主体的に学ぶ姿勢をはぐくむために教員・職員それぞれが何に取り組み、学生とどう向き合うべきかを考える。(後編)
100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は教育ビジョンをテーマに、各学部の教員と教育や学習支援に関わる部署で働く職員の方たちが学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。教職員像や教育法について考えた前編に続き、後編では大阪経済大学の学生にとって必要な教育、ビジョンに述べられている「自ら学びをデザインできる学生」について議論しました。
教育ビジョン
自らの学びをデザインできる学生を生み出す
予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。
今回の参加者
学長
山本 俊一郎さん
埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。
経済学部
閻 立さん
経済学部教授。日本経済史研究所所長。専門は近代日中関係。日中交流史、中国近現代史、中国語を担当。
経営学部
高原 龍二さん
経営学部教授。専門は産業組織心理学。組織調査演習、行動科学実験法、リーダーシップ論を担当。民間の調査研究機関で働いた経験を持つ。
情報社会学部
岩佐 托朗さん
情報社会学部准教授。専門は日欧比較文明・比較文化。ヨーロッパ研究、国際社会論、TOEICⅡを担当。グローバル企業に勤務後、フランスで修士号、イタリアで博士号取得。
人間科学部
田島 良輝さん
人間科学部准教授。専門はスポーツとまちづくり。スポーツ社会学、地域スポーツ論を担当。ゼミではスポーツの現場に出かけ体験的な学びを重視。
SCTL(教育・学習支援センター)
荒川 崇さん
教育・研究支援・社会連携部教育・学習支援センター(SCTL)。教学IR、FDなど教学マネジメント支援、入学前教育、授業支援、学生支援などを担当。
教務部
矢島 克也さん
教務部教務一課。学籍や試験成績業務を経て、現在はカリキュラム改革支援、授業時間割編成、履修管理(履修割当・登録)などを担当。
「勉強の大変さも面白さも1年次に体験させる」田島 良輝さん
——前編でも議題になった、学生の成長という点について、もう少し掘り下げて考えていきたいと思います。本学の学生の成長のポイントや成長ステップについてお気づきのことはあるでしょうか。
田島さん これまで勤務してきた大学では1、2年でぐっと伸び、3年で止まり、4年で伸びるというイメージがありましたが、本学は少し違うと感じます。1年次は優秀なのだが、2年、3年とどんどん下がって、4年で急にまた伸びるという。学んだことを貯め込んでおいて一気に出すということなのでしょうか。
高原さん あるいは、お尻に火がついたのか(笑)。
田島さん 反省しているのは、1年の時に「大学は勉強する場だよ」ということをもっとしっかり仕込んでおいた方がよかったのではないか、ということです。自由に科目を選べるのはいいのですが、基礎としてやらなければならないことはあるので、1年の時に強制的にそのような学びを経験することも必要ではないでしょうか。
岩佐さん 基礎演習がその役割を果たすのではありませんか。
田島さん そうなのですが、教員によって教えるレベルが違いすぎるかなと。たとえば、ちょっと乱暴な話ですが、1年生には必修として3カ月ぐらい頑張ってもらい、全員簿記3級を取得させるとか。ご褒美のように資格が取れたら学生も頑張るかもしれません。
学長 勉強をする癖をつけるということですね。コロナ禍でオンライン授業が中心になったことで、レポートなどの課題が多いという学生の不満も出ています。反面、レポートを出さなきゃいけないから仕方なくでも勉強し、「毎週毎週レポートがあったから理解できた」というようなことを言う学生もいます。多少の負荷をかけることも必要かもしれません。
田島さん 特に運動部には学力や学びへの姿勢で気になる学生もいます。学力が足りない学生には学習支援なども含め、オーダーメイドで育てていくことも考えるべきではないでしょうか。また、スポーツ評価型入試であっても、大学でスポーツだけできればいいという学生を取るような時代ではないかもしれません。
「グローバルな体験は後で伸びる材料になる」閻 立さん
岩佐さん 私がとくに成長のポイントだと感じるのは、留学ですね。海外では自分で考え、動かないと何もできない。そこでもがく半年や1年を経験すると、学生たちは別人のようにしっかりして帰ってきます。今、経済的な問題で留学をあきらめてしまう学生がたくさんいます。本学には、ジャンプアップ海外留学奨学金もありますが、飛行機代や生活費の負担は相変わらず大きい。大学の特色として、何人かは大学が全費用を負担するといった支援をするのはどうでしょうか。これからは、大学のグローバル化という意味でも留学を促進し、留学した学生自身が成長するだけでなく、同時にいろいろな刺激をキャンパス内で発信して他の学生にもよい影響を与えてくれるはずです。
高原さん 経営学部には、海外実務研修というプログラムで1年生を対象にアジアでの企業訪問を5泊ぐらいの日程で行っており、一時期私が担当していました。定員は30人程度で、学生の負担は3万5000円、残りは学部費用で賄います。担当者にとっては受け入れ企業の開拓から旅行会社との折衝などなかなか大変な仕事ですが、5日間海外に行ってくるだけでも学生は変わります。海外に目を向けることは大事ですし、そこで興味を持って留学につながればというような思いで企画をしていました。ただ残念なことに、1年生のうち応募するのは10%ほど。海外、特にアジアには興味を持たない学生が多いです。
学長 経済学部も、学部予算を使って海外実習を行っています。
田島さん 人間科学部も海外実習をつくりました。上海体育学院に1週間ぐらいの日程ですが、学生負担は10万円ぐらいです。前任校でも同じようなプログラムを担当していたのですが、本学は応募が少ないと感じます。前任校と比べて学力レベルは高いのに半分ぐらいしか応募がないのです。英語のハードルを下げようと授業を日本語でやってもらうなど工夫しているのですが。
高原さん 本学には自宅から通う学生が多いですよね。ずっと地元に暮らしており、ローカル指向が強い学生が多いということが言えるかもしれません。
岩佐さん 私は、3週間の語学研修の引率をしたことがありますが、ホームステイをすると、もじもじしていた学生が見る間に成長します。文化が違い、理不尽なことがあったり言葉が通じない中でもまれ、劇的に変化する様子には本当に驚かされます。語学研修が、半年や1年の留学に行くきっかけになっていることも事実です。この語学研修は、10年前は応募する学生が並んで順番待ちをしていたぐらいでしたが、徐々に応募者が減り、数年前には学生が揃わなくて実施できないぐらいまでになりました。
学長 なぜそうなったのか、本学の学生の事情をきちんと調べないといけませんね。
閻さん 私は以前、国際交流委員長を通算で5年ほど担当していました。その時に感じたのは、本学の留学制度が実に充実しているということです。例えばカナダやニュージーランドに短期語学留学するのに3割の費用援助があり2単位も取れ、しかも3週間のうち1週間は教員が引率しています。他の大学にはそんな行き届いたサービスはなかなかありません。残念ながら学生たちはそれを知らないようです。異文化に直接触れ合った経験は10代の学生にとって、後で伸びるための材料になるでしょう。私としては、学生に就職活動を始めるまでの限られた時間の中で、自分で計画を立てて留学を実現するというプロセスを経験させて、彼らの自信を育てたいとも思っています。現在は海外に行きたいという学生が少ないようですが、研修や留学の魅力を知らない学生も多いのではないでしょうか。学生同士で発信し合える仕組みをつくり、学生のコミュニティの中で情報を共有できるようにするのがいいのではないかと思っています。留学経験者が中心となり学生目線でSNS等を通して発信するグループがあればいいと思います。
田島さん 確かに違うと思います。学生が学生に教えることは、伝える側にとっては自信にもつながりますし。卒論発表会の時に、留学体験談を話したりするだけでも認知度はあがりそうです。各学部の海外体験をした学生たちの発表会や交流会を行い、そこまで参加したら単位になるような仕掛けにしてもいいですね。
岩佐さん 自分の体験を伝えれば、他の学生にも貢献できます。
田島さん 広報活動にもなるし、その動画をSNSへあげてもいいでしょう。
閻さん 今の時代、KVCだけでは情報発信が足りないでしょう。学生には自分をアピールしたい一面もあり、発信したい学生は多いですよ。チャンスを与えてあげましょう。
学長 自信を持たせることって大切ですよね。最近、学生を褒めていないなあと改めて感じました。この学生にはこのくらいしかできないかというような枠をはめてしまっていると、それ以上伸びていくわけないですよね。褒めて調子に乗ってもらわないと(笑)。
閻さん 海外の先生は、本当によく褒めますね。褒めながら学生の中にどんどん入っていって、引き出すのが上手です。文化もあるのでしょうが。
岩佐さん 本学に入学した学生の共通点は、必ずしも「大経大合格、おめでとう」となっていないことかもしれません。他大学に落ちて本学というパターンも多く、親にも褒めてもらっていない。だから、いいところを伸ばす意味でどんどん褒めるようにしています。「今までの人生で、そんなにほめられたことはない」と言う学生もいます。本学に来て良かったと感じてもらえるよう工夫をしています。
「面倒見のよさだけではオリジナリティが育たない」矢島 克也さん
田島さん 2000年の初めぐらいからⅤ字回復した大学の多くは、「面倒見がいい」「就職が強い」で売っています。しかし、これからの時代はこれらを必要条件として、プラスアルファの力、既存の価値観に×印をつけられるような、社会を変えていく力を身に付けていかなければならないと思います。私たちは、100周年に向けて、それができる今までより少しだけ尖った人を輩出しないといけないのではないでしょうか。
矢島さん 先輩の職員から「就職偏差値」という考え方を教えていただいたことがあります。面白いね、ちょっと違うねと評価されるオリジナリティを持った学生を増やしていくのに、その考え方でいいのかどうか。就職の面倒見がいい大学ということで評価されているのは間違いないと思いますが、目先の就職のための教育とその先を見据えての教育、そのバランスはどうなのでしょうか。
高原さん そう、難しい問題ですね。経営学部はゼミが必修ではありませんが、ゼミに入る理由として、ゼミに入らないと就職できない、という学生が結構います。目標を間違ってとらえてしまっているのです。
学長 就職偏差値というのは、もともと、受験偏差値は低いが4年間成長させて卒業の時には企業に認められるようにします、という意味だったと思います。ただ、偏差値という言葉を使う時点で、点数による輪切りで人を評価する土俵に乗ってしまっているとも言えます。そういう考え方から脱しないといけないというのは、確かにそうだと思います。
矢島さん 最近、アンラーニング、学習棄却という言葉を知りました。新しいことを学ぶには、自己認識を踏まえて学んできたことを一度リセットしないといけない、というような意味だと理解しています。例えば、一般教養科目(本学の全学共通科目)の難易度を高度化する等の工夫をして、3~4年生にもあえて専門分野と交互に専門外のことを学んでもらうことで、自分の専門分野での学びを客観視するような役割を一般教養科目(全学共通科目)に持たせようとしている大学もあるようです。全学共通科目は1年生で全て終わらせて、その後はずっと専門分野、というのとは違う考え方ですね。また、海外研修や留学も、アンラーニングの視点から見れば、今いる場所から離れることで自分のしていることを客観的に見るきっかけになるでしょう。関西学院大学では、サイト上で学内の語学研修や各学部の取り組みを一つにまとめて見られるようにしており、そこには正課も正課外も両方並べてあります。学習とアンラーニングの学びの循環を設計しているように感じられます。そのような学びの仕掛けをつくっていければ、海外に行こうという学生数の増加につながるかもしれません。
「わくわくとコミュニケーションの場づくりを」岩佐 托朗さん
——それでは、教育ビジョンにある、「自ら学びをデザインする」ということについて話し合っていきましょう。
学長 今までの議論でいうと、「自ら学びをデザインする」は、「当事者になる」という言葉で十分に置き換えられると思いました。すでにみなさんが教育の中で意識してやっておられることなので、あとは、学生にどう伝えるか、ということが重要だと思います。以前、勉強が大嫌いだという学生を、徳島県でのフィールドワークに連れて行ったら、「勉強って楽しいと初めて気づいた」と言っていました。そのような気づきの場が、勉強だけでなく、課外活動や、カードゲームで遊ぶみたいなオフの活動の場でもいいからあるといい。以前、座談会に参加してくれた大塚さんがビオトープをつくりたいと言っていましたが、それをきっかけに環境に関心を持ってくれてもいいでしょう。いろんなタイプの学生にきっかけをつくっていくことが大事でしょう。
岩佐さん 私たちはつい、必要なのは勉強をする場づくりだと考えがちですが、学生は何か楽しいことに、より刺激を受けます。やはり、何か面白い、わくわくするような場所、居場所や「たむろ」できる場をつくることも必要なのでしょう。立派な場所である必要はなくて、たとえばJ館の横でダンスサークルが踊っている、ああいうのを見るだけでワクワクするというようなこともあるでしょうし。
学長 コロナ禍でオンライン授業が増え、保護者からキャンパスライフを経験させられないことへの不満の声をよく聞きます。やはり学生は、友だちとしゃべりたいし、キャンパスの雰囲気を満喫したいんですね。本学は、それをどこまで用意してあげられているのでしょうか。
荒川さん 学びをデザインできるとは、正課内外の自分に必要なものとは何かを自分で考え、どういう段階を経て学んでいくのかまでデザインできるということでしょう。一番低次元では、カリキュラムを見て履修登録できること。そのうえで、それぞれの授業がどうつながるのかとか、付随して大学の授業以外でもこんなことをしないといけない、というようなことを自分で決められることです。そのために、授業以外の選択肢を広げる場を設けることは大切だし、たむろする場所もとても大事だと思います。コロナ以前から、セキュリティのこともあって、外から入れないとか、授業をやっていない時は教室にカギをかけるとか、ちょっと閉鎖的になってきています。広いキャンパスではないので、そういう場をうまくつくっていくようにできたらと思います。
「学びをデザインするための基礎づくりが大切」高原 龍二さん
田島さん 自己肯定感を高める場も必要ではないかと思います。オープンキャンパスや就職活動などで頼りになる、必要とされる経験であってもいいでしょう。職員さんのほうがより学生にそのような場面を提供できることもあると思います。私は、授業で学生を外に連れ出すことによってそうした場をつくろうとしてきましたが、うまくいく時といかない時があります。その違いは、目的の設定がしっかりできていたかどうかです。だから、目的意識がはっきりしていると学びがデザインできるという面はあると思います。私たちは、それが引き出せるように、学生をもっと知らないといけないし、知るためには時間や大らかさが必要になる。今までの議論とつながってきますね。少し横道にそれるかもしれませんが、目的意識を入試段階から考えていく必要はありませんか。長期的に見て子どもが少なくなる中、もっと目的意識をベースにしたような学生の取り方も必要になってくるのではないでしょうか。海外ではそのような入試を行っているというイメージがありますが。
岩佐さん ヨーロッパの場合、学部レベルでは大学入学資格試験で進学先が決まることが多いですね。一方、大学院では、面談で人物も見ます。なぜ入学したいのか、自分のテーマについて魅力のある発言ができるのか、そして、自分という人間をどのように表現できるかなどで評価されます。私の行ったEUI(欧州大学院)はEU加盟国から学生が集まっていましたが、頭がいいだけでなく、並行してフルートではオーケストラの楽団員であったり、サッカーではリーグに所属する実力があるなど多彩な能力を持ち、かつ他者を思いやる気持ちなど人間性の点でも優れた学生がたくさんいました。まさに総合的な人間としての魅力で選抜しているのですね。
高原さん 高校を卒業した段階で目的意識を持たせるのは難しいかもしれません。経営学部の二部では必修科目はなく自分で学びをデザインできるようになっていますが、基本的に社会人を対象としているからできることです。目的を持てるような、目的を持った時に選べるような環境を整えることも大事ですが、まずは基礎的な部分を叩き込むステップがカリキュラムとして絶対に必要だと思います。学びをデザインできるように何を教え込むか、刷り込むか。そこを整えていく必要があるのではないでしょうか。
矢島さん とくに基礎演習で、1年生の間にクリティカルシンキング、ロジカルシンキングをしっかりと教えることが、自ら学びをデザインできる学生を育てることにつながると思います。大学の学びに必要なものを突き詰め、プログラムを提供することを検討してもいいのではないでしょうか。その際には、今後も増えていくと言われている発達障害の学生たちも含めた多様な学生を想定しながら、教育やサポートを考える姿勢を持つことも求められると思います。実務的な問題でいえば、自分で学びのスケジュールを組みやすいように、開講する曜日や時限の固定化などについても検討しなければならないかもしれません。他大学では、1コマの時間を105分に長くしてセメスター期間を短縮し、留学や正課以外のプログラムにも参加しやすいようにしているところもありますので、本学でも同様にするかはさておき、検討は進めたほうがよいと思います。
岩佐さん 目標が留学であれば、いつどの国に行くのか、そのためにはTOEICで何点を取るのかなど、逆算して準備できる力を蓄えさせたいですね。それが税理士資格などであっても同じだと思います。具体的な目標がない学生には、何を目標にして自分を鍛えていかなければならないのかを考えさせるヒントを与えるのが私たちの仕事です。それはなかなか難しいですが、ゼミではグループワークで話し合わせ、お互いを知ることを大切にしています。何回もグループを替え、ありとあらゆる質問に互いが答え尽くすとゼミ生の一体感が生まれ、資格や就活やプライベートなどについても話し始めます。教員から示唆するより、学生同士のつながりの中から生まれてくる方が自然で実現性が高いアイデアであることも多いんです。
閻さん 自ら学びをデザインできる学生を育てるのは時間がかかりますが、それを実現できている学生も少しですがいます。多くの学生は自分の目標が見つけられないのですが、わかりやすいのは就職という目標でしょう。演習の中に企業研究のポイントを入れたりして、早くから取りかかるといいかもしれません。
岩佐さん 就職については、現実的なものをあまり早くに見せると問題もあるような気がします。私は基礎演習の時に、最低限、就職活動のタイムスケジュールだけは教えています。
「壁を取っ払うにはよく話し、向き合うこと」荒川 崇さん
——それでは最後に、対学生や教職員間の関係をよりよくするために、どのようなことが大切なのかを話し合っていきましょう。
閻さん 学生とよりよい関係性をつくるにはバランスが大切だと思います。あまり近すぎると友達になって指導しにくくなりますし、厳しくなりすぎると本音が出てきません。人生の長い経験を背景に、師の立場で学生との関係を守っていくのがいいと思います。
荒川さん 関係づくりに一番いいのは、面と向かってコミュニケーションを取ること。職員と学生、教員と学生の間にある壁を取り払うには、やはりよく話すことが大切になってくるでしょう。学生とひとくくりにせず、一個人として向き合うことを肝に銘じたいと思います。
田島さん どれだけ学生のこと知っているか、と言われたら、何も知らなかったりします。当たり前のコミュニケーションが大事だというのは、その通りだと思います。
高原さん 学校教育法の改正やそれに伴う学内規程の変更によって、教員が教育研究をする機械のような位置づけになってきているのを感じています。例えば、このインナーブランディング事業は教職員両方がターゲットとなっているわけですが、内部にいる経営学やマーケティング専門の教員はその企画に関わっていません。私はこれまで、中央集権化は構成員のパフォーマンスを下げること、ゼミの所属はそもそもの成績を差し引けば有意な影響力を持たないことなどについて、根拠に基づいた意見や提案をいくつか発信してきましたが、一向に取り入れられたことはなく、とても残念です。専門性に基づいた発信が尊重されない中で教職協働といっても困難です。委員会制度の廃止もこれに拍車をかけています。委員会は、教員と職員との職種横断的な小集団活動としての機能がありましたが、廃止されて職員の方々と話す機会はめっきり減りました。また、教員にとっては、小さな役割を担当して大学の全体像を知り、次に執行部へとステップアップするという組織教育の場でもありました。これがなくなって、教員は明らかに組織に対して無関心になっています。教授会への参加者も減っているし、参加しても発言する人は限られています。そこで降ってきたことをやっていればいい、まさに研究教育する機械でありたい、という教員さえ特に若い人に増えてきているのを感じます。大学運営には興味がなく自分の研究ができればいいという教員は組織人・社会人とはいえません。そういう教員が社会人になる教育をするというのはどうなのでしょうか。専門性をいかに組織に生かせるかというところも含めて教員でありたいし、そのように見なしてもらうことで教職協働につながるのではないかと思っています。
矢島さん 働きながら感じているのは、教員・職員間にオープンな雰囲気があまりないことです。積極的に関係者間で議論したり情報交換をしたりするほうがいいと思います。閉鎖的であれば、先生方に本音で話をしようという雰囲気にならないし、本質的な議論を抜きにしてとりあえず事務的に承認を取るというスタンスになりがちではないでしょうか。ビジョンを実現するカリキュラムにしようというのであれば、ビジョンの意味をみんながどう捉えているのかをすり合わせていかないと、科目の設定もできないと思います。深い部分でしっかり話し合いがされていないと、先生方も科目のアレンジができないでしょう。言いたいことが互いに言い合える、議論ができるように、オープンな空気感をつくることがとても大事で、具体的にどのような取り組みができるのか考えていかなければならないと感じます。不必要な壁があるなら、一つずつとっぱらっていく作業を意識的にすべきだと思います。
岩佐さん 本学の正規の教職員は250人で、規模感からいうと中堅企業です。私が以前働いていた企業では従業員が全世界に26万人もおり、面識がある人は非常に限られていました。経営トップに会うこともできない。それに対して本学では、こうして学長も含め話し合える恵まれた環境にいます。しかし、私たち教職員は会おうと思えば会える環境にいるのに、委員会廃止などで機会が失われつつあります。職員と教員は、互いが見えないから乖離が生まれるのだと思います。垣根を取り払い肩の力を抜いた交流を持つことを、頻繁に行っていけたらいいと思います。何気ない場でこそ本音が聞けるので、学生だけでなく教職員にも「たむろ」できる場ができたらいいですね。それから、今日の座談会で感じたのですが、職員さんは他大学のことに詳しいですよね。
荒川さん ホームページはよく見ています。私は大学政策関係の大学院に行っていたので、全国各地の大学職員とのネットワークがあり情報交換も頻繁にしています。とくにコロナ対策などでは、いろいろと連絡を取り合いました。
岩佐さん 教育や大学の体制づくりについて、具体例を職員さんから教員に発信してもらう場や機会があればいいと思いました。定期的に共有すると、教員にもいい刺激になります。職員さんからのアイデアをもっと積極的に出してもらうといいと思います。
閻さん 私の研究室は教務部と同じ棟にあり、何かわからないことがあると直接聞きに行っています。ご迷惑かもしれませんが(笑)、いつもすごく丁寧に説明してくれて感謝しています。情報をオープンにするなら、まず教員から頻繁にコミュニケーションを取るようにすればいいのではないですか。
岩佐さん ただ、そこでは仕事のことがメインですから(笑)、余分な話が膨らむというゆとりがありませんよね。今日みたいなざっくばらんに話ができる場があればいいと思います。
高原さん 顔を合わせて話すのが一番というのは、間違いないと思います。講演などに行くと、質問はありませんかと言っても誰も質問しませんが、終わってからの雑談の中でなら質問が出てきます。
学長 委員会組織の廃止は、教員の負担を減らし研究・教育に力を回そうというのが本来の目的でしたが、それが伝わっていませんでした。また、廃止した効果を検証し見直すこともできていません。教職員のつながりが大切と言いながら、分断されていたことを改めて理解しました。教育のあり方については、今日参加してくれたみなさんの考えを突き詰めていくと教育ビジョンに近い方向に向かっていることがわかり、心強く感じています。一方で、大学のあり方については、「就職に強い」に変わる、本学ならではの何かを見つけていかなければという危機感がより高まったと感じています。さらにこうした議論を広げて、みなさんと一緒に考えていきたいですね。
conclusion
座談会を終えて
経済学部
閻 立さん
この座談会を通して知った情報もたくさんありました。今後も、情報をできるだけオープンにし、今日の座談会のような教員同士や教員と職員が交流できる機会がたくさんあるといいと思います。
経営学部
高原 龍二さん
いい勉強になりました。教職協働はキャッチフレーズだけではうまくいきません。ボトムアップ型のシステムがきちんと稼働するには、知恵を出し合っていかなければならないと思います。
情報社会学部
岩佐 托朗さん
司馬遼太郎の言葉に「人間ほど面白いものはない」というのがありますが、今日の座談会はまさにその醍醐味。このような学部横断、職員教員横断的なざっくばらんな意見交換を、今後も発展・継続してほしいと思います。
人間科学部
田島 良輝さん
20~30年後に「あの時やったから今がある」と言えるような教育をやらなければならないことを再認識しました。短期的な目標も大切なので、それをバランスよく組み込んだカリキュラムを、100周年に向け具体的に考えられたらと思います。
SCTL
荒川 崇さん
普段、学生とさまざまなところで接している、その接点の多様さを改めて認識した気がします。学生からどう見えているのか、それは自分が思っている姿と同じなのかを意識していきたいと思います。
教務部
矢島 克也さん
組織・人には、ある程度のしがらみや対立はあると思います。ただ、境界線はできるだけないほうがいい。境界線になりそうなものは、意識して除外していくこと、課題に対して垣根を越えて取り組んでいくことが大切なのだと感じました。
学長
山本 俊一郎さん
とても充実した議論になりました。教育ビジョンについては、今できていないからやろうというよりは、できていること含めて方向性を打ち出したいという気持ちでしたが、やはり見ているところは同じということが確認できてうれしく感じました。一方で、取り組みの意図を伝える、結果を検証するなど、できていない点も明らかになりました。これらは教職員がつながるために必要なことであり、学生とつながる教育を実現するにあたってぜひとも解決すべき課題だと思います。
1min いろいろアンケート
座談会参加者から、教職員のみなさんに聞いてみたい質問を集め、アンケートを実施しました。本学の隠れた一面を発見したり、新たなアイデアが生まれてくるかもしれません。
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