座談会

自分で考え行動し、自分の人生を生きられる人を育てるために。本学がキャリア教育・支援で取り組んでいることとは

本学では、大学におけるキャリア教育が実質義務化される前からキャリア教育・キャリア支援に取り組んできました。日本経済新聞社・日経HR「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」をもとにした『就職力ランキング2024-2025』では全国で19位、近畿の私立大学で1位となったのも、その成果の現れの一つといえるでしょう。今回は山本俊一郎学長がキャリア教育に携わる教職員を招いて座談会を開き、キャリア教育・キャリア支援に寄せる思いや取り組み内容、変化の激しい現代社会において必要なことなどについて意見交換を行いました。


教育ビジョン

自ら学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

お話を伺った方

濱田 真輔さん

教育・学習支援センター教授。「キャリアデザイン」や「共通特殊講義(キャリアと人生)」等を担当。総合電機メーカー勤務の経験を活かした視点からの支援も行う。

鴨谷 香さん

教育・学習支援センター准教授。「インターンシップ」、「キャリアデザイン」、「共通特殊講義(キャリアと仕事)」等を担当。キャリア教育歴15年以上。実務経験もある。

松山 誠司さん

教育・学習支援センター事務課長。キャリア科目の調整などを行う教育支援と、学生ピア・サポート団体(DOGs)の活動サポートや正課外での学習機会の提供などを行う学習支援を担当。

和田 仁美さん

進路支援部就職課長・インターンシップ課長。正課内外のインターンシップの支援や企画を行ったり、就職に限らずさまざまな進路を選べるよう学生をサポートしている。

キャリア=就職・仕事ではなく、自分の人生そのもの

学長 「キャリア」という言葉は、意味が広くて漠然としたイメージがあります。皆さんはキャリアをどう捉えておられますか。また、皆さんがキャリア教育や支援を行う中で大切にしていることを教えてください。

濱田 私は、キャリアとは人生そのものだと考えています。本学のキャリア教育・キャリア支援をとおして、自分の意志で自ら考えて動くことを学生時代にしっかり身につけてほしい。就職してステップアップして…という従来の考え方も大切ですが、自分の生き方そのものもちゃんと考えてほしいと思っています。

鴨谷 さまざまな定義がありますが、私は文部科学省の定義に基づいて

  • 生涯にわたるものであり、立場や役割は変わっていくものであること。
  • 人生の段階で自分が選択することで自分の納得を積み重ねていくこと。
  • 仕事だけでなくさまざまな人生の役割である

と広く説明しています。また、学生は初職の選択を控えているので、役割の1つである労働については詳しく説明することが多いです。キャリア教育を行う中で大切にしていることは、自己理解と社会理解の両輪を回すことです。自己を理解しても社会の状況を理解していないと納得いく選択につながりにくいので、両方を学びながら、学生が自分の可能性を試せる環境をつくることを大切にしています。

松山 学生にとってのキャリアと卒業して社会に出てからのキャリアとではその持つ意味は違っていますが、その違いは経験からくるものだと私は考えています。行動を起こさずして経験は得られず、キャリアを積み上げることも深く考えることもできません。そのため、知ったこと、気づいたこと、得意なことをどうやって学生が活かしていくか、その意識を持つことがキャリア教育やその支援においてとても大切だと思っています。

今の時代に必要なキャリア教育・支援をめざしている鴨谷さん(左)。松山さん(右)は学生には生きていく力をつけてもらいたいと話す

和田 キャリアとは、働き方やライフスタイルなどの価値観、言い換えると「理想の自分」だと考えています。「理想の自分」は一人ひとり異なっているものなので、キャリア支援では、学生自身が自ら考え行動できるようサポートすることを心がけています。

学長 鴨谷先生は15年にわたってキャリア教育に携わっておられますが、時代の変化や時代による違いはあるものなんでしょうか。

鴨谷 変化も違いもありますね。ジェンダーの捉え方や働き方が変わりましたし、求人倍率や就職協定の時期なども違います。最近では、三省合意改正※によってインターンシップの位置づけが変わったのが大きいです。これに関しては和田さんがすぐに動いてくださって、本学では今年から新しい科目を開講できました。他大学と比べても早い対応ができたと思います。

※経済産業省・文部科学省・厚生労働省が「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方(三省合意)」を改正。これにより、インターンシップの定義などが変更され、大学3・4年または修士課程1・2年対象で就業体験が必須など、一定の条件を満たさないと「インターンシップ」と呼べなくなった。

和田 三省合意改正によって、2年生がインターンシップを受けられなくなりました。そこで、教育・学習支援センターと連携して、2年生向けの新科目を一つ開講しました。今の時代、3年生になって初めて学生に何かを考えさせるのでは、遅いと感じます。就職が唯一の進路ではありませんし、1年生のうちから学内のキャリア科目を活用して、自分で卒業後の選択肢を広げられるような形にしたいと思っています。

学長 連携といえば、ゼミとの連携でゼミガイダンスもしてくれていますよね。

松山 先生方から見て、ゼミガイダンスを受けた学生に変化はあるものなのでしょうか。

学長 私の話よりもよく聞いている感じはありますね(笑)やっぱり自分事だから。大学での学びや経験が就職活動やその先の人生にもつながっていることに気づけると、今やっていることへのモチベーションは高まるようです。あとは、教員もゼミでの学びが就職活動につながっていることを認識できる機会になっていると思います。
ところで、ゼミガイダンスも含め、キャリア科目やいろいろなプログラムがあってサポートが手厚い反面、そもそも就職活動自体が社会的にシステマティックになってきているから、学生にとっては窮屈に感じることはないのかな?と思うことがあるんですが、どうなんでしょう。

松山 私も以前は学長と同じような疑問を持っていたのですが、キャリア教育は社会に出る上で必要な知識やスキルを教えること、キャリア支援は学生が一人でキャリア形成について考え行動していけるように、寄り添いながら導くことだと今は考えています。学生は必要性を感じてキャリア教育を受けますが、得たものをすぐに行動に結びつけることができるわけではありません。実際に行動できるように周囲が支援していくことが大事だと思っています。

鴨谷 最近は「キャリア・パスポート」(自分の学習状況などを振り返りながら、変容・成長を自己評価できるように蓄積していく記録)を活用している小中学校も多く、キャリアについて考える機会は増えていると思います。だから「考えなければならない」ではなく「考えるものなんだ」という風になってきている気がします。大学生という年齢は、発達段階的にも迷って当然の時期です。でも、「考えねばならない」になるとしんどいので、自分のためにキャリア科目をうまく使って世界が広がるといいよね、などと少し工夫して講義の中で話しています。

リアルな社会や自分を知ることで学生は成長する

学長 学生たちはキャリアについてどう捉えているのでしょう。私の世代では、「キャリアを積む」「東大卒キャリア」のように出世や昇進のイメージが強く、人生そのものという考えはなかったように思います。

濱田 キャリア=生き方という考え方が定着しだしたのはここ数年ですよね。人生100年時代といわれる今、70歳で定年になった後はどう生きるのか。人生を豊かに生きることを意識しよう、キャリアをもっと広く考えようという方向になったのだと思います。

鴨谷 2011年の大学設置基準改正でキャリア教育が実質的に義務化され、全国の大学でキャリアセンターの設置が進みました。さらに2016年にキャリアコンサルタントが国家資格になると、キャリア教育が急速に専門的になったという印象です。

学長 人生を考えるというキャリア教育は比較的最近なんですね。今でもキャリア教育=進路指導と考える人もいますし、進路支援部は学生の就職活動をサポートすることも大切な仕事のひとつなので、就職しなくてもいいよとは言えませんよね(笑)。

和田 そうですね。進路支援部としては正社員の就職率を上げることもミッションであり、それが本学の魅力のひとつでもあると思うので悩ましいところはあります。ただ、卒業後のキャリアの考え方がここ数年でとても変わったと感じています。以前は一つの企業に長く勤めたいと考える学生が多かったのですが、今は転職ありきで就職活動をする学生もいます。最初の就職を足がかりと考えたり、ライフワークバランスを重視したり、正社員を希望しなかったり。働き方が多様化しているからこそ、学生には自分で選んでもらえるようにしたいです。

学長 なるほど。今年6月に発表された日経の『就職力ランキング2024-2025』で、本学学生の行動力や対人力、独創性などが評価されていますが、まさにキャリア教育の成果とも言えますね。ところで、私が言うのも何ですが、大学の4年間で人間力や行動力をどこまで伸ばせるものなんでしょうね。留学に行って一皮むけたなと感じる学生はこれまでにいましたが、正課でどこまでできるのか。皆さんはキャリア教育を通じて学生の成長を感じることはありますか。

山本学長は「学生の可能性をいかに引き出すかが重要だとあらためて気づいた」と語った

鴨谷 ありますね。例えば、2年生向けの「共通特殊講義(キャリアと仕事)」では企業の話を聞く機会があります。IT企業に対して「ブラック企業が多い」「理系でないと無理」といった印象を持っていた学生が、労働環境が改善されていたり文系SEが活躍しているという話を聞いた後には、「知らないから勝手に諦めていた」という感想を書いていました。企業の話をリアルに聞くことによって、思い込みをなくすことができたり、自分にも可能性があると前向きに捉えられるのだと思います。

濱田 「キャリアデザイン」では、4人1組でグループを作り、リーダー、発表者、書記、タイマーの役割を決めてディスカッションさせています。リーダーは全体統括者、発表者は前線で行動する人、書記は企業においては品質管理、タイマーはリスクマネジメントに当たります。サッカーのイレブンのように社会にもいろいろなポジションがあり、それぞれの役割を何度か経験することで自分の特性や得意なことがわかります。すると、徐々に自信がついて学外の活動にも積極的になる。そんな学生たちをたくさん見てきました。

松山 今までは3年生が4年生に就職活動の経験を聞きにいくケースが中心でしたが、今は1、2年生のうちから4年生に話を聞く傾向にあります。鴨谷先生が担当されている授業のレポートを見ても意識は高くなっていると感じました。より早い段階で卒業後のキャリアを自分事として捉える学生が増えているようです。

和田 学生が二極化しているというか、キャリア科目を積極的に活用したり、学内外関わらず課外活動を行う学生もいれば、そうでない学生もいて、中間層が少なくなってきた印象がありますね。もう少し工夫すれば、もっと全体的にボトムアップできるように思います。

可能性のフタを開けるのがキャリア教育・支援の役割

学長 キャリア教育・キャリア支援に関して、今後取り組みたいことを聞かせてください。

和田 皆さんからのお話にもありましたように、外部からの刺激は学生の成長の機会になると感じています。今、関西外国語大学と共同で、企業の課題に対して企画書を提出する「ミラエガプロジェクト」を行っていますが、そういう機会をもっと増やしていきたいですね。必ずしも就職につながらなくても、学生の視野を広げることが最終的に学生の進路選択につながると考えています。

2024年度の「ミラエガプロジェクト」。日本航空株式会社(JAL)、株式会社ファンケルの2社から与えられた課題に取り組み、発表を行った。審査員からの講評も聞くことができる(写真は振り返りセミナーの様子)

松山 これまで教育・学習支援センターは、どちらかというと主に自らやりたいと手をあげた学生を対象にしていました。ですが、多様な学生が増えてきているので、いろいろな学生にきめ細かく支援することが必要だと思っています。生きていく力を身につけていくために、さまざまな活動に参加する後押しをしたい。ただ、押しつけになってはいけないので、具体的な方法については答えを探しているところです。

学長 本学は教育ビジョン「自ら学びをデザインする」を掲げていますが、その実現のためにキャリア教育・キャリア支援の面から今後やってみたいことを教えてください。

濱田 基本的には「教えない、気づかせる」のがポイントだと思います。学校の先生は教えたがり屋さんなんですが(笑)、気づきとともに考えさせられるような環境づくりが必要ではないでしょうか。学生グループで目標を掲げて課題に挑戦する「DAIKEI 創発プロジェクト」は学生にとって身近ですし、よい機会になると思います。また、元企業人としての経験やさまざまな人脈を本学の中で活かせればと考えています。人権や環境の専門家も紹介できますし、私も東日本大震災支援経験から現在でも防災専門官として活動しています。いろいろな話を聞き、何かを感じることは、学生たちがこれからの人生を考える上で大切になると思います。

未来につながる学びの場をもっと提供したいと話す和田さん(左)。失敗を恐れず何にでも挑戦してほしいと応援する濱田さん(右)

鴨谷 「DAIKEI 2032」の「商都大阪から、社会に貢献する“人財”を輩出する」というミッションをもっと強く打ち出してもよいかと思います。大阪には優れた企業が数多くあるので、学生がそうした企業を知り、企業からも信頼されれば就職につながるかもしれません。今の日本では、最初の一歩としてまず就職して、そこから起業したり転職したりする方が現実的です。その際に、大阪をベースにした企業があれば学生にとってもよいでしょうし、本学の強みにもなるのではないでしょうか。今後やりたいことは学内連携です。私は教育・学習支援センター所属ですので、たまに依頼を受けて学部で出張講義をするのですが、もっとお声がけいただけたらなと思います。

松山 新入生のオリエンテーションで「失敗とは何もしないこと」と伝えて、行動を起こすことが大切というメッセージを送っています。我々教職員としては、学生が行動できるようにサポートすること、学生自身の認識を変えて継続させることが大切だと考えています。そのためにも、学生に接する姿勢が正しいかどうかを常に考える必要があると改めて思いました。また、キャリアについては自分の経験談だけで話しがちですが、押し付けではなく、学生がちゃんと選択肢として選べるようにしなければと思いました。

和田 学生には、どんなことも自分事として捉えられるようになってもらいたいと思っています。鴨谷先生もおっしゃったように、いろいろな働き方があるとはいえ、いわゆる新卒カードを使って就職した方がその先の選択肢は圧倒的に広がります。ただ、就職活動が始まってから悩む学生が多いんですね。進路選択だけでなく、勉強やゼミ活動、学内活動もそうですが、「人に言われてやる」「みんながやってるから」ではなく、自分で考えて行動してほしい。それが「自ら学びをデザインする」につながるのではないかと思います。

学長 学生は、本当は可能性を持っているのに閉じている部分があって、それを少しずつ開けているのが皆さんの活動だと感じました。いろいろな経験をした方がよいのはわかっていても、「自分には無理」「自分には関係ない」とフタをしているのかもしれません。キャリア教育・キャリア支援とは、そのフタを開けて「あなたも対象、あなたも可能性なんだ」と気づかせてあげることだと思いました。これからも学生のフタをどんどん開けてあげてほしいと思います。本日はありがとうございました。

After the dialogue

対話を終えて

学長

山本 俊一郎さん

大学とは、もともと専門分野の知識を伝える研究者の集まりです。そのため、大学には学生がこれからの人生をいかに生きていくか、という教育についてあまり求められてきませんでした。知識をわかりやすく伝える方法や飽きないようにする工夫を考えることはあっても、生きるための気づきを与えようと考えることは、従来ではあまりなかったのです。でも、今は社会が大学に求めるものが変わってきています。だからこそ、専門家の皆さんにキャリア教育・キャリア支援を委ねているのだと改めて思いました。学生たちが可能性を閉ざさないように、フタをあける皆さんの活動に大いに期待したいと思います。