座談会

12年後の保護者世代と考える。大学は何を提供できるのか、どんな場であることができるのか。(前編)

100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は特別企画として、100周年を迎える12年後に大学生の親となる、学長も含め小学生の子どもを持つ職員が集まり、子どもたちが大学生となる時大学はどんな場であってほしいか、また、子育てをしながら働いている立場からよりよい職場環境についても話し合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、現代の小学生事情を親目線で検証し、変化していくべき大学教育について考えました。


教育ビジョン

自らの学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

大学運営・組織ビジョン

居心地の良い学びの場を形成する

空間・制度の面から、学びを誘発するキャンパスをデザイン。
教職員の能力を発揮できる組織運営を行い、ビジョン実現の土台をつくります。


今回の参加者

プライベートな内容が多く含まれるため、学長以外の参加者はイニシャルとさせていただきます。

学長

山本 俊一郎さん

子どもは中学生1人、小学生1人

職員

T・Nさん

男性。子どもは中学生1人、小学生1人

職員

M・Yさん

男性。子どもは小学生3人

職員

T・Yさん

女性。子どもは小学生2人

職員

M・Mさん

女性。子どもは小学生1人、未就学児2人

職員

I・Mさん

女性。子どもは小学生1人、未就学児1人

「大切にされている反面、ゆとりや自由が少なくなっている」M・Yさん

——こちらの座談会で、「学生の12年後と、12年後に学生になる世代に注目」という発言がありました。これを受けて今回の座談会は、12年後に大学生になる小学生の子どもに焦点を当てようと企画しました。まずは、お子さんたちを取り巻く教育環境についてお聞きしたいと思います。

T・Nさん 4年生の子どもの時間割を持ってきました。この座談会を機に、改めて子どもの時間割を見ながら話を聞いてみたのですが、今の小学生って大変だなあ、というのが正直な感想です。外国語やパソコンとかやることが増えていて、時間割にも「総合」「特活」など僕らの時代にはなかった授業がありました。また、バラエティに富んでいるというのか、国語の授業の中に図書館で本を読むだけの時間があったりもするようです。ゆとり教育の揺り戻しなのか、毎日6時限までびっちりと詰まっています。

M・Mさん 今まで土曜にあった授業が、平日に回った感じがしますね。

T・Yさん うちの子は6年生ですが、週に1日は5時限までですね。

学長 うちは5年生ですが、5時限が週に2日ぐらいあります。授業が詰め込み系ばかりではないので、楽というか、楽しそうですよ。昔は、研究授業の時だけやっていたような、先生が切ったり貼ったりいろいろ準備して臨む授業を、普段からやっている感じです。

T・Yさん 子ども自身がそういうのを使って発表をしていることもありますし。

T・Nさん 一方向ではなく双方向的な授業、お題だけが与えられてみんなで取り組むアクティブ・ラーニングのような授業もありますね。

T・Yさん 小学校でも、中学校のように教科担当の先生がいますよね。音楽や図工だけではなく、国語、算数、理科、社会、英語も教科担当の先生が教えているようです。

T・Nさん うちは担任の先生が教えています。理科は2時間続きの時もあるようです。

T・Yさん 公立の小学校ですが、教室には大画面の液晶ディスプレイがあったり、先生がタブレットを使っていたり、設備もずいぶん進化しています。「今から5分間話し合いします」と先生が言うと、画面にパッと時計が出てきてカウントダウンが始まるんです。

M・Yさん 先生の手元が画面に映し出されるようになっていたりとか。私の子どもも公立小学校ですけど、なかなか充実していますよ。

T・Nさん プロジェクターやスクリーン、無線LANも常設されていますし、私たちの頃とは教育環境が劇的に変わったなという印象です。

学長 うちの子どもの学校には大型ディスプレイはありませんが、教室には壁がありません。時間割も設備面も、学校によってかなり差があるようですね。

I・Mさん 家庭でやる添削講座でも、紙からタブレットに変わってきていますよね。ブロックの裏側はどうなっているでしょう、といったような問題を、立体的に回転させたりして解説していて、わかりやすいし楽しいと思いました。教材のわかりやすさは、大きく違ってきているのかもしれません。

——学校の環境がいろいろと変化していることがわかりました。家庭での過ごし方はどうですか。

I・Mさん 幼稚園や保育所の時代から何らかの習い事をしている子が多いので、学校帰りに公園で遊ぶ、というわけにはなかなかいかないようです。遊ぶ場所があまりないのも原因かもしれません。公園にもボール遊び禁止とか書いてありますしね。

T・Yさん 近隣の家からうるさいと苦情が出て、禁止になったりする話もよく聞きます。

M・Yさん 私の子どもの頃は、近所を無駄にうろうろし、出会った友だちと合流して、誰かの家に遊びに行っておやつを食べさせてもらったりして、というような感じでした。でも今の子どもは習い事で忙しく、空いている時間にはYouTubeやゲーム。友だちと遊ぶにしても、事前に親に連絡しないとだめとか制約がある。一人ひとりの子どもが大切にされてはいますが、逆に自由がない面もあります。

学長 うちの周辺には大きな公園があるので、結構たくさんの子どもたちが外で遊んでいますね。上の子は4年生になると塾に行かせました。中学受験をすると、塾に多くの時間を取られるのでかわいそうではありましたね。下の子は塾には行っていないんですけどね。

M・Mさん 私も家庭環境が大きく変わったと感じます。私の子どもの頃は、おじいちゃん、おばあちゃんがいる家庭もまだまだ多かったのが、今は核家族化が進み、共働きやひとり親の家庭も増えています。うちの子も4年生になり、いつから一人で留守番できるか考えるようになりました。また、もう一つ悩んでいるのが、携帯電話をいつから持たせるか。持っている子も多いようですが、問題もいろいろありますから。

T・Yさん うちの場合は、上の子にスマホを持たせていますが、夜9時から朝5時までの間はアプリを利用できない設定にしています。そういう事情を理解できない友だちから、LINEのメッセージに既読がつかないと責められて、子ども同士ケンカになったことがありました。

学長 SNSの普及によって、いじめが陰湿化しているという側面もありますよね。

T・Yさん 今の子どもたちは生まれた時からスマホが存在していて、家庭ごとにルールがあるとか、みんながスマホを使えるわけではない、といったことを理解せずに使ってしまっています。人とのつながりの中でどう使うのかということを、誰にも教えてもらわないまま使うことが、トラブルを招く要因なのではないでしょうか。

学長 私が子育ての環境で気になっているのは、同質化の問題です。新興住宅地のようなところでは似たような世帯が集まり、多様な境遇の人に出会うチャンスがないまま成長してしまいます。そのままでは、昼ご飯も食べられない子どもが日本にいるということや途上国の貧しい人の気持ちは理解できない。どうやって世間を教えたらいいのか、と思いますね。

T・Yさん 子どもたちが社会の実態を捉えにくくなっているのは、本当にそうだと思います。ネットでの買い物が普通になり、改札をICカードでピッと抜けるだけの状態では、食べ物がどうやって自分の口に届いているのかさえ実感が湧きにくいのではないでしょうか。お米は農家の方が育ててみたいなところから教えないといけないのでは、と思ったりします。

「大学が小中学生とかかわる仕組みを幅広く用意する」T・Nさん

——子育ての中で触れている小学校や地域の取り組みの中で、これからの大経大の教育や地域貢献にとってヒントになりそうなものがあれば教えてください。

M・Mさん うちの子どもたちは地域のチームで野球をしているのですが、コロナ禍でグラウンド難民のようになり、河川敷や企業のグラウンドなど、毎週、コーチが場所を探してやっている状態です。大学のグラウンドを開放すると、地域に喜ばれそうです。

M・Yさん 茨木のサブグラウンドは、地域のリトルリーグが使っていますね。大経大キッズカレッジの取り組みでは、野球、サッカー、バスケット、タグラグビー、フラッグフットボール、かけっこなどを教えています。

T・Nさん 将棋や英会話など、キッズカレッジの文化系版があるといいのではないでしょうか。

I・Mさん 学生が先生になって近所の小中学生に勉強を教える「だいけいだい教室」も、すごくいい取り組みですよね。小学生の頃は大学生とかかわることが少ないので、そのこと自体がうれしいのではないでしょうか。うちの子は、年長の時のデイキャンプで関西学院大学の学生リーダーと一日を過ごし、すごく楽しかったようです。

T・Yさん うちの子どもも、関西学院大学のアメフトチームが教えに来てくれたり、短距離で世界陸上に出場した多田修平選手が体育の授業で走り方を教えに来てくれたこともありました。すごく楽しかったみたいで、目を輝かせて話してくれました。また、うちの小学校区は登校時の見守り活動をPTAがやっていますが、学生ボランティアがそのお手伝いをしてくれています。

T・Nさん うちの地域では子ども食堂をやっていて、小学生は無料、中学生は100円で食べることができます。上新庄でもボランティアでこうした活動が行われているので、大経大のボランティアサークルの学生が参加するのもいいかもしれません。それに限らず、小中学生とかかわる仕掛けを幅広く用意できるといいのかなと思います。関西大学の堺キャンパスや大阪府立大学などうちの近所の大学はさまざまな仕掛けをつくって発信しており、子どもたちは学校で配布されたイベントのチラシをしょっちゅう持って帰ってきます。市の広報誌や町の掲示板での告知もよく見かけます。

学長 大経大でもキッズカレッジやだいけいだい教室のほか、チアリーダーが子どもたちと一緒にダンスをしたりする取り組みなどいろいろやっていますよね。発信の仕方を見直してみるのもいいかもしれません。

T・Yさん 学生自身が企画してイベントを動かすという経験は、成長につながるので、何かの形でやっていきたいですね。逆に、お手伝いレベルというのであれば、いくら地域貢献だとしても、学生にとっての学びにはつながらない可能性があります。

I・Mさん 学生を強制する形になって、“やらされている感”を持たれないよう配慮も必要だと思います。

学長 クラブやサークルが、自ら仕掛けてくれるのが理想ですけどね。以前、子どもたちが将棋をやっているというので将棋部とマッチングしようとしたら学生がのってこなかったということもありました。もう少し活動の幅を広げられるように、働きかけていくことは必要なのかもしれません。

T・Yさん キャンパスの開放についてはどうですか。関西学院大学の場合は、広い芝生の空間が開放されていて、それを地域の人も学生もよく知っています。警備員さんもいて、公園より広くてきれいで安全な地域の遊び場の一つになっています。(※現在はコロナ感染拡大防止のため利用できなくなっています)

学長 幼い頃から大学という存在が身近なものとして植え付けられ、大学への親しみや愛情につながっていくということですよね。立命館大学も大阪いばらきキャンパスを地域に開放しています。

T・Yさん B館の2階が神戸屋だった時ですが、パンとグラタンのセットがすごく安く食べられて、地域の人も来ていました。誰もが知っているお店を誘致するといいのでしょうか。

M・Yさん 人気のある店を誘致するというのは、キャンパスを親しみのある場所にする方法の一つだと思います。地域の人もそれを目当てに来てくれるし。

M・Mさん ただ、お店にとっては、大学内の立地はやりづらいでしょうね。夏休みなど長期休みになると、学生たちがあまり利用しなくなりますし。

学長 その間は、地域の人がたくさん来てくれるようにするのはどうですか。地域の人は割引にするとか。

M・Mさん 安くすれば、休み中の小中学生とかも来られますね。

学長 子ども連れだと安くなるファミリー割引。今回のテーマにつながりましたね(笑)。子連れの人が散歩の途中なんかに、どんどん入ってきてくれればいいですね。それから、キャンパスの開放とは別の提案ですが、うちの息子が、阪急百貨店のやっているベンチャー企業の社長になる、というワークショップに参加したことがあります。ベンチャー企業の社長さんが起業の想いを話してくれたり、会社を興すためのゲームをしたりするような内容でした。経済大学ならではの地域貢献として、会社を興してみようというような子ども向けのプログラムを、教員が提供するものとしてやるのもいいかもしれません。また、以前、かみしんプラザで地域通貨をつくる取り組みを大経大の教員がお手伝いしていました。このような、地域から出たアイデアを商品化する、というようなことを考えてもいいかもしれません。

「仲間をつくり、学生時代を充実させるきっかけが大切」M・Mさん

——お子さんが大学進学を考えるようになった時、どのような大学なら行かせたいと思うでしょうか。そこから、未来の大経大像につなげて考えていければと思います。

M・Mさん 親目線だと就職につながる大学を考えがちですが、それよりも、4年間で何をしたいか、何を学べるのかが一番重要だと思います。入学後に学生生活に慣れないとか、1年生の時から授業よりバイト中心の生活になってしまう学生も中にはいます。学生の話を聞き、まずは授業に出席して勉強に集中できる環境を整えるよう指導すると、その時は反省するのですが、実際はなかなか気持ちを切り替えられないようです。

学長 そういう時に、「大丈夫か、授業に出ようよ」というような手厚いフォローをする大学がいいのでしょうか。

M・Mさん 教職員ではあまり効果はないかもしれませんが、一緒に行こうと誘ってくれる友だちがいたら、いい方向へ変わっていく可能性は大きいと思います。今年は特にコロナ禍で、友だち関係が築けていない新入生が一定数いるのではないかと心配しています。

学長 「友だちづくりを大事にする大学」みたいなのが売りになるか、ということですよね。少し過保護な感じもあるけれど。

M・Mさん そのきっかけがある大学、ということでしょうか。クラブやサークルでは、自然と友だちができている事が多いと感じますし。

学長 「クラブ必修大学」とか(笑)。

T・Yさん 何かを一緒にする、というところに目を向けるということですね。ゼミ以外の授業でつながることはなかなかないですから。必修というと「やらされる感」が出ますが、最初のきっかけは「やらされる」でも、そこから何か気づきを得ることはできそうです。

学長 1年生はガチガチにやるべきことで固めてしまい、「とにかくいろんなことが経験できます」みたいにすると、親も、「ここでいろんな可能性を見つけてほしい」と選んでくれるかもしれません。

M・Mさん 自分から声をかけたり、友だちの輪の中に入りにくい、というようなこともあるでしょうから、「きっかけづくりがすごい」というアピールは有効でしょう。友だちをつくって4年間を楽しく充実させて過ごしてほしい、というのは、親にとっても大きな願いのはずです。

I・Mさん 面倒見のよさは大経大の売りだと思いますし、高校の先生からもそういう評価をいただいています。ただ一方で、入試相談では保護者の方が熱心で、かえって子どもが考えなくなるケースも見受けられます。社会に出てから大変ということにならないよう、自立を促すためのサポートが必要かもしれません。

M・Yさん 子どもの幼稚化が少しずつ進んでいると感じるので、面倒見がいい大学というのは、親としてはありがたいのではないでしょうか。自分でできない学生には、ある程度レールを敷いて引き上げてあげるようなことも必要だと思います。自分で選ぶにしても、進路や夢が決まっている人以外は、偏差値やイメージで選んでしまう人がほとんどでしょう。親目線というのも、かなり大事ではないかと思います。

T・Yさん 「面倒見がいい大学」がどんなイメージを持たれるのか、注意しておかなくてはならないのではと思っています。大学とは基本的に学生をほったらかしにするところというイメージであれば、「1対1の対話がたくさんあること=面倒見のよさ」と表現できました。でも、幼稚化が進んだ社会では「面倒見のよさ=手取り足取りお世話をする」と解釈される可能性があるのでないでしょうか。本学の意味する「面倒見がいい」が社会の変化によって解釈が変わってくる、その認識がないと伝えたいことと伝わることの間に大きな差が出てしまいます。

T・Nさん 子どもが内向的なので、大学で友だちづくりができるだろうかと考えてしまいます。社会デビューをする前になんとか人間関係を上手くつくる術を学んでほしいという気持ちはありますね。世の中を上手に渡り歩いていけるような知恵を学ぶことができ、そのベースとして人間関係に重きを置いてくれる大学であってほしいと思います。これからますます、さまざまな特性を持った学生たちが入学してくるでしょう。どういう大学であればいいのか、今の形だけでは受け皿が足りないのではないかと思います。

M・Yさん 幼児教育や初等教育から障がいのある子どもとない子どもが一緒に教育を受けるインクルーシブ教育が徐々に実践されてきていますが、障がいのない子どもにとっても組織の中で役割を与えられ成長していくというメリットがあります。大学で強制的にクラブ・サークルに入らされ、運営に携わるなどすれば人間的に成長するでしょう。高等教育でしなければならないことかどうかはわかりませんが、そこに何か一つ社会に向けて訴えかけるポイントがあれば、特色として立派に成り立つのではないかと思います。

I・Mさん コロナ禍でオンライン授業が増えたから特にそう思うのかもしれませんが、リアルな世界で人と関わるところでの付加価値が必要ではないかとは思います。同時に、学内だけでなく外に出て、視野を広げてくれるような取り組みもいいのではないでしょうか。

学長 高校の場合、売りとして冬はスキー合宿がある、語学研修でオーストラリアに1カ月行くなど体験学習の充実をうたうというのがありますよね。もしかしたら、それと似たような売り方があるのかもしれません。大学もどこか地方の大学と提携して、農業や地方活性化を学びに1カ月行くなど、留学の国内版のような仕組みがあったら面白い。

T・Yさん 国内でのホームステイは面白いと思います。私は学生時代、国際交流プログラムで海外の学生と一緒に鳥取県にある農村のお宅でお世話になったことがあります。私自身も農村の生活を知ると同時に、ホストファミリーと海外の学生の間に入って通訳したり、日本の生活について説明したりと、海外に行くぐらいの発見と面白さがありました。

学長 大経大にもその発想を取り入れられるかもしれません。地域政策学科で地域探求型の学びをやってきた経験を生かして、国内外問わず留学の選択肢を与えグローバルとローカルの両方を学べる教育プログラムとして組み上げるとか。3カ月ぐらい田舎にとどまって何かに熱中する経験は、変わりたいと思っている若者の心に響くかもしれないし、一方、地域にとっては活性化の取り組みを若者と一緒に進めることができるメリットもあるでしょう。今のところ、国内留学が必須という大学は珍しいので、大経大の特色にもつながります。

M・Yさん 何かとがった、売りのある教育をしていると外から見えるのは大切だと思います。大経大でも、他校とは異なる特色を示していかないと、今後、埋もれてしまう可能性があります。

学長 たとえば、「儲からない仕事をやろう」というのはどうでしょうか。儲からないけれども社会のためにやる事業、たとえば社会起業家といったイメージですね。儲けたいからやるのではないけれど、社会に必要とされる事業なのだから、継続させなければ意味がない。そのためには儲けることが必要なので、結局、経済の学びを追究することにつながります。利益を上げるだけが生き方ではないとか、もっと地方を応援していこうとか、そういう呼びかけは社会にも学生にもインパクトがあると思います。たとえば、大学で漁業が大切だとわかって漁師になる道を見つけるようなことも、大学のあり方として素晴らしいと思います。ただ、100周年の頃までにそれが評価される時代には、まだなっていないかもしれませんが。

T・Nさん 大学も百貨店のように、特色のあるメニューばかりを揃えることはできません。大経大に所属しながら他大学の勉強もできる、単位互換のもっと発展的な仕組みのようなものを整備するということも考えられます。

学長 コンソーシアムのようなことですよね。これからの学びは、そんな感じで、どんどんオープン化していくと思います。それは怖いことでもあります。その大学に行く意味がなくなって「○○大卒」という学歴のためだけに行く、学歴ブランド化がますます進むことになるかもしれません。

T・Yさん 私は、大学が、社会や人がどのようにつながっているのかを認識できるような場所になればいいと思います。世界にはいろんな人がいて、誰かに支えられている分、誰かの支えにもならないといけないことに気づき、自分はどういうポジションでどの役割を果たすのかを考えるきっかけを与えたいと思うのです。高校生ぐらいになるとモノやサービスの流通経路ぐらいは理解できてもそこで働く人についてまでイメージしていないでしょうし、社会人になると自分の生活や仕事をしている業界を中心に社会を捉えてしまいがちで、俯瞰的に世界がどうやって成り立っているのかを考える機会がそれほどないように思います。その間にある大学はちょうどいいタイミングであり、そうした自覚を持って社会に出ていくこともできます。

学長 大学ではよくリベラルアーツ重視か専門重視かを特色としてうたったりしますが、今の話は、そのちょうど真ん中ぐらいの位置づけでしょうか。

T・Yさん 俯瞰するところはリベラルアーツに近いですが、自分の立ち位置を考える時には専門に近寄っていく、という感じでしょうか。経済だからこそ、専門的でありながらも社会を広く見られるという側面があると思います。

学長 2000年代の半ばから科学 (Science)、技術 (Technology)、工学 (Engineering)、芸術・教養(Arts)、数学(Mathematics)の頭文字を取ったSTEAM教育、統合的な枠組みで現実社会の問題を解決していくような教育の重要性が指摘され始めましたが、それも、リベラルアーツと専門教育を統合した概念です。確かに、社会はそのような教育を求めていると思います。どうつくっていくのかは難しい問題ですが、挑戦していくべきテーマだとは思います。

——現代の小学生事情の検証や、親目線でこれからの大学教育のあり方を語り合うことができました。後編では、子育て中の立場から見た働きやすい職場やこれからの働き方について考えていきます。


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