社会人基礎力が身につくZEMI-1グランプリ。その価値とこれからの課題、役割を考える。

本学では、ゼミナール活動の成果発表の場として全学部対象のプレゼンテーション大会「ZEMI-1グランプリ(以下、ZEMI-1)」を実施しています。2010年にスタートし、2024年度で15回目を迎えました。発表テーマは自由。企業から招いた審査員の前で、チームを組んだゼミ生たちが日頃取り組んでいる活動の成果を発表し、その力を競い合います。今回は、山本俊一郎学長がZEMI-1に関わる教職員や、審査員を務めてくださる企業の方を招き、この取り組みが始まった経緯やこれまでに生み出してきた教育的価値に迫るほか、現時点での課題、将来像などについて意見交換を行いました。
教育ビジョン
自ら学びをデザインできる学生を生み出す
予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。
お話を伺った方
二本杉 剛さん
経済学部教授。専門は行動経済学。担当ゼミ生の多くが「ZEMI-1グランプリ」で好成績を残す。
恩田 誠さん
株式会社日興商会 取締役 経営企画本部 本部長 兼 人事部 部長。長く「ZEMI-1グランプリ」審査員を務める。
望月 久義さん
進路支援部長。学生に丁寧に向き合い、キャリア形成、就職活動をサポート。「ZEMI-1グランプリ」運営を担当する教務部長を経て現職。
安田 祥貴さん
教務部に所属し、「ZEMI-1グランプリ」運営を担当して2年目。本学卒業生で、在学中にZEMI-1出場経験もあり。
ゼミ活動の活性化をめざして生まれたZEMI-1
学長 ちょうど私が教務委員長を務めていた時、ゼミ活動の発表の場があればいいのではないかと前学長である徳永先生からの発案で、他大学の取り組みを見学したのがZEMI-1の始まりだと記憶しています。私も役職に就く前は出場するゼミ生の指導をしていました。みなさんのZEMI-1におけるそれぞれの関わりもお話いただけますか。
恩田 もう10年以上、審査員を務めています。就職活動の際、当社の採用に応募してくれた学生さんから、ZEMI-1での経験を面接時に聞くことも多いですね。
望月 進路支援に携わる中で、恩田さんと同じように、ZEMI-1は就活においても一つの役割を果たしている取り組みだと感じています。学生生活を振り返っての学びや自分の強みを掘り下げていくと、ZEMI-1での経験が抽出される学生は少なくありません。
安田 私は入職4年目で、2年前から教務部でZEMI-1の運営に携わっています。企画から当日の運営まで、裏方である学生実行委員と共にイベントをつくり上げています。また、本学を卒業しており、在学中にはZEMI-1に出場した経験もあります。
二本杉 経済学部のゼミを担当する教員として、出場する学生の指導にあたっています。本学に着任以降8年ぐらい、ZEMI-1をゼミ生と一緒に楽しんでいます。


安田 山本学長がおっしゃったZEMI-1の始まりを少し補足しますと、本学が元々、中規模大学という特色を活かしてきめ細かな教育を行っており、ゼミ活動に注力してきたことが発端となりました。さらなるゼミ活動の活性化のため、日頃取り組んでいるゼミ活動の成果をアウトプットする大会という位置づけです。初年度は21ゼミから35チーム、今年度の第15回大会では23ゼミから57チームと、出場チームはかなり増えています。大会の目的や考え方の軸はぶれることなく、採点基準や対戦方法等においてマイナーチェンジを行い、ブラッシュアップしてきました。
学長 当初は日経BPマーケティングが主催する「西日本インカレ」という西日本地区の学生が参加できるプレゼンテーション大会と連動しており、初回大会は本学キャンパスで開催しましたね。ZEMI-1で上位入賞したチームが「西日本インカレ」の出場権を得られるという形で実施していました。他大学の学生と競い合える場に出られることは、学生たちのモチベーションになっていましたね。
安田 「西日本インカレ」との連携は第1回から第11回まで開催され、コロナ流行のタイミングで大会が廃止となってしまったのは残念です。
二本杉 ZEMI-1の変化としては、以前と比べると発表のクオリティが上がっていると感じます。仮説に対する適切な研究設計、そしてデータを集めて統計学に基づいて分析した結果、何がわかったのかというようなサイエンスの手続きを踏んだ発表が多くなってきた印象です。そうした発表でないと勝てないと学生たちはわかってきたのかもしれない。

望月 以前は、尖ったテーマや演出だったり、アッと驚くような発表がありました。今は全体的なレベルは上がっているけれど、審査に通りやすい、審査員の受けが良い発表内容は何かといった、ZEMI-1の勝ちパターンが決まってきているような気がします。ただ一方で、新しいタイプの発表をするチームもまた最近出てきて、おもしろいなと思っています。
恩田 確かに、優勝できる発表の仕方が定番化してきて、特色がなくなってきている印象はありますね。
自然と社会で必要とされる力が伸びる
学長 そういった課題はありますね。ただやはり、最後までやり切ることがZEMI-1の一番の良さだとも感じています。疑問を見つけることから始まり、試行錯誤して結論を出し、プレゼンの練習もしてみんなの前で発表して評価してもらうまでを完結させる中で鍛えられます。ZEMI-1を終えて、涙を流す学生もいるんです。大学生活の中で涙につながるまで努力する経験はそれほど多くありません。勝敗にかかわらず、それほどの充実感や達成感を得られるのはすばらしい大会だと思います。私自身も毎回、学生のがんばりを目の当たりにし、最後の講評の時に泣きそうになって困ります(笑)。みなさんが感じられてきた学生の成長や教育的価値とはどのようなものがありますか。

二本杉 私のゼミでは、研究に関しては学生にほぼ任せているんです。学生たちの力で研究してほしいから。すると、たくましくなります。できません、わかりませんと言わない。言い訳しないような学生へと成長します。また、学生たちにはチームで成功させるのがゴールだと言っています。そのために私もいろいろな仕掛けをするのですが、チームが仲良くなると、勝っても負けても“青春”。楽しんで取り組んでくれていますよ。
望月 自分で選択してZEMI-1に出た学生は主体性がグンと伸びると感じています。協調性やコミュニケーション力も伸びますね。この3つの力は、おそらく企業が求めている力と同じ。論理的思考力も間違いなく伸びるでしょう。就活はもちろん、社会人になってからも必須の力が意図せずとも自然と身につくと考えます。加えて、結果が出ることもいいことだと思っています。たとえ結果が伴わなかったとしても、「その経験から何を学んだのか」と問いかけると、何らかの成長が感じられます。学長がおっしゃったように、一つのことをやり切ったことで自信になり、また他のことも挑戦してみようかという次の意欲にもつながっているのではないでしょうか。
恩田 まさにZEMI-1を通じて学生は、社会人基礎力を身につけていると思いますね。ZEMI-1では、理論と実践の往復運動をやっているわけです。理論を学んで、エビデンスをつかみにフィールドワークやグループワークを行い、発表して、うまくいかなかったらまた理論に戻る。企業では実践ばかりをやっているように見えるけれど、理論がないと良いビジネスにはなりません。理論と実践の往復運動は企業でも本当に必要なんです。だから、ZEMI-1に出場した学生は、社会に出る準備運動、筋トレができていると思います。面接をしていても、そういう学生からは自信が感じられます。
安田 学生の実行委員が運営に携わっているのもZEMI-1の特色です。出場者が発表テーマを追究していくのと同じように、実行委員の学生も課題を見つけて大会を一からつくり上げていきます。何が重要で、何を実行すればZEMI-1全体がうまく進んでいくのか、自分で考えて意見を出し、実行する力が伸びると思っています。例えば、実行委員を務め、次の年に委員長として活躍する学生の姿を見た時、過去の経験を活かしてスムーズに進行するように行動したり、自ら新しい提案ができる学生に成長したと感じました。
学長 実行委員が裏方でがんばってくれている姿を見て、感動しています。彼らがいるからZEMI-1が成り立っており、学生が主体的につくり上げる文化ができていることをうれしく思っています。
望月 私も以前は教務部で運営に携わっており、学生実行委員が取り組みを通じて変わっていく姿を見てきました。本学の中で学生が成長できる場の一つとなっていると思います。

多様な分野の研究を評価する難しさが最大の課題
学長 ZEMI-1の良さをお話してきましたが、発表方法の定番化といった課題も挙げていただきました。今後、本学が掲げる教育ビジョン「自ら学びをデザインできる学生を生み出す」を実践していくために、課題や改善点があれば聞かせてください。
二本杉 学生は話す時間が少ない、自分たちがやってきた研究をあんなに短い時間では話しきれないと言っています。質疑応答の時間は10分しかないけれど、質問が尽きるまでやってもいいぐらいだと。
恩田 時間的な制限があるのは理解しているけれど、審査する側としても、発表時間の短さは気になっています。時間が足りなくて趣旨を話すだけになってしまいがち。せっかく一生懸命に取り組んだ研究なのだから、じっくり聞いてあげたいという気持ちは強く持っていますね。
安田 発表側の思いは実行委員にも伝わっています。まだ実施には至っていませんが、発表時間を伸ばすとか、決勝進出チームの数や対戦方法を見直すなど、いろいろな意見は出ています。
二本杉 ZEMI-1の立ち位置を改めて考えるのも課題の一つだと思っています。実は私のゼミでは2年ほど前から、全国の大学が参加している大規模な大会への出場へと目標を切り替えているんです。ZEMI-1出場を希望する学生がいれば妨げませんけれど。その理由の一つは、「西日本インカレ」のような他大学と交流できる機会がなくなったこと。他大学の学生と競い合うのがおもしろいし、学生も自信がつくんですよ。
そして、サイエンスとしての価値を評価される場で競いたいというのが、もう一つの理由です。審査員の先生と話していても、いろいろな分野の発表があって評価が難しいと聞きます。私のゼミの学生は、アイデアよりも分析技術で勝負するチームもあります。しかし、ZEMI-1で発表すると、おそらく難解なためなかなか時間内で充分な説明ができず理解してもらえない。自分たちの最大の武器を隠して、わかりやすい内容で発表しなければならない場になっています。だから、純粋に研究内容で評価される、サイエンスの専門家が揃っている場に出場しようと方針転換したんです。もちろん、学内にはいろいろな分野のゼミがあるから、サイエンスに特化した分野以外の学生の出場の場を奪ってはいけないし、難しい課題だとはわかっていますが。
安田 先生が指摘された点は、教務部でのZEMI-1に関する議論においても最大の課題となっています。幅広いゼミが参加できる大会にするのか、研究に特化した大会にするのか。まだまだ結論が出ていません。ただ、私個人としては、ZEMI-1は学内のイベントということもあり、何かに取り組みたいけれども踏み出す力がないような学生にとって、価値のある場なのではないかと考えています。新設した国際共創学部の学生も含め、多くの学生が発表できる場は失いたくないという思いがあります。
恩田 どこにポイントをおいて評価するのか、審査員としても難しさを感じます。事前に発表内容の紹介資料をいただいて、わからない内容があれば事前に勉強してから当日に臨み、評価項目にしたがって評価しますが、悩みながら審査しています。
学長 現状では、その時の審査員の判断した結果を受け入れるしかないのですが、優勝できなかったチームに対しても、取り組んだことを評価するアイデアが必要かもしれません。分野のカテゴリー分けをしたり、観客の学生が選んだNo.1など賞を増やす、ポスター発表の形式を取り入れるといったアイデアを実現できたら、学生のやる気も増すでしょう。
安田 出場した学生が審査員と交流できる時間があるのですが、今年度からの新しい取り組みとしては、審査発表後に設定していた交流の時間を発表前に変更しました。学生にとって結果がわかる前の方が、フィードバックやさまざまな意見を聞いて次につなげられるのではないかと考えたからです。学生が審査員と遠慮せずに話せる場づくりなど、小さな工夫を少しずつ行っています。
恩田 学生さんと話す機会があるのは、企業側も喜んでいますよ。
望月 300名を超える企業の方を招いて実施する進路支援部主催の「産業セミナー」という交流会があるのですが、そこで優勝チームがプレゼンする機会もあります。
二本杉 あのような場で発表する機会はなかなかないので、優勝チーム以外のチームも参加したがって押しかけていました(笑)。企業の人といろいろ話せて楽しかったと言っていましたね。
望月 「西日本インカレ」に代わるものがあればいいなと思っています。私は幼少より格闘技をしているのですが、オープン大会を開催している団体もあります。自分たちの大会だけれど、他流派の参加も受け入れるんですね。すると、切磋琢磨して両方が伸びるんです。同様に、一定の水準をクリアしていれば他大学の学生も参加できる「大経大オープン」みたいな取り組みが実現すれば、学生の一歩先の成長につながるのではないでしょうか。
恩田 我々もビジネススクールなどに参加して、他社の人とディスカッションやグループワークをすると、こんな人がいるんだとか、こんな勉強をしているんだとか、自社にいるだけではわからない気づきがたくさんあります。他流試合はおもしろいアイデアですね。

コロナ禍を経て、学生実行委員の熱量に変化も
安田 別の課題としては、学生実行委員の熱量の低下があげられます。私の在学中に実行委員を務めていた同級生からは、ZEMI-1に対する熱い思いをヒシヒシと感じていましたが、今の実行委員にはそこまでの熱量がないかもしれません。もちろん主体性を持ってやってくれていますし成長も感じますが、より熱い思いを持ってもらえればと思います。
学長 コロナ禍ではオンラインでの実施になり、熱量の文化が途切れてしまったのでしょうか。大樟祭実行委員やピアサポート団体のDOGsといった新たな学生の活躍の場が生まれて、さまざまな活躍の場へと学生が分散したという面もあるかもしれません。
安田 確かに学内全体で見れば、学生の活躍のチャンスは広がっています。
恩田 コロナ前は、企業と学生実行委員が直接、メールで事前の打合せを何度もしていましたね。ビジネスマナーの指導なども職員の方がしっかりとされているのだろうと思っていました。何度もやりとりをするのでZEMI-1当日に会場で対面すると、「君がメールの相手か」などと盛り上がるんですよ。
安田 今年度からは、継続して実行委員に携わりたいという学生を集め、彼ら自身で新入生に実行委員への参加を働きかけてもらうという取り組みを始めています。これまでは教務部が学生の参加を呼びかけていましたが、学生たちが一つの委員会としての意識を持って主体的に仲間を集めていくことで、熱い思いを持つ学生が継続的に担保できるのではないかと期待しています。
ZEMI-1のさらなる発展をめざして
学長 さまざまな課題も出てきましたが、この大学に入学したいと、高校生がZEMI-1本選に集まってくれるような仕掛けづくりをしていきたいと私は考えています。保護者にも学生のがんばっている姿を見てもらうなど、本選会場をもっと華やかな場にしていきたいですね。皆さんが考える、長期的な視点でのZEMI-1の理想像はどのようなものですか?
二本杉 学生が出場して良かったと気持ち良く終えられる大会にしてほしい。一つの例をあげると、今回の大会から一部の情報が開示されるようになったものの、どの審査員が何点をつけたというような、採点の詳細までは学生に公開されていません。審査員からコメントはもらうけれど、点数でどう評価されたのかがわかりづらく、適切に振り返りができないように思います。学生が結果に納得してこれからもがんばろうと思える、エンカレッジするような大会へと発展していくことを期待します。
安田 学内では全学的な行事として認知されてきましたが、「大経大といえばZEMI-1」と学外にも浸透させていくことは、20回大会、その先を見据えて大事になってくると考えています。また個人的には、社会に出た後もZEMI-1を経験したというつながりで輪が広がっていくような大会になったらいいなと思います。
望月 「産業セミナー」での発表を学生が楽しんでいたという話を二本杉先生からお聞きし、夢物語かもしれないけれど、200社ぐらいの企業を招いて上位チームがプレゼンし、投票してもらえる場がつくれたらおもしろいなと想像しました。そして、そんな大会を開催した時に、「あの学生が卒業した大学のプレゼン大会なら見てみたい」と企業に言ってもらえるような学生を輩出していきたいとも思いました。
恩田 今日はたくさんの課題もあがりましたが、15回続けてきたからこその悩みなのかなと私は感じています。そうしたフィールドやステージが用意されていない大学もある中で、すばらしい取り組みをされています。大学時代に胸を張ってがんばったことがあると言えない学生が、ZEMI-1に参加して泣いたり笑ったりしながら、一生懸命にやり切った、勉強したと自信を持って言える場であり続けてほしいと願っています。
学長 いろいろな意見を聞き、より良い取り組みに発展させていきたいと改めて思いました。本日はありがとうございました。
After the dialogue
対話を終えて

学長
山本 俊一郎さん
ゼミ活動の活性化に向けて始めた「ZEMI-1グランプリ」。学生たちが成長していく場の一つとして、本学に欠かせない取り組みとなっていることを再認識しました。15回と続けていく中でさまざまな課題も出てきました。今後も教育ビジョン「自ら学びをデザインできる学生を生み出す」の実践に向け、未来につながる研究、オリジナリティのある研究が増えていくことを期待しています。また、出場チームだけではなく、実行委員の学生も情熱を持って行う活動であり続けてほしい。そのための仕掛けづくりを皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
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