座談会

胸を張って語れる経験を。「大樟祭」実行委員会メンバーがつかんだリーダー像やチームの力。

本学では2024年10月25日から27日の3日間にわたり、大学祭「大樟祭」を開催しました。「大樟祭」の企画・運営は、学生の中から公募で集まった実行委員会のメンバーが行っています。今年度は89人の学生が実行委員会に参加しました。約半年間、多くの人と関わって大学祭をつくり上げた学生たちは、どのようなきっかけで活動に参加し、どのような経験を重ねていったのでしょうか。実行委員会の幹部メンバーと、取り組みをサポートした学生部職員に話を聞きました。


教育ビジョン

自ら学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

お話を伺った方

長谷川 慶人さん

人間科学部3年生。大樟祭実行会委員長。できるだけ活動の中心で力を発揮したいと考える、高い意欲の持ち主。

山中 京美さん

経営学部3年生。大樟祭実行委員会副委員長。メンバーが楽しくスムーズに活動できる組織づくりをめざす。

森 優凪さん 

経営学部3年生。大樟祭実行委員会副委員長。みんなにライブの楽しさを体感してほしいとの思いを持ち、活動に尽力。

久郷 健さん 

学生部スポーツ・文化振興課職員。約10年前から大学祭の運営業務に携わる。クラブ・サークル活動の支援業務なども担当。

萩原 槙さん 

学生部スポーツ・文化振興課職員。「キッズカレッジ」や出前授業など地域貢献関連業務、他大学との交流イベント運営などを行う。

学生主体でつくりあげる大学祭。3年目のチャレンジ

――「大樟祭」実行委員会に参加したきっかけや、皆さんの役割を教えてください。

長谷川 先輩が教室に実行委員の勧誘に来られたのをきっかけに興味を持ち、2年生から参加しています。3年生が委員会の中心となる今年度は、委員会の中で自分の力を最大限に発揮したいと考えて委員長に立候補し、就任しました。

山中 長谷川君と同じく、2年生から実行委員会の一員です。大学生活をもっと楽しめる何かがしたいと思ったのが参加の動機です。はじめは、周りの友だちに一緒にやってみよう!と声をかけても「そういうのはちょっと…」という子が多く、私自身も一度あきらめていたんです。でも、偶然友だちが声をかけてくれて、一緒に参加しました。今年は先輩の推薦で副委員長に。実行委員会内の「学内企画部」「学外企画部」「広報」の3つの組織のうち、学生による模擬店、ステージ企画などを統括するチーム「学内企画部」のリーダーでもあります。

 山中さんに誘われ、2年生から参加しています。人前に出るのはちょっと苦手なのですが、前に出る人たちを舞台裏で支える運営側の仕事が好きで、今年は副委員長、「学外企画部」のリーダーを務めました。

萩原 学生部の業務の一つとして、実行委員会のサポートを行っています。委員会メンバーからの報告や相談、他部署への連絡・確認などパイプ役も担っています。

久郷 約10年前から実行委員会の業務に携わっています。以前はクラブ活動の上部組織に所属する学生たちが実行委員を務めていましたが、義務的な取り組み姿勢になってしまいがちで、毎年同じようなプログラムが繰り返されていました。そこで、2022年から実行委員を公募制へと変更しました。自ら志望した学生たちのモチベーションは高く、飛躍的に企画内容が充実しましたね。公募制初年度は50~60人だった実行委員数も年々増え、3年目の今年は90人近い学生が集まってくれました。

――どのような思いで「大樟祭」の準備に取り組みましたか。

長谷川 実行委員会で決定した今年の学祭スローガンは、「大経の霹靂~笑う学祭には福来たる~」。みんなの生活に刺激を与え、楽しめる学祭にしたいという思いがこめられています。実行委員の中では、カーニバルのように盛り上がってやっていこうという共通意識を持って活動していました。まず自分たちが盛り上がらないと、みんなに楽しんでもらえる学祭はつくることができないと考えたからです。昨年の学祭との差別化も意識しましたね。よりパワーアップした企画や新しい企画を実施したいという意気込みを持っていました。

山中 多くの実行委員主催のイベント企画を考えたのが「学内企画部」パートのメンバーです。新しいメンバーが多く加わってくれたので、昨年とはまた違うアイデアが出ると期待していました。昨年も実行委員を務めた時の経験を踏まえ、見ている人、参加する人が楽しめるという視点を第一に企画を考えてほしいとメンバーには伝えました。

長谷川 僕も委員長としてたくさんの報告を受ける立場だったけれど、みんなとしっかり対話する姿勢を大切にしようと思っていました。どうすればもっとおもしろくなるか、見落としている注意点はないか、みんなの考えをよりいいものにできるように考えて意見を出し、アシストしていこうと努めました。フォトスポット「光のアート」のほか「ベガスハウス」「VRお化け屋敷」といった新企画が生まれ、当日も盛り上がりました。とくに、ルーレットやブラックジャックなどのゲームにチャレンジし、ポイントを競い合う「ベガスハウス」は一日中、大盛況でした!

ステージイベントで活躍する実行委員たち。企画、準備、本番といった一通りを経験することが自信にもつながる
新企画「光のアート」。幻想的な世界観のフォトスポットをつくり上げた

久郷 2000部用意したパンフレットが途中で足りなくなるほど、外部からも多くの方に来場していただきましたね。

森 「学外企画部」チームは、ゲストアーティスト、模擬店およびパンフレットの広告出稿に協力してくださる協賛企業の窓口として、協力依頼や打合せを担当。ロックバンド「フレデリック」のライブイベントでは、学祭ならではの演出で楽しんでほしいと考え、観客の皆さんにメッセージを書いてもらう横断幕を用意しました。余白がなくなるくらいたくさんのメッセージが寄せられ、終演後にアーティストにお渡ししました。ライブも大成功で、みんなに喜んでもらえてうれしかったです!主に学外の人と関わるチームなので、一番気をつけたのは丁寧な対応ですね。私たちの対応次第で、本学のイメージを悪くしてしまいかねないとプレッシャーを感じることも。来年以降も協力していただけるように、言葉づかいなど細かいところまで気をつけました。

ライブが大好きだという森さん(写真右)。「大樟祭は好きなことを活かすチャンス」としても意気込んだ。そんな熱い学生たちの様子をみて「初心に戻った」という学生部職員の久郷さん

萩原 本学に対する評価まで考え、責任感を持って取り組んでくれたことに感心しました。 私も初心に戻り、そのような気持ちを忘れずに、日々の業務に取り組まなければ、と改めて気づかされましたね。

久郷 同感です! そうした森さんたちの頑張りがあり、昨年度よりも多い19店舗・企業が協賛してくださいました。

試行錯誤しながらリーダーとしての役割を模索

――活動の中で大変だったことは? どのように乗り越えましたか。

長谷川 たくさんのメンバーが関わるので、当然、異なる意見が出ることが多くあります。とくに予算配分では部署ごとに企画に対するこだわりが強く、どうやって議論を決着させるのかが最大の悩みどころでした。誰もが納得いく結論を出すのは難しいけれど、部署は違っても同じ実行委員の仲間なのだから、お互いに譲り合って協力して活動していこうという思いを大切にしながら、話し合いを進めていました。

最終的にはみんなの意見を踏まえて委員長として決断しましたが、本当に自分の判断が正しいのか迷いを感じることも多かったです。自分の考えをうまく言語化できていれば、もっと話し合いがスムーズにできたのではないかという反省点も。今、振り返ってみても、ベストな発言・行動・判断ができていたのかわからないけれど、こうした経験を糧にしてこれからも自分なりに模索し、いろんな事に取り組んでいきたいと思っています。

山中 実行委員全体のまとめ役を担う長谷川君は、苦労しながらもみんなの意見を聞いてがんばってくれていたと思います。長谷川君と違って自らリーダーをめざしていなかった私の場合、活動がスタートした当初はリーダーとしての意識が希薄でしたね。活動する中で少しずつ、どうすれば円滑に仕事が進むのか、考えられるようになりました。とくに意識したのはメンバーが考えたアイデアを頭から否定しないこと。そのまま採用できなかったとしても、そのアイデアを軸にして改善点などアドバイスしながら企画をつくり上げていきました。

「昨年は先輩に指示されたことしかできなかった」という山中さん(写真左)だが、今回は周囲の支えもあり大役を果たした。実行委員の活動は「さまざまな壁を乗り越え、今後の人生にも活かされる経験ができる場」と話す学生部職員の萩原さん

萩原 「学内企画部」は仕事の種類も量も多く、進捗状況を把握するのが大変そうでしたね。企画が実現可能かどうか大学側のルールを確認する必要もあり、毎日頻繁にチャットで学生部とやりとりしてくれていました。

山中 職員の方々は親身に相談にのってくださり、必要なタイミングで状況確認もしていただいたので、とても助かりました!そして、部署内の班リーダーもそれぞれ責任を持って役割を担ってくれたから、たくさんの仕事をやり遂げられたと思っています。

 やっぱりチームで力を合わせるのが大事ですよね。私は、人に仕事を割り振るよりも自分でやった方が早いと思い、仕事を抱えすぎて途中で体調を崩してしまいました。委員長や幹部メンバーから「リーダーの仕事はメンバーの力を活かすこと」といった助言もあり、考え方を変えました。すると、任せたらしっかりと仕事をしてくれるし、自分だけの力でやるよりも良いものができると気づけました。リーダーとして力不足な部分もあったけれど、私が間違っていると思ったらきちんと指摘してくれるメンバーもいて、仲間にはたくさん助けられました。一度失敗したからこそ、チーム力の大切さを実感できました。

萩原 みんなの仕事ぶりを見ていて、幹部メンバーがどれだけ信頼されているか実感していました。ただ、全体としてはリーダーに頼りすぎている面もあるのではないかと感じるところがありましたね。実行委員会の立ち上げ時に、組織のあり方や各メンバーの役割についてあらかじめ話をしておけば、それぞれが自分のやるべき仕事を意識でき、リーダーが本来の仕事に専念できるようになるかもしれません。こうした学生への働きかけは、学生部の役割として検討していきたいと思います。

久郷 全員がはじめから主体的に行動できるわけじゃないですから、意識付けは必要ですね。何のために学祭を実施するのか、自分はなぜ実行委員になったのか、自問自答できるようになれば、自ずと行動も変わるでしょう。ただリーダーの指示をあおぐのではなく、「自分はこうしようと思うが、どうか」といった主体的な動きをメンバー一人ひとりができるのが理想の形です。

人との関わりの中で自己成長を図る学生たち

――実行委員の活動を振り返って自身が変化したことを教えてください。

山中 半年の活動を通じて、実行委員の仲間たちと深い関係性を築けたのが印象的。関係性が深まっていくと本音で話ができるようになり、良いチームがつくれたと思っています! 私自身、意見を言うのは苦手でしたが、リーダーを務めるからにはこのままではだめだと思って自分を変えることを意識し、自己表現できるようになりました。コロナ流行下で高校時代のイベントを十分に経験できなかった世代なので、こんな達成感を得られたのは初めて。忙しい日々だったけれど、大学生活の充実度は各段にアップしました。

 これまで学内のイベントに関わった経験はあったけれど、学外の人との交渉から当日の運営までほとんど学生だけでやり遂げられたのが私にとっての大きな経験。ライブを開催するにも、こんなに細かな準備が必要なんだと驚き、もっと簡単に考えていた自分の考えの甘さを痛感しました。“お客さま”側では気づけなかったことばかり。社会での仕事を疑似体験できて良かったと思っています。

長谷川 自分の一番の変化は、委員長としての姿勢です。活動当初は、自分と同じ熱量で取り組んでくれないメンバーに対してもどかしさを感じていました。でも、そんな独りよがりの考え方ではリーダーは務まりません。人にはそれぞれの考え方や常識、やり方があると気づいた時から、自分の中の当たり前を捨て、相手の意見を聞いた上で、より良い方向に進めるように働きかけることを心掛けました。自分が変わったことで、みんなの良さを引き出すことができたと感じています。自主的な行動が増え、新しい企画もたくさん生まれました。

「リーダーが先頭に立つよりも後方支援をする方が、メンバーが輝けると気づいた」という長谷川さん

久郷 長谷川君が話したように、他の人の価値観も取り入れながら共通のゴールに向かって活動した経験を成功体験として感じてくれたなら、実行委員会の取り組みは大成功。まさに、本学がめざしている「創発」につながる活動だと思います。私たち職員も、学祭という大きな目標に向かって本気で取り組んでいる実行委員のみんなを近くで見ていると、その前向きな熱意をもらって日々の業務に取り組もうと刺激を受けていましたよ。

萩原 今の「大樟祭」では小さな子どもたちが楽しめる企画もあり、学生が楽しむだけではなく、地域の人と大学をつなぐ場になっています。地域の人がもっと大経大を身近に感じてファンになってもらえるような企画が増えていけばいいですね。

久郷 学生部としては、学生たちが自分でつくり上げたという達成感を得てほしいと考え、できるだけ口出しせず、学生の主体的な活動を見守るというスタンスをとっています。大きなイベントなので学生に任せる不安もありましたが、今年度は当日も大きなトラブルが起こりませんでした。実行委員会の活動が成熟してきた証。現在は学内部署間の調整など学生部がサポートしている部分もまだ多くありますが、ほぼ実行委員会の力だけで準備・運営できるぐらいにまでなっていくことを今後、期待しています。大学4年間で最も力を注いだのは「大樟祭」実行委員の活動だと自信を持って言えるぐらい、学生にとって思い出深く、意義のある取り組みになってくれたらうれしいですね。

夜遅くまで念入りな準備や調整を重ねた
第三代、大樟祭実行委員会メンバー

長谷川 間違いなく、大学祭実行委員会は自己成長の機会を与えてくれる場です。悩んだり、後悔したり、いろいろな感情が僕自身の中にもありましたが、活動を通じて自分を成長させ、その力で学祭を成功させようという思いをメンバーから感じていたし、そうした思いが今年の「大樟祭」に表れていたと思います。後輩たちにもぜひ実行委員会に参加し、これからの「大樟祭」を盛り上げていってほしいです。

Hints for SOUHATSU

創発につながるヒント

実行委員の公募制導入をきっかけに、「大樟祭」は大きく変化しました。公募で集まった学生たちは高いモチベーションを持ち、企画内容も格段に充実。しかし、その過程は決して平坦ではありませんでした。今回登場してくれた学生たちは、それぞれが悩みながらも自分なりのリーダー像や仕事の進め方を模索し乗り越えていきました。職員の久郷さんは「さまざまな価値観の中で鍛えられることで、社会人基礎力が養われている。自信を持ってほしい」と話してくれました。一方で、学生たちの熱意、責任感は職員にも刺激を与えました。実行委員を学生主体の活動へと変容させることで、「創発」の場が生まれたのだと感じます。

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