地域課題と最先端技術をつなぎ、より良い世界に寄与したい。

本学には、5つの学部、4つの研究科と社会人大学院があり、約180名の教員が学生の教育を行い、また自らの研究を進めています。今回の教員インタビューでは、2019年度に続いて2024年度の科学研究費助成事業(科研費)に採択された情報社会部准教授の安彦智史先生に登場いただき、研究内容や研究を通して実現したいことなどを伺いました。
研究ビジョン
知の“結接点”となる
分野や産学官民を問わず、国内外の多彩な知を集積し、それぞれをつなげる場を形成する
ことで、新たな価値を創出していきます。
お話を伺った方
安彦 智史 先生
大阪経済大学 情報社会学部情報社会学科 准教授。関西大学総合情報学部卒業、関西大学総合情報学研究科修士・博士課程修了。博士(情報学)。大学3年から博士課程修了までの7年間、所属ゼミが運営するITベンチャー企業で勤務。青山学院大学助手、仁愛大学講師、准教授を経て、2025年4月より現職。インターネット上の有害情報検出の研究では、神奈川県警、福井県警と協働。現在も福井県警のサイバー犯罪対策テクニカルアドバイザーを務める。
地域社会の問題解決のため、情報技術の社会実装を推進
――安彦先生の研究分野について教えてください。
情報技術を活用し、地域社会の問題解決に取り組んでいます。例えば、GIS(地理情報システム)、画像処理、AI技術などを用いた中山間農地の有害鳥獣忌避に関する研究や、AIとテキストマイニングを用いたSNSからの有害情報の検出などを行っています。テキストマイニングとは、大量の文章データから情報を抽出する手法です。
有害鳥獣対策とSNSの有害情報検出は、全く異なる分野のように見えるかもしれません。しかし、「社会問題の解決をめざす」「データを扱う」という二点は共通しています。有害鳥獣対策では主に画像解析、SNSでは主にテキスト解析を行いますが、データを扱う技術自体にはそれほど大きな違いはないのです。

――先生はどういったきっかけで情報学の道に進んだのでしょうか。
エンジニアをしている父の影響が大きかったと思います。もともとパソコンやゲームが好きで、中学生のときに父にパソコンを作ってもらったのがうれしくて、高校生になると自分でも作るようになりました。それで、大学も情報系の学部に進学し、プログラミングやデータ分析といった情報技術を学びました。
大学3年生からは、所属ゼミが運営しているITベンチャー企業で働きはじめ、さまざまな企業との共同研究開発に携わるように。その頃から、「論文はたくさんあるのに、社会に実装されているものは少ない。すばらしい技術があるのに、なぜ社会で使われていないんだろう」という思いがあり、自身の研究テーマとして、情報技術を生かした社会課題解決に取り組むことにしました。
SNSの有害情報を検出し、青少年の被害を防ぐ
――先生がインターネット上の有害情報に注目し、研究するようになった経緯を教えていただけますか。
大学院時代に「自分の研究をどうやって社会に生かせるだろう」と考えていて、青少年のネットトラブルという問題に出会いました。当時は「学校裏サイト」と呼ばれる掲示板サイトがいじめの温床となり、社会問題となっていたんです。そこで、博士課程の頃から「犯罪からの子どもの安全プロジェクト」に参画し、課題解決に取り組みはじめました。大学院卒業後、青山学院大学に着任してからは神奈川県警と、その後、仁愛大学に移ってからは福井県警と共にサイバーパトロールに携わり、インターネット上の違法情報や有害情報から青少年を守るための取り組みを行っています。
――2024年度からの科学研究費助成事業(科研費)に採択されたテーマも、大学院時代から続けてきた研究の一環ですね。現在進めている研究内容について教えてください。
「青少年の被害防止に向けたメディア系SNSでの有害情報の抽出とAIによる評価」というテーマで採択していただきました。以前はテキスト解析を中心に、SNSの有害情報検出を行っていたのですが、近年はInstagramやTikTokなどが若年層に多く使われているため、本研究では画像や動画を中心としたメディア系SNSに対するAIを用いた有害性評価をテーマとしました。具体的には、画像や動画に含まれる音声や文字に対して、AIを活用した光学文字認識技術(テキストの画像を機械で読み取り可能なテキスト形式に変換する技術)と音声認識技術を用いて情報を抽出。サイバーパトロールで利用可能な水準での有害判定の実現をめざしていきます。
――科研費に採択された要因や、本研究の独自性についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
青少年のネットトラブルは、深刻化の一途をたどっています。特に2022年度は、特殊詐欺における「受け子」(被害者から現金やキャッシュカードを受け取る役割)の総検挙数のうち、5人に1人が20歳未満で、その多くが「闇バイト募集」としてSNSから情報を得ていることが明らかになっています。私の研究が「子ども学」の分野で採択されたのは、この分野で未成年の犯罪が重大な問題として捉えられているからではないでしょうか。また、光学文字認識技術や音声認識技術を用いている研究者は多いですが、闇バイトに焦点を当てて問題解決をめざしている研究者はあまり見られないため、独自性を評価していただいたのではないかと思います。
――研究の進捗はいかがでしょうか。
メディア系SNSを調べていく中で、音声データの有害情報はあまり見られないことがわかったので、現在は主に光学文字認識技術を用いて、画像や動画に含まれる文字データの判定精度をどれだけ上げられるのか、データ集めをしているところです。有害情報を検出しても、他人の投稿を勝手に削除することは難しいため、「この投稿は有害情報です」というリプライを投稿者に返すのですが、そのリプライを効率的かつスピーディに投稿できるような仕組みに落とし込んでいます。
――この研究のどんなところに難しさを感じますか。
この数年、絵文字を使って隠語を表現するバリエーションが増えています。単に隠すのが目的ではなく、キャッチーな絵文字でユーザーを安心させて、「楽にたくさん稼げるよ」と訴求する。つまり、若者の興味を引くためのマーケティングなんです。現状のAIでは検出できない絵文字表現がたくさん出てきているため、新しい学習データを作って追加学習を行い、調整・最適化していくファインチューニングを行う必要があります。おそらく犯罪組織は、私たちの数十倍の予算を使って、AI開発やアカウント購入を行っているはずなので、太刀打ちするのはなかなか簡単ではありません。だからといって何もしないわけにはいかないので、青少年の被害防止にいかにして貢献していけるのか、日々知恵を絞っています。

現場に足を運び、多くの人と協働しながら課題解決をめざす
――これまでの研究成果と、今後の展望について教えてください。
私が福井県警と共同開発したAIの導入によって、サイバー犯罪対策課の捜査員がSNSの有害情報を検出する作業時間が、Xでは2倍、Instagramでは34倍の速さで警告を出せるようになりました。情報検出のための作業負担を削減すれば、捜査員が他の仕事に時間を割くことができます。私自身は2025年4月に本学に着任し、福井から大阪へと拠点を移しましたが、現在も福井県警のサイバー犯罪対策テクニカルアドバイザーを務めており、連携を続けています。今後は大阪府警ともコンタクトを取り、協働できる形を模索したいと考えています。いずれは全国の警察署で実装していけるといいですね。
――研究者として生涯を通じて取り組んでいきたいテーマや目標を教えてください。
地域課題と最先端技術をつなぐことが、私のミッションです。地域がそれぞれの問題を抱えている一方で、新しい技術がなかなか活用されていないという現状があるので、技術を使ってより良い世界に寄与していきたいと思っています。社会実装の先には、必ず困っている地域や困っている人たちがいます。現場に足を運び、その人たちの話を聞いて、問題の本質を捉える。その上で、必要なものや知識をかき集めて、研究者も行政も民間も一緒になって、みんなで社会の問題を解決していくことが重要です。創発とは、研究室の中で議論するだけでなく、足で探して見つけていくものだと思っています。
Hints for SOUHATSU
創発につながるヒント
「創発とは、足で探して見つけるもの」と力強く話してくれた安彦先生。有害鳥獣対策の研究のため、自ら第一種狩猟免許を取得し、罠免許も保有していると聞いて驚きました。行政や企業、他分野の研究者との連携はもちろん、地域の猟友会など、現場の最前線にいる人たちと共に行動し、丁寧な対話を重ねているからこそ、最先端技術の社会実装が実現しているのでしょう。具体的な行動の積み重ねが創発につながることが改めて実感できました。
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