職員さんが聞いてあげるというのは大切なことです。

岩佐さん 私は、教育という仕事には、大きなやりがいを感じています。いろんな問題を抱えてやる気が全く出せないような学生もいて大変なこともありますが、それぞれに違う一人の人間として向き合うことで鍛えられ、こちらも成長させてもらっています。

田島さん 確かに日常は腹の立つことも多いのですが(笑)、基本的には学生と接し、彼らが変わっていく姿を見ることが好きなのだろうと思います。とくに成長を感じるのは、4年生に卒論の進め方やゼミ活動などについて下級生に話をしてもらう時です。2、3年次にはやらされ感でいっぱいで一つの方向からしか見られなかった学生が、「いろんな視点で見ていくのがいい」とかアドバイスをしているのを聞くと、多面的な見方ができるようになったんだな、相手ベースで話ができるようになったなと嬉しくなります。

「20~30年後に花開くことをめざすのが教育」高原 龍二さん

高原さん 教育は、成果明瞭性が低い、すなわち成果がはっきりと感じ取れない仕事です。いろいろやった結果が後になって、学生がそれを身につけておいて役に立ったとなって、初めて本当のやりがいになると思います。もちろん、短期的に、教えたことを生かして学生たちが何かができるようになった姿を見るのも楽しいのですが、そこで満足するのではなく、最終的に20~30年後に花開くことを目指してやらなければならないと感じます。教えたことを学生が社会で使えてなんぼ、というところがあると思います。一歩目くらいですが、ゼミの卒業生が就職した会社でアンケートが配られた際に、「仮説は何ですか」「仮説もないのに調査やったらダメですよ」と担当者に言ったという話を聞いて、「ようやった」と。

矢島さん 高原先生の言うように、教育の成果が出てくるのは先のこと。私は自分の先生に「きみたちはワインだ。時間を経て熟成するはずなので、焦らないでほしい」とよく言われました。しかし窓口には、入学直後から資格の相談にくる学生がいて、成長に対してすごく焦っているように見えます。親や世間の影響を受けているのもあるでしょう。すぐに成長を求めていくのか、20年経って花開くように長期に使える考え方や分析能力を身につけさせる方がいいのか、カリキュラムを考えていくにあたっては、もっといろんな方と議論をしていきたいと感じますね。

荒川さん 学生といっても、本当に様々です。履修登録でてこずるような学生がいる反面、今の部署には、自分で考えて行動できる学生たちが雑談がてらによく訪れます。そういう学生層の違いは気になるところです。

矢島さん ゼミ大会に全てをかけて打ち込む学生もいるし、課外活動と学習を両立させるなど学びに貪欲な学生たちの活躍を見ると頭が下がります。時代に応じた学生の傾向をつかむ議論も必要ですが、単純にひとまとめにしてしまわないよう注意も必要だと思います。

高原さん 確かに、飛び抜けてできる学生はいます。一度、私の授業を受けた学生の書いた優れたレポートを許可を得て後輩の院生に見せたら、優秀な研究者の卵であるその院生でも学部のレポートでここまで努力することはなかったと話していました。

田島さん 偏差値の学力レベルが、実際の学生像と合致しているかどうかですね。以前勤めていた地方大学は、優秀な学生もいれば厳しい学生もいて、偏差値が反映されていないと感じました。本学も、人間科学部は幅がありそうな印象があります。幅広い学生がいれば、カリキュラムをつくる際にも、オーダーメイドにすべきかどうかなど、いろいろな論点が出てくるでしょう。まずは実態を知る必要がありそうです。

学長 学部によって差はあるでしょうね。経済学部はだんだんと画一化してきた感じがします。総じておとなしく、やんちゃな感じの学生は減っています。以前、地域政策学科で入試を担当していた頃は、勉強には興味なくても地域での活動はとても好きとか、いわゆるキャラが立った学生が一定数いました。誰もが同じように真面目だと個性が見えづらいし、やらない学生でも真面目そうに見えてしまい、やっていないことに気づきにくいということはあります。

「問いかけを続けてロジカルな思考を鍛える」閻 立さん

——社会が求めるものや学生の変化に合わせて、教育はどのようにアップデートしていけばいいのでしょうか。ご意見をお聞かせください。

高原さん 大学教員の場合、教育の背景には研究があると思います。研究を行い、その専門知識に基づいて学生に教えることで授業も向上していきます。私の場合は、調査や実験がメインの研究手法です。そこで得られた知見を、学生にとって身近なことにあてはめ、実証的に理解させるといった授業を行っています。たとえば、リーダーシップの評定は自分自身では行えないということを理解させるために、自分のバイト先の上司の評定と自分の評定を両方やらせて比較させるといったことです。

田島さん 今、受け身の学生が多くなっているので、私は学生を当事者にすることを意識しています。たとえば、青年会議所などと共同で幼稚園のグラウンドを芝生化する活動をやっていたのですが、学生に広報係など何か担当を任せ、やらざるを得ない環境をつくってしまうのです。教えることだけでなく、そのような自ら学ぶ場を設定することが大切なのかなと思います。また、オープンキャンパスで高校生に大学の学びについて話したり、下級生にインターンシップの体験談を話すなど、自分が必要とされていると感じられる経験も当事者になることにつながると思います。職員さんと話すことがきっかけになる学生もいるでしょう。いろんな接点づくりが必要ではないでしょうか。

岩佐さん 私が方法論として取り入れているのは、しっかり予習をさせ、授業中は何十もの質問を投げかけ学生自らにたえず考えさせることです。また、教員がパワーポイントを使ってあらかじめ要点をまとめて伝えるのではなく、学生が自分の力で聞き取りノートにまとめることを奨励しています。両方とも、社会人になった時に必要な力を身につける手段だと考えているからです。ただ、教育に決まったスキルはないとも思います。また、情報社会学部の創設者である高松亨先生に「大人としてのゆとりのある人間になることが大切だ」と言われたことがあります。人としての器が大きければ、学生のさまざまなことを受け止められるでしょう。学生はとても敏感なので、この先生の熱意はこの程度なんだというような評価を常に下しています。教員は、研究して知識を広げることはもちろん、人間力も成長させないといけないと思いますね。

閻さん 歴史の分野では、とくに因果関係が重要です。だから授業とゼミのキーワードは「なぜ」。発表をしてもらったら、聞いていた学生にどんどん質問させます。「なぜそうなったのか」「他の可能性はなかったのか」「あなたはそれについてどう思っているのか」。それに答えながら根拠を意識し、質問を予測して話すことや、物事を考える時の自分なりのロジックを感覚的に身につけてほしいと考えています。

学長 私自身は、教育スキルをどこかで学んだという記憶はないんです。誰かのやり方を踏襲したり、自分で模索しながらつくってきたというか。15年前の授業は淡々と知識を述べているだけで、その時の学生には申し訳ないと思うぐらいです。

「『学び』への関心を喚起していく方策を職員も一緒に考えていく」矢島 克也さん

岩佐さん 教えるより、「育てる:はぐくむ」ことのほうが大切だと考えています。前学長の徳永光俊先生が「そっと手を添えじっと待つ」と何度もおっしゃっていましたが、自分で育ってもらうように導くということではないでしょうか。

荒川さん 教員中心主義から学生中心主義へという流れの中で、双方向とかアクティブラーニングとか様々なことが言われていますが、それがすべてということではないでしょう。学生が自ら考える、考えに気づかせるような仕掛けや仕組みは必要ですが、そのことと、無理して授業を変えていくということとは違うと思います。

学長 知的好奇心を刺激できているのかどうかが大事だと思います。教科書とノートからパワーポイントに変わっても、好奇心がかきたてられなければ意味がない。もちろん方法論は変わっていっていいのですが、スキルだけに関心を向けるのはどうでしょうか。研究自体の中身が面白ければ、授業でそれが伝わります。本質的な部分を充実させることが重要ではないでしょうか。

矢島さん 大学時代の先生で、劇場で劇を見ているようなとても面白い授業をする人がいました。たぶん毎年、授業内容自体をそれほど見直してはおられなかったと思うのですが、それでも学生は刺激を受けていました。研究の蓄積は授業に自ずから反映されるものだと思いますが、さらに「学び」への関心を喚起していく方策については、職員も一緒にサポートしながら考えていくことが必要なのかもしれません。先生方も職員も、それぞれの立場から教育を担っているという意識を持たないといけないと思います。

——現代の教育に必要な姿勢や方法などについて方向性が見えてきました。後編では、本学の現状を見ながら「自ら学びをデザインする学生」を生み出すためにどのようなことが必要なのかを話し合います。

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