座談会

ハイブリッド授業や反転授業。情報環境の充実が可能にする「学びをデザインできる学生」を生み出す教育とは。(前編)

100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は、新型コロナウイルス流行によって急速に変化した情報環境と教育ビジョンの実現について、2020年度FDフォーラムで「Webを利用した授業の事例報告」を行った教員と情報システム構築を担当する職員が学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、2020年度から行ったオンライン授業の取り組みを振り返りながら、本学教育におけるICT活用の現状と課題について考えました。

教育ビジョン

自らの学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。


今回の参加者

学長

山本 俊一郎さん

埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。

経済学部

上宮 智之さん

経済学部准教授。専門は経済学史。授業では、アダム・スミス以前から20世紀までの経済思想や経済理論に対する理解を、当時の社会問題や文化、科学の発展と重ね合わせながら導いている。eラーニングシステムを新型コロナウイルス発生以前から活用。

経営学部

稲岡 大志さん

経営学部准教授。専門は哲学。新聞や雑誌の悩み相談記事を教材に、哲学の学説を教える試みも。文章を読む、筋道を立てて書くといったスキルの獲得を重視し、オンライン授業でもその訓練になるよう工夫している。

情報社会学部

草薙 信照さん

情報社会学部教授。専門はコンピュータ科学。地理情報システムを用いた地域経済分析がテーマ。オンライン授業を円滑に進める仕組みに興味があり、授業の特性に応じた進め方を探っている。

教務部

大井 順平さん

教務部教務一課。試験・成績業務を担当。KVCやその基盤となる業務システムに関する調整や補助にも携わる。対面授業中心に戻っても、オンラインツールの活用を推進できると考えている。

財務部

外村 翼さん

財務部情報システム課。事務系システムの担当を経て、現在は教育系システムの導入・メンテナンスを担当。2020年度からオンライン授業の支援業務に力を入れている。今後もオンラインに特化したツールや設備の充実を図っていく。

「オンライン授業の大変さを楽しんでいるところもある」草薙 信照さん

——2020年よりオンライン授業が始まりました。それ以来、現在まで、どのようなオンライン授業に取り組まれているのか具体的にお聞かせください。

上宮さん 事前に作っているスライドに音声を入れ、動画化してWebClass(eラーニングシステム)に載せています。学生にはそれを視聴したうえで小テストを受けてもらい、それで平常点を決めています。

外村さん WebClassを使っている先生は、現在、30~40名ほどいらっしゃいますね。

草薙さん KVC経由で動画を配信するのではないんですね。

上宮さん オンライン授業では、学生が手を抜くことができてしまう側面があります。たとえば、問題を出すと学生が答えを教え合ってしまったり。その点、WebClassには、少しずつ設定を変えてランダムに出題できたりする機能もあって便利なんですよ。学生には授業料に見合った内容を提供したいし、学んだことを身につけてほしいので、手が抜けないように縛っているところはありますね。学生の方も、真面目にやろうとすれば結構大変なので、要領よく手を抜いた人も評価が同じというのでは納得しませんしね。

準備にはとにかく手間がかかります。土日は、ずっとパソコンに向かって音声を吹き込んでいます。家で子どもの声や近所の騒音が入ったりしたら取り直さなければならないし。その意味では、1時間半、教室でしゃべれば終わる、対面型の授業の方が楽だなという印象です。学生の感想としては、「えー」とか間合いを取る不要な言葉も入らないし、学生がノートを取る間、待っていたりすることもないので、「同じ時間でもより多くの内容が学べる」などポジティブなものもありました。

草薙さん 今のお話に、激しく同意しています。残念ながら手を抜く学生は絶対にいて、たとえば授業後に提出してもらう小テストの解答数と視聴者数にずれがあり、ビデオを観ないで解答だけしている学生がいるんだなと(笑)。また、ビデオづくりに手間がかかるのもその通りです。僕もスライドを見せながらしゃべるスタイルですが、当初は3回ぐらい撮り直しました。少しでも効率よくやろうとする先生は、スライド1枚ごとに動画を録り、翌年も使えるところは使っているそうです。私は、一人漫談みたいに一気にしゃべるのでそうもいかず、1日に3本授業があって全部オンラインだった時は、準備で死にそうでした(笑)。とはいえ、そういう自分のやり方を楽しんでいるところもあるのですが。オンライン授業のやり方には先生それぞれ個性が表れていますね。

稲岡さん 私は、オンライン授業で動画を使っていません。昨年、オンライン授業導入の前に、他大学の授業や教育系ユーチューバーの動画をいろいろ見てまわりました。よく作り込まれていて優れたものも多かったのですが、それでも動画をずっと観るのは苦痛だと感じたんです。つくる手間はかかるし、観るのもきつい、学生の通信環境が様々なのに、あまり負荷がかかるものはどうかとも考えて動画はやめ、文字を使うことにしました。

授業でしゃべる内容をテキスト化し、試しに、授業時間にTeamsのチャット欄にテキストを2~3行づつ区切って投稿してみました。PDFで配布することも考えたのですが、それだと学生がどう読んだのかがわからないため、リアルタイムに配布したほうがいいと判断しました。ただログは残しますので、後で読むことも可能です。チャット欄には画像もアップロードできますし、動画を見せたい時はYouTubeへのリンクを貼ることもできます。文字を大きくしたり強調したりもできるので、意外と使い勝手がいい。「質問や意見を投稿して」と学生に言うとわりと返してくれ、質問からディスカッションが始まることもあります。学生はシャイなので対面だと議論にならないことが多いのですが、チャットだと活発にやり取りできて内容もすごく面白いです。

授業の準備については、私も大変だと感じています。1回の授業で2万から2万5000字ぐらい書いて、それを週に3~4回の授業でやっているので、毎週薄めの新書を1冊書いているような感じでしょうか。基本的に休みがない状態です。

学長 僕は、みなさんより授業を少なくしていただいているということもあり、当初からいろんなことを試してみました。FDの発表で稲岡先生の授業スタイルに衝撃を受けたので、昨年は経済地理学の授業でテキストのPDFをつくりました。「それはどういうことなのでしょうか」みたいなつなぎの言葉を入れてスクロールを進めさせ、自然に学べるようにしたものです。しかし、稲岡先生もおっしゃったように、言葉を全部書いていくのが大変で(笑)。

今年は動画にして、ホワイトボードを使った東進ハイスクールみたいな形式でやろうとしましたが、カメラを見てホワイトボードに書いてというのが意外に大変でした。よく考えたら、僕は対面授業でもあまり板書をせずスライドを使っているんですよね(笑)。対面だと、スライドを消したり飛ばしたりしたら学生から「飛ばさないで」と言われますが、オンラインだと録画しておけば後でも見られます。板書の時間ももったいないなと思い直しました。結局、一周回ってスライドの動画に戻った感じです。

外村さん 先生方のお話をうかがって、オンライン授業の教材をつくるのに、相当な労力が必要なことが改めてわかりました。当初オンライン授業は、対面でない分、時間を効率的に使えるのではないかと思っていましたが、今、それは甘かったなと感じています。

大井さん 私も、履修のやり方などの簡単な動画をつくったことがあるのでわかりますが、コンテンツをつくり込めばつくり込むほど負担は大きくなります。草薙先生のお話にも出ましたが、ある程度使いまわせるコンテンツをつくっておいて2年目以降は変更点だけつくり直すというやり方で、少しは労力を減らせるのかなと感じました。

——2020年の導入時は、スムーズに進んだのでしょうか。

外村さん Teamsは、新型コロナウイルス流行の前から、1、2年ぐらいかけて教員・学生へ普及させるよう計画していました。それがコロナ禍で使わざるを得ない状況に陥り、1カ月ほどは問い合わせなどで相当バタバタしました。先生や学生には急な対応をお願いすることになりましたが、特に先生方は自主的にお互いに練習し合うなど、スムーズな導入にご協力いただきました。2年目に入った今年は、問い合わせも「このような課題を出すにはどのツールを使ったらいいのか」など突っ込んだ内容になってきており、こちらも調べながら学ばせてもらっています。

草薙さん 私は学生に助けられましたね。いろいろ試してみては、あんなことも、こんなこともできると教えてくれました。オンライン授業も、YouTubeと同じような感覚で抵抗がなかったようです。スマホの小さい画面でも十分観られると苦にもしていなくて、感覚が違うなと思いました。

「卒業生も応援しているというメッセージを伝えたかった」

——オンライン授業だから行ったことや工夫があれば、お聞かせください。

学長 去年は毎回課題を出しました。学生から「オンラインはしんどい」とよく言われる一因は、僕の授業のせいもあるかもしれない(笑)。あまりしんどいと言われるので今年は課題を出すのを5回ぐらいにしたら、課題が出ていない回は視聴人数が見事に減りました(笑)。

草薙さん 出席確認が取れないオンラインでは、課題を返すことで出席になりますからね。少しずつでも、毎回課題を出す必要がありますよね。

上宮さん 私は毎回、動画のどこかで、小テスト画面に入るためのパスワードを言うことにしています。動画を観ていないと小テストにアクセスできないので、視聴者数と小テストを解いた数がほぼ揃います。単に手抜き防止というだけでなく、経済学で使う英単語や著名な学者などの名前をパスワードに設定して、少しでも覚えてもらえたらと思っています。

大井さん 手を抜く学生の割合が増えないようにしたい一方で、やる気のある学生にはそれに値するコンテンツを提供しなければならないですよね。その意味で、上宮先生のやり方はすごくいいと思います。まずは、やる気のある人がちゃんとやっていきたいと思うような授業を提供していくのが基本ですよね。さらに理想を言えば、楽して単位を取れればいいという人も自発的に次の講義を観たい、という気持ちに変わっていくといいのですが。

草薙さん 対面授業でも試験の時は出席が増えるし、オンラインだからといって学生の姿勢は本質的には変わっていない気がします。オンラインだから工夫したことといえば、いかに退屈させないかを重視したことでしょうか。スライドでは、アニメーション機能を使って必要な要素を一つひとつ見せることで、画面に集中できるようにしました。臨場感を出すようなしゃべり方も意識しましたね。画面共有をすると小さな画面になりますが、それでも、間の取り方や大げさな手振りとかを入れるとかなり変わります。

学長 学生がいない空間で、間を取るのは難しいですよね。笑いを取ったりとかも考えていますか。

草薙さん しゃべる以上は、笑いを取らないと(笑)。やる以上は、学生が楽しんでくれたほうがいいという気持ちがあります。ただ、僕はだいたい話が長くなるので、よく学生から意見されています(笑)。

稲岡さん 私も、文字であっても面白くしようと思っています。インターネット特有の文化、たとえば、ネットスラングを使うとか画像でレスを付けるなど、そういうのもちょこちょこ入れながら、学生に飽きさせない工夫をしています。

学長 動画の質は上げていけるような気がします。一度、実験的に職員さんにカメラマンをしてもらって、大事な部分ではズームで映したりして、映像に変化をつけようとしたことがあります。照明とかの関係もあって難しく、結局できなかったのですが、いろいろ試してみるのは面白いと思います。

外村さん Teamsには、オンライン授業に特化したような機能がどんどん増えてきています。これまで画面共有というと、画面を映すと人は右下に小さく映るだけでしたが、画面上に切り抜かれた人が出てくるような機能ももうすぐ出てくるようです。ツールも進化していくので、それを活用することで広がる可能性もあるのではないでしょうか。

上宮さん 私は、授業のテーマ音楽を卒業生に依頼して、オープニングとエンディングに入れるようにしました。何か、チャイムに相当するようなものがほしいだろうと思ったんです。卒業生も君たちの今の状況を心配し応援してくれているよ、ということが伝わればいいなと思って探したら、幸い協力してくれる卒業生がいてお願いしました。

また、学生にちょっとでも興味を持たせることができればいいなと、音楽に合わせて写真が変わっていくスライドショー動画のようなのを、授業とは関係なしのおまけとして何回かに1回ぐらいアップしました。使ったのは、数年前に在外研究員制度でイギリスに行き1年間過ごした際に撮影してきた経済学者ゆかりの墓や住んでいた家、街並みの写真などです。そればかり見ている学生もいましたが(笑)、興味のきっかけにはなったようです。

「教員の人としての魅力も学びのモチベーションになる」大井 順平さん

草薙さん 学生との双方向のやり取りという面ではどうですか。みなさんもいろいろやっておられると思います。僕は、授業の中で、前回の授業で受けた学生の質問を取り上げ、できるかぎり率直に回答するようにしていましたが、結構好評でした。先生に取り上げてもらおうと頑張って質問を書いた、という学生もたまにいたり。オンデマンド授業であっても、1週間という時間をあけた双方向を成立させることはできるという手ごたえがありました。

稲岡さん 私も同じです。対面授業の時から、学生からの質問や意見には次の週に答えるようにしていました。今は、Formsで送ってもらい翌週に全て答えています。授業とは関係のない、たとえばアニメの話でも、私も結構好きなので全部答えます(笑)。対面の時はスライドに質問だけ映して口頭で答えていましたが、オンラインでは文字で書いてPDFで配布しています。6000字ぐらい書くこともあって、結構大変です(笑)。顔が見えないから、冷やかしみたいな質問が来るかと思いましたが、そういうのはありませんでした。

上宮さん 私が受け持っている他大学の授業のことですが、課題の最後にコメント欄をつくり、授業とは関係ないことでもいいから何でも質問やコメント、要望があったら書いてもらい、私も真面目に返答しています。好きな映画とか音楽とか、こちらから学生にテーマを提示したりもしました。大変になるので、一つの授業に絞っていますが。学生は、返信があることで「自分たちを見てくれている」と思ってくれるようです。それが授業へのモチベーションとなり、「今度は授業を聴いてもっと本質的な質問をしてみよう」という前向きな姿勢につながってくるのだと思います。

本学では、質問の仕方を指導する動画をつくりました。検索をかけたらわかるようなことを質問してくる学生が必ずいるので、そのような質問の例をあげ、「これだと、どこまでみなさんが調べているかわからない。『○○という文献からこのようなことがわかったが、これ以上のことが知りたい』と聞けばよりレベルの高い質問になる」として平常点アップをほのめかすと、そこから質問のクォリティがグンとあがりました。あがり過ぎて、答えるのが大変になるぐらい(笑)。

大井さん 先生それぞれにやり方は違いますが、どのようにしたら学生が勉強に熱心に取り組むのかを考えて工夫していらっしゃるということですよね。何も言わなくても知識を取りに行く人、授業を受ける中で学問に興味を持った人はいいですが、その授業に合わないけれど単位を取らなければならないという人もいます。彼らがどうしたら前向きになれるかという時、先生の人柄を好きになったり、興味を持てれば、話している内容自体にも興味が湧いて学修意欲につながっていくかもしれないなと感じます。もちろん媚びる必要はないのですが。

草薙さん 教員の人間性が問われているということかな。

大井さん 特にゼミなどが典型的ですが、対面授業だと徒弟制度っぽい雰囲気というか、先生と学生とのつながりの要素が強いですから、オンラインでその辺りをどう補うかというか。

学長 教員自身が、自分はこういう人間だから信頼してね、というようなサインを出すことは必要かもしれません。「私は地元が小豆島で」なんて言うと、香川県の学生から反応があります。親近感がわくのかな。

草薙さん 先生の個性に反応するんでしょうね。やはり、「人間」というのも出したほうがいいのではないかと思います。

外村さん 対面授業の場合は、友だちが同じ授業を取っていることで意欲的になれたりしますが、オンライン授業ではそこが削がれます。特に昨年と今年の1年生は、友だちがなかなかできない状況でオンライン授業を受けており、意欲的になるのに、先生たちにひきつけられることも非常に大切ではないでしょうか。あと、授業に関係ない要素も盛り込むという話で思い出したのですが、私自身も、昨年、学長が音楽経験の話題を枕に話をされ、興味を抱いていたらそこから本題に入って、ぐっと引き込まれたという経験がありました。

草薙さん そういえば、学長にはバンドのネタがある(笑)。

学長 ヘビメタの話ですね。「えっ?」と、ちょっとギャップを感じるところがいいのかな(笑)。

「学生同士の結びつきを大学全体でフォローする必要がある」稲岡 大志さん

——今までの話の中にもちらほら出ていますが、オンライン授業ならではの課題と感じていらっしゃることをうかがっていきたいと思います。

学長 一つは、学生がどう理解したのか、反応がつかみづらいことです。対面授業だと聞いている表情や態度から理解度を測って、ちょっとずつ話す内容を変えたり、何回も言って強調したり、ここ重要だよと念押ししたりしてフォローしていますが、オンライン授業では学生の顔を見て、というのができません。提出された課題を見るまで判断できないので、どこでつまずいているかわからず、1クール15回の中で修正していくのが難しいなという感じはありますね。対面授業だと、私語が聞こえてきたり、他のことをし始めたりするのが見えると、「ああ退屈しているんだな、じゃあ巻こうか」とか調節ができます。こっちが「すごく面白いだろう」と話すと、学生も「なんか面白いな」と思っている空気感が出るようなことも感じられたのですが、オンラインではそういうのもないですね。

草薙さん 確かに、私語がないというのは大きいですね。あれが、学生の醸し出している空気そのものだったんですね。

上宮さん まさに、私も最近、他大学でそのような経験をしました。毎回、コメント用紙にしっかり書き込んでくれて、平常点がすごくいい学生が多くいたのですが、その中に授業が全部終わった後の試験でほとんど点が取れていない人がいました。単に、試験前に勉強していなかったのかもしれませんが、全体がつかめていなかったのか、理解していたふりをしていた可能性があります。対面授業なら、「コメントペーパー、よく書けていたね」などと学生に話かけたりして理解できているかいないか確かめることができるのですが、オンライン授業ではそれができなくて最後に蓋を開けてびっくりする状況も出てきています。

外村さん オンライン授業が本格的に始まって、先生方からお問い合わせを多くいただいたのは、受講状況の把握についてでした。たくさんの先生が、「学生の反応が見えない」ということを問題視していらっしゃったのだと思います。TeamsにはInsightsというアプリがあり、どの時間帯にパソコンを開いていたかがわかりますが、それでもその時間パソコンの前にいたかどうかはわかりません。先生方のお話をうかがって、どんなアプリを使うにしろ限界があると感じました。

草薙さん 学生の理解度については、返ってくる学生の意見を見ながら、次の週に授業内容を調整するというやり方で対応しています。正直、あまり細かいことは気にしていません。テストで問うてもその時だけの知識になってしまいます。毎回の授業で一つ二つ、キーワードが頭に残ったらそれでいい、何かの時に「そういえば」と思い出してもらえればいい、ぐらいの気持ちで授業をしています。若い時はそこまで割り切れなかったので、年のせいかもしれませんが。ただ、理解度については、シラバスに書いた到達目標をどこまで達成できたのか、1回目と14回目の授業でFormsを使って5段階で評価してもらい、15回目にその比較を見せて自分たちの進歩を感じてもらっています。

稲岡さん 私も、理解度に関しては、学生の心に何かひっかかることがあればいいのかなと考えています。特に哲学という科目は、知識よりも、文章を読んだり、筋道立てて文章を書いたりするスキルや、自分とは違う考えであってもきちんと聞く態度を身につけるほうに主眼があり、それに関しては、オンライン授業でもある程度できているように感じています。特に、文字で授業をやっているので、その内容を学生が繰り返し読むことで理解度が高まっているのがわかります。

ただ、意欲があまりない層に授業も含めた学びをどう届けるかは課題です。外村さんからも話がありましたが、オンライン授業の場合、教室に行けば友だちがいるという環境がありません。いつも集団で行動するようなタイプの学生に聞くと、オンライン授業が多くなるとやはりストレスがたまるようです。特に1、2年生は対面授業が数えるぐらいしかなく、サークルに入っても活動がなかったりして横のつながりをつくるのが難しくなっています。その点も考えながら、個別の授業でというより、大学全体で学生をフォローアップすることを考えていかないといけないと感じます。

大井さん 技術的な面の課題もありそうです。昨年のオンライン授業導入時は、課題を出す時に先生があまり細かく指示を書いていらっしゃらなくて、学生が先生の想定外のソフトで課題を書いてきて読めないといった問題がありました。今後も機械やシステムに依存していくことになるでしょうが、新しい技術を取り込む際には、スキルレベルの違いが問題になりがちなので注意したいと思います。

——コロナ禍で一気に進むICT化が、教育にどのような影響を与えているのかがよくわかりました。後編では、対面授業とオンライン授業、それぞれの良さを確認しながら、両者をどうハイブリッドさせていくのか、これからの教育の可能性を話し合います。


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