インタビュー

10年後、20年後さらに光る大学づくりを基盤で支える。(財務部長 横山 穣さん)

ビジョンの実現に向けて取り組みを進めている職員へのインタビューです。各ビジョンを推進するためのヒントを紹介します。

※肩書はインタビュー当時のものです。

大学運営・組織ビジョン

居心地の良い学びの場を形成する

空間・制度の面から、学びを誘発するキャンパスをデザイン。
教職員の能力を発揮できる組織運営を行い、ビジョン実現の土台を形作ります。

教育ビジョン

自ら学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

お金と情報、2つのインフラを担当

財務部には経理課と情報システム課があり、それぞれかなり性格の違う仕事を担当しています。

経理課は、学校法人会計に基づいた経理処理を行います。前年度の10月頃、各部署からの予算要求をもとに、予算案を作成して3月の理事会で承認を得ます。新年度が始まると、確定した予算に基づいて適切にお金が使われているかどうかをチェックし、取引先への支払いを行います。年度が明けた4月下旬ぐらいまでに、1年間の経理処理をまとめた決算処理を行い、公認会計士の監査を受けたうえで理事会の承認を得ます。3月下旬から5月の理事会の頃までが、経理課にとっての一番の繁忙期です。

情報システム課は、情報インフラの構築とその運用・管理を担っています。教育研究システムと事務システムという2つの基幹システムを安定して運用できる体制を整え、セキュリティ対策をはじめとした新たな技術の導入などにも対応しています。また、教育現場でのICT活用の進展によって、授業運営支援の役割が高まりつつあります。情報処理実習などで教員を補助するSA(スチューデント・アシスタント)の指導・育成、e-ラーニングなどができるLMS(ラーニング・マネジメント・システム)の運用・管理も担っています。

コロナ禍対応で見えてきたICT化の未来

財務部、とくに情報システム課にとって、2020年春からのコロナ禍への対応は大きな出来事でした。2020年4月に緊急事態宣言が出されたことにより学生が大学構内に入れなくなり、授業を遠隔で行うしかない状況になりました。本学では、学長のリーダーシップのもと、SCTL(教育・学習支援センター)と教務部、情報システム課で「授業のあり方会議」を立ち上げ、どのように対応していくかを議論しました。

既存システムであるKVCを使えば、一定レベルの遠隔授業への対応は可能でしたが、授業の質を高め、学生の満足度を上げるためには、新たな仕組みの導入が必要でした。たまたま、2020年4月が教育研究システムの入れ替え時期で、Microsoft Teamsが使えそうだということになりました。Teamsで遠隔授業を行うには、授業1コマごとにチームの登録をする必要があります。想像以上の作業量でしたが、情報システム課のメンバーの頑張りによって、ゴールデンウィーク明けからの授業開始に間に合わせることができました。

さらに、教員にとっても学生にとっても初めての遠隔授業でしたので、レクチャーしたり質問に答えたりといった対応も多く発生しました。また、Wi-Fi環境のない学生にモバイルルーターを貸し出したいと考えたものの、まとまった台数が調達できないという事態に陥りました。困っていたところ、運良く、海外旅行需要が途絶えたルーター貸し出し業者からの営業があり、なんとか調達することができました。

コロナ禍で教育のICT化が加速し、キャンパス設備の課題も明らかになりました。その反省に基づいて遠隔授業への対応を考えていくことは、居心地の良い学びの場の形成、という大学運営・組織ビジョンを進めていくことにつながると思っています。2020年度の秋学期は、新型コロナウイルスの感染状況が少し落ち着いて、対面授業を中心としながら遠隔授業も併用するようになりました。このときに困ったのは、キャンパス内に遠隔授業を受ける場所が足りなかったことです。本来はラーニングコモンズとして設置したスペースを、遠隔授業の受講スペースに充てることなどによって、部分的に対応しましたが、今後は、専用スペースの確保を検討し、設置していく必要があるでしょう。

遠隔授業のスペースにも使われているラーニングコモンズ

2021年度の夏、全教室にWi-Fiを導入しました。これによって学生は自分のパソコンを学内に持ち込んで授業を受けられるようになり、対面授業においてもICTの活用が進むと考えられます。さらに、教室以外の共有スペースにもWi-Fi環境が整備されたことにより、学生生活のあらゆる場面で進むICT化に対応できるものと考えています。

また、ICT化は、大学運営・組織ビジョンのみならず、教育ビジョンとも深く関わっていると思います。今後、アフターコロナの時期に向けて遠隔授業をどう残すか、またどう深めていくのかを考え、その上でICT化を進めていく必要があります。

今後は、対面授業と遠隔授業の各々の良いところを残していくことが大切でしょう。本学は、リアルなキャンパスにみんなが集まってコミュニケーションを取ることができる場所です。最近は、「リモートで十分」という学生の声も聞かれますが、対面で議論することの大切さを、大学として強く発信していくことが重要だと思っています。

少子化リスクを乗り越え大学の魅力を高める

コロナ禍が始まってしばらくたった頃から、「大学に行けず設備を利用していないのに、設備費を取るのはおかしい」といった意見が出てきました。私も2020年に大学に入学した子どもを持つ親として、その心情は理解できるのですが、大学人としての考えは違います。施設設備資金は在学期間に使用する施設設備の利用料ではなく、本学に入学して学生生活を過ごし、卒業後もOB・OGとして大経大の構成メンバーであり続けるみなさんの分担金であると説明しています。今の大学の施設・設備は過去に在学生であった先輩たちからいだたいたお金でできており、現在の在学生に施設設備資金を分担していただくことによって、将来、入学してくる後輩が使う施設・設備を整備することができるのです。

現在の学生たちの施設設備資金があるからこそ、将来の学生たちのキャンパスライフの環境が整えられる

将来にわたっての大学の存続を前提としてお金を負担していただいているという意味において、この大学を財務面からしっかりと支える財務部・経理課の責任は重大です。システムや建物をどのような形で導入すると居心地が良くなるのかを考えるのは情報システム課や管財課の役割ですが、そのもとになる財源をしっかりと確保していくのが、経理課の役割と言えるでしょう。

本学は、2023年度からの定員増を申請中です。定員増の申請には、入学者の定員超過率を抑える必要があるため、ここ数年、入学者数を抑制してきました。大学経営では、入学者数の抑制は減収に直結します。2023年度からの定員増により4年間かけて収支状況の改善を図っていく予定で、入学者数の抑制を開始した2018年度から考えると9年間という長いスパンの財務計画が進行中です。完成年度である2026年度に想定通りの収支状況に持っていくことが、経理課にとって、非常に重要な役割であると考えています。

収入増加のための施策の一つとして資金運用があります。大学の収入はおもに授業料収入と国からの補助金で成り立っており、安定的な運用が基本で元本割れが生じるようなことがあってはいけないというのが従来からの考えでした。しかし、昨今、その考え方は大きく変わりつつあります。本学では、2022年度から資金運用の外部委託を開始し、従来と比較して少し積極的な運用に踏み出します。

資金運用の外部委託は、将来の少子化リスクに備えて、財務的に余裕のある今の時期から開始することが重要であると考えています。2021年の18歳人口は115万人ですが、10年後の2030年頃には約10%減少し、103万人程度になると言われています。さらに、2021年の出生数が84万人であることを考えると、20年後には多くの大学の経営が立ち行かなくなり、吸収合併などで現在の大学名を残すことができなくなるかもしれません。

本学のような文科系の大学は、理科系の大学に比べて教育にかけるコストが低くすむところがありました。しかし、大教室での座学が減り、フィールドワークなど少人数で行う体験型の授業が増えてくれば、当然運営コストは上がってくるでしょう。学生が成長できる質の高い教育を実現する一方で、比較的安い学費を維持するには、これまで以上に効率的な大学運営が求められるでしょう。

コロナ禍への対応を経験し、大学の現状について今まで見えていなかった、知らなかったことをいろいろと学ぶことができました。教育の質向上を実現する環境の整備と、それを可能にする長期的な視点での財務基盤の強化に向けて、今まで以上に注力していきたいと思っています。