座談会

人口減少の課題を抱える地方の“今”を知る、島根研修。地元の人々と交流し、地方創生の取り組みを学ぶ。

国際共創学部では、デンマーク、マレーシア、島根県、高知県などで、約1週間滞在して現地の人々と交流しながら、地域の特性や課題について学ぶ地域探究型実践プログラムを実施しています。今回は2025年8月に島根県でのローカル・リサーチプログラムに参加した2人の学部生と、国際共創学部の酒井大策先生に、現地での体験を振り返って語り合っていただきました。

教育ビジョン

自ら学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

お話を伺った方

酒井 大策 先生

国際共創学部教授。専門分野は、パブリック・マネジメント(行政経営)、公会計。自治体を中心として、パブリック・マネジメントについて、会計学をベースに研究する。

上岡 泰駕さん

国際共創学部2年生。兵庫県出身。新学部の1期生であり、国際共創という名称から、自分で道を切り拓き、幅広く学んでいけそうだと感じて入学を決めた。

伊藤 真翔さん

国際共創学部2年生。兵庫県出身。ハワイ短期留学など海外での研修制度が整っていることに興味を持って入学。英語学習に力を入れていきたいと考えている。

研修のキーワードは、地方創生、人、地域文化

――島根研修の目的を教えてください。

酒井先生 島根は過疎化が大きな課題となっている地域ですが、さまざまな地方創生の取り組みを行っています。そうした地方創生の現場を実際に見て学ぶことが第一の目的です。もう一つ、島根在住のコーディネーターと一緒に研修のプランを検討する中で、地方創生に携わる人々にもフォーカスした研修内容にしたいと考えました。というのも、コーディネーターの中に他県出身者がおり、ほかにも島根には、Uターンで都心から戻ってきたり、Iターンで他地域から移住してきた若い世代の人たちが、いろいろな新しい活動をしていることを知ったからです。彼らとの交流を通じて、自分たちの暮らしや生き方、働く価値について学生たちに改めて考えてほしいと考えました。また、国際共創学部の学びの中で大切にしている、地域文化にふれるプログラムも設定しました。

――上岡さん、伊藤さんはなぜ研修先に島根県を選んだのでしょうか。

上岡さん ハワイ語学研修を経験し、日本国内を含め、自分が知らない世界をもっと知っていこうという気持ちが芽生えたからです。ハワイでは現地の人たちと交流した時、人間関係や仕事面などさまざまなことへの視野が広く、挑戦する気持ちを持っているところに自分との大きな違いを感じて驚きました。価値観が変わるような経験をし、新しい世界を知って学ぶことが大切だと気づきました。そこで、兵庫県の都市部に住んでいる僕が知らない、過疎化が進む島根の現状や暮らしを知りたいと思いました。

伊藤さん 僕の場合、ハワイに行ってみて、今の自分にとって海外は学びのフィールドとして広すぎるなと感じたんです。だから、まず日本を知りたいと考えました。島根は出雲大社や石見銀山といった観光名所があると知っているぐらいだったので、実際に訪れてみたいと思って選びました。事前講義で、地方創生や住民が幸せに暮らすためのさまざまな実践をしていると聞き、自分の目で見て感じられたら、との期待を持って研修に参加しました。

左から伊藤さん、上岡さん。ハワイ研修の経験が節目となり、今回の研修につながった

――現地ではどのようなプログラムを実施されたのでしょうか。

酒井先生 5泊6日の日程で、松江市、雲南市、出雲市、大田市を訪問しました。2日目に訪れた雲南市は、「チャレンジ推進条例」を制定し、地域課題解決に向けた住民主体の取り組みを行政がサポートする体制を整えています。雲南市役所の職員の方やチャレンジを実践している方からお話いただき、行政による地方創生の実例にふれました。他エリアでも、まちおこしや里山再生に取り組んでいる方々に話を聞かせていただきました。また島根は、神話、鉄、銀と日本古来の歴史遺産にふれられる場所でもあります。出雲大社、江戸時代まで日本の鉄生産の7~8割を担っていた「たたら製鉄」の生産施設や石見銀山にも行きました。

上岡さん たたら製鉄では砂鉄を炉に手作業で投入していたと教わりましたが、砂鉄を持ち上げさせてもらうと、想像していたよりもかなり重かったです。人の手で作業していたなんて信じられなかったですね。

伊藤さん 出雲大社では正式な参拝方法を体験させてもらいました。世界遺産に指定されている石見銀山は、銀山だけではなく周辺エリアも含めて昔の町並みを保存していて、別世界のようでした。

映画『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルとされる「菅谷たたら山内」を見学。現存する唯一の遺構が当時の面影を今に伝えている

多様な人々と交流する中で、変化した自分の中の価値観

――特に印象に残ったのはどのプログラムですか。

上岡さん 雲南市の波多エリアです。住民は200人ぐらいしかいなくて、ほとんどが高齢者。まさに限界集落という地区で、小さなスーパーマーケットを運営・維持し、地域内の移動手段を確保する無料送迎車を運行するなど、住民同士が助け合いながら生活されています。都会にはない人と人とのつながりがあり、お互いを思い合うことで暮らしやすさが実現できていて、思いやりの本質を見たように感じました。この町なら暮らしやすいだろうと素直に思いました。

住民が運営するスーパー「はたマーケット」訪問の様子。波多地区は雲南市の南西端に位置する山間の地域で、「地域自主組織」が市の支援のもと、商店の経営や高齢者の見守り活動などを行っている

伊藤さん 廃校になった小学校跡などを見ると、本当に地方では過疎化が進んでいるんだなと実感しました。でも、そんな環境の中でも暮らしを良くしようとがんばっている人たちがいるんだと知り、人口が減っても工夫次第で幸せに暮らせるんだと、“過疎”という言葉のイメージが変わりました。

酒井先生 まちづくりの視点からいうと、住民が協力して生活の基盤を維持する仕組みを作られていること自体がすばらしいけれど、学生たちにとっては、コミュニティのつながりがあってこそ、この暮らしが成り立っているんだと感じられたのが印象深かったようですね。衰退していく地域の人たちは困難を抱えていると思いがちですが、ゆったりとした生活がうらやましいとさえ思えました。

伊藤さん 石見銀山周辺の大森地区にある「群言堂」を訪問した時は、都心のショッピング施設にも店舗があるアパレルブランドなのに、こんな古い町並みの中に店舗を構えているんだと驚きました。

石見銀山の鉱山町として成立した大森地区。赤瓦の家並みが連なる
大森地区の周辺には豊かな自然が広がる

酒井先生 1980年代に創業した「群言堂」は衣料品・生活雑貨を製造販売し、全国に30店舗以上を展開する著名なブランドに成長した今も変わらず、大森地区に本社を構え、町に根付いて事業を展開しています。大森地区は観光名所でありながら、そこで古くから暮らす人々もいる地域。観光地としての魅力を高めながら、人々の暮らしを守るための活動も行い、地区を支えている企業です。地域に雇用の場を提供するほか、古民家を再生した中長期滞在者向けの宿泊施設やシェアオフィスの開設・運営、来訪者と住民の交流を促す仕組みづくり、地域事業者支援など、多様な取り組みを展開してまちづくりに貢献しています。お話を聞かせていただいた代表取締役の松場忠さんは、もともとは島根の方ではなくて別業界で仕事をされており、創業者の娘さんと結婚されて跡を継がれたそうですが、地域を愛して地域のために活動されていることが伝わってきましたね。

古民家を再生した本社で松場さんのお話を聞く学生たち

――今回、地域で活躍している若い世代の人たちに出会ったということでしたが、その方たちと交流してどんなことを感じましたか。

酒井先生 地元の人はもちろん、さまざまな地域から移住してきて島根で活躍している人たちに出会いましたね。先ほどお話した「群言堂」の松場さんは40代。そのほか30~40代で、東京でキャリアを積んでいたけれど、都心での生活に疲れて島根に移住し、NPOを立ち上げてカフェの運営やキャリアデザインの講演をされている方、関西出身で人材育成の事業をされている方など、島根に来るまでの背景や現在の仕事内容もさまざまです。

上岡さん 僕も含めて都心に住むほとんどの学生は、大学を卒業して企業に勤めるのが普通だと思っています。でも、思い切って知らない土地へ行き、生き生きと働いている人たちと話していると、まわりと同じような道を進むのだけが正解じゃないんだと思えました。彼らからは、自分の人生が楽しいという気持ちがあふれていて、心に響きましたね。しかも、島根をもっと良くしたい、良さをもっと知ってほしいという心からの思いが伝わってきて、地域に対する大きな愛を感じました。

伊藤さん 温泉が好きで島根を訪れたのが移住のきっかけだったという方もいて、そんな些細な行動で人生が変わることもあるんだと思いました。

酒井先生 自分たちの当たり前とまったく異なる人たちとの対話は、これからのキャリアを考えていく上で、貴重な経験になったはずです。

人とのつながりの大切さを実感

――最終日前日に行ったグループワーク・成果発表会について教えてください。

酒井先生 学びの成果を各自が発表していくのではなく、コーディネーターなど島根でお世話になった5名の方々とも一緒に対話しながら、グループワークで学んだことをアウトプットしていくという形式で行いました。

それぞれが学んだことを書いた紙を貼り出し語り合うことで、学びを可視化し、共有していくことを大切にした

上岡さん 自分でうまく言語化できない部分を引き出してもらえたおかげで、今回の研修での経験や学びへの理解が深まりました。グループワーク終了後にはバーベキューやキャンプファイヤーで盛り上がり、そこでもたくさんの人と話ができて楽しかったです。

――研修を通じての一番の収穫は何ですか。

上岡さん 自分の中の固定概念に縛られていてはいけないと改めて学びました。島根に行く前は、失礼ながら田舎で何もないところだろうと想像していたんです。でも地方には、都心とはまた違った良さがあり、いろいろと考えてみると、別の楽しみ方を見つけられることがわかりました。今後はこの学びを踏まえ、広い視野を持って、勉強や人との関わりなど、さまざまな面で積極的に取り組むことが、自分のレベルアップにつながるのだと思っています。

伊藤さん 人とのつながり、思いやりの大切さを実感できたことですね。学部の仲間との関係性が深まったし、研修に参加しなかったら出会えていなかった大学外の人とのつながりも生まれました。このつながりを維持できるように、思いやりをもって生活していきたいと思っています。もっと深く知って学びたいので、島根でのインターンシップにも参加する予定です。

酒井先生 今回の研修をきっかけに、本学学生の島根でのインターンシップ受入れの話が進んでいます。私自身、島根の人たちとの新たなつながりが生まれたので、学生たちの今後の学びに活かしていきたいと考えています。また、島根に限らず、研修で濃密な時間を過ごす中で、学部生の一体感が強まったと感じていますね。予想していなかった研修の効果です。これからの大学での生活や学びにおいて、良い影響をもたらすのではないでしょうか。

「単純な勉強ではなく、“人生の学び”を続けてほしい」を話す酒井先生

上岡さん 僕はハワイ研修で、同じグループの仲間と一緒に過ごすうちに、今まで知らなかった相手の良さに気づけたんです。だから、島根ではさらに踏み込んで、みんなと積極的に関わろうと思って実行してみると、やっぱり相手のいろんな一面を発見できました。それに気づいてからは、授業でのグループワークの時でも、他のメンバーにも目を配り、どうしたら対話が弾むだろうかと考えられるようになりました。すると、グループ全体のディスカッションが活発になり、いい案が出るようになりました。研修では、多様な学びと気づきが得られると実感しています。

――最後に、本学では「自ら学びをデザインできる学生を生み出す」という教育ビジョンを掲げています。今回の研修を踏まえ、この教育ビジョンに対する先生の考えを聞かせてください。

酒井先生 島根での研修を通じて学生たちに最も感じてほしいと私が考えていたのは、自分にとっての大切なものや価値観、いわゆる“幸せのものさし”というのは人それぞれで、必ずしも皆が同じ型にはまる必要はないということ。これは、国際共創学部が大切にしているコンセプトの一つでもあります。学生たちには、何が好きなのか、大切に思っているのか、自分自身をしっかりと見つめ直したうえで、学びにつなげていってほしい。研修も、自分を見つめ直す機会になってくれればうれしいと思っています。机の上での学びと、現場での学びは両方とも重要です。学部には多様な経験や専門性を持つ教員が揃っているので、机の上での学びに加えて、そうした教員と共に現場での学びも4年間で深めていってもらいたい。そうして学んだ先、大学を卒業した後も学び続ける人になることを期待しています。

Hints for SOUHATSU

創発につながるヒント

過疎と呼ばれる地域であっても、そこで暮らす人々が一般に抱かれがちな印象とは違って、地域のためにさまざまな取り組みをしており、学生たちは都心に住む人とは異なる価値観や生き方、暮らしがあることに気づいたようです。実際に現地へ行き、人々とふれ合ったからこそ得られた気づきに違いありません。酒井先生にもまた、島根の人々との新たな関係が生まれました。このつながりが今後の学びにどのように活かされていくのかが楽しみです。

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