デジタル化でキャンパスライフの変化が進む中、大経大アイデンティティを育むキャンパスには何が必要か。(前編)
100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は、コロナ禍によるキャンパスライフの変化を踏まえながら、大経大アイデンティティを醸成する魅力あるキャンパス空間や制度デザインについて、ブランディング、社会心理、臨床心理を専門とする教員と学生サービス、キャンパス整備を担当する職員が学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、コロナ禍によってキャンパスライフがどのように変化したのかを振り返り、本学のキャンパス空間の課題について語り合いました。
大学運営・組織ビジョン
居心地の良い学びの場を形成する
空間・制度の面から、学びを誘発するキャンパスをデザイン。
教職員の能力を発揮できる組織運営を行い、ビジョン実現の土台を形作ります。
今回の参加者
学長
山本 俊一郎さん
埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。地場産業の活性化策、生き残り戦略を研究。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。2022年4月からは2期目を務める。
人間科学部
弦間 一雄さん
人間科学部教授。企業や地域のブランディングと戦略デザイン、広告コミュニケーションの設計とクリエイティブを研究。デザイン思考で世の中のクリエイティビティをどう高めるのかに興味。
人間科学部
小松 亜紀子さん
人間科学部准教授。消費選択の社会心理、消費者の意識、デザイン評価を研究。モノやサービスといった消費者が直接購買するものだけでなく、公園利用なども共同研究中。
人間科学部
坪田 祐季さん
人間科学部講師。臨床心理学が専門。学校現場でスクールカウンセラーを担当していた経験を生かし、スクールカウンセラーの役割、学校コミュニティにおける支援システムを研究。
管財課
佐藤 萌さん
管財課は施設設備の維持管理、資産管理、キャンパス整備を担う部署。各種設備の維持管理、キャンパス整備を担当する。現在進行中の、C館増築も担当している。
学生課
下浦 智也さん
情報システム課から2021年5月に現在の部署に異動。奨学金、学籍処理を担当。デジタルの利便性を感じる部署と学生とのアナログなコミュニケーションの喜びを感じる部署とのギャップを楽しむ。
就職課
安田 祥貴さん
2021年3月卒業の本学卒業生。学生時代の記憶が一番鮮明なメンバーとして、今回の座談会には「学生時代に考えていたことや行動していたことを、率直に語りたい」と参加。
「オンラインに『適応』した学生。人間関係には不安も」小松 亜紀子さん
——コロナ禍は、大学生活にどのような影響を与えたのでしょうか。またキャンパスライフやキャンパスの役割・意義について、改めて気づいたことはありましたか。
学長 緊急事態宣言が解除され、本学でも2021年10月11日から対面授業が始まりました。ようやく学生がキャンパスに戻ってきましたが、以前のような活気はまだまだです。科目の配置数だけで言うと85%ぐらいは対面授業になっているのですが、オンライン授業を選択している学生が50%程度いるので、キャンパスに来ている学生は以前より少ないんです。11月3日・4日に、情報社会学部の浅田拓史先生のゼミが、D館の1階でマルシェを開いていて、学生がガヤガヤ集まっている様子に以前のような活気を感じてうれしかったです。
安田さん 私は、大学4年生の時にコロナ禍が始まりました。履修している授業はほとんどなかったのですが、サークル活動や友だち・後輩との交流の空間がなくなったことで、「今、自分は大学生なんだろうか」と感じました。キャンパスライフの重要性に改めて気づきましたね。学生の中には、キャンパスライフがないのに、大学に行くべきだったのだろうか、と考える人もいたようです。
坪田さん キャンパスで行っていた雑談や対話が減ることで人とのつながりが薄れ、精神面でも身体面でも健康に影響を与えているでしょう。家から出る回数が減り、外出すること自体が億劫になったり、自分から連絡を取ってつながろうとしない学生もいます。人とのつながり方には個人差がありますが、コロナ禍がその差を大きく広げた。大学だけでなく、小中高の不登校率も上がっているので、若者全体への影響だと思います。私自身は、学生との雑談がすごく減ったことが印象的です。オンラインでは、つながってはいてもそれ以上の発展は生まれにくいし、それを生み出すにはすごく工夫が必要でした。
小松さん 授業を受け、サークル活動をし、みたいな目に見える形でイメージしていた大学生活というものが崩れたのが大きかったのでしょうね。特に2020年度はいきなりのオンライン授業でしたから、学生は戸惑い、「とにかく対面授業をしてほしい」という要望が強くありました。でも、2021年度は1年生も上の学年も「意外とオンラインもいいんじゃないですか」みたいな感じになってきています。オンライン授業の便利さにも気づき、「適応した」という感じでしょうか。ただ、坪田先生がおっしゃるように、ネットだけだと新しい人間関係をつくるのは簡単ではありません。今の学生に友だち関係を聞いてみると、高校時代のつながりがベースになっている様子もあり、大学生活ならではのダイナミックさや広がりに欠けてしまうのではないかと、少し心配に思うところもあります。
下浦さん コロナ禍が本格化した2020年の3月頃、私は情報システム課にいました。コロナ禍で大学業務のデジタル化、ICT化が進み、学生も教職員も嫌が応にも対応したという意味では、必ずしも悪い影響だけではなかったと思います。情報システム課では、「これをきっかけにどんどん進めよう」と様々な取り組みを進めていくことができました。一方、2021年5月に学生課に異動してみると、より学生と触れ合う部署だけに対面のよさをすごく感じます。しゃべっているだけなのに、学生の言葉からそこに込めた思いや熱量が感じられ、こちらもより丁寧に対応しないと、と感じます。もちろん情報システム課の時も、学生からのメールやチャットの質問に答えていました。当時は学生の不安が大きかったので少しでも軽くできたらと、メールが来れば夜中でも返信するといった対応もしていました。でも、対面と違ってメールだと冷たく感じるみたいです。思いが伝わりやすいのは、対面のよさだと思います。
佐藤さん 学長のお話にあった、対面授業が再開しても学生の50%程度はオンラインを選択しているというところからも、学生がオンライン授業に適応していることがわかります。アルバイトなど授業以外のスケジュールと調整したり、学生なりにうまくバランスを取るようになってきているようです。すべてを対面授業にしてしまうと、そのバランスが崩れる可能性もありそうです。ただ、コミュニケーションを取るのに、対面の機会はとても大切。大学時代は、自由に学生同士の濃い時間を過ごせる最後のチャンスです。触れ合いながら4年間を充実させようという意識を持ってほしいし、対面とオンラインのバランスを上手く取っていくことが必要だと思います。
弦間さん コロナ禍以前からリモートキャンパス、デジタルキャンパスは推進されていたので、コロナパンデミックの影響とリモートキャンパスの問題は、別のものとして考えていくべきでしょうね。コロナパンデミックはいつか終わり不安もなくなるでしょうが、テクノロジーの進化による社会の変化は元には戻せません。新しいメディアに対応できないデジタルストレスや人間関係がつくりにくいことによるダメージなどがある学生には、きちんとしたケアが必要でしょう。一方で、どんどん適応している学生もいます。私のゼミの1、2年の学生たちに動画をつくらせていますが、LINEでチームをつくりGoogle Driveを使ってグループ作業をするといったこともどんどん自主的に進めています。結構、個人差が大きい問題だと思いますね。
学長 コロナ禍はデジタルキャンパス化を加速させました。さらにデジタル化・リモート化が進めば、反転授業が進んで家庭学習が充実するなどの変化も進むでしょう。ただそうなっても、リアルの必要性は感じます。対面授業が始まってから学生の様子を見ていると、ゼミが終わっても話し込んだりしてなかなか帰らなかったり、メンバー同士、ものすごく仲がいい。リアルなコミュニケーションに飢えているのかもしれません。また、オンラインでは、自分がパソコンをプチっと切ればすぐに関係が切れますよね。でも、実社会ではそうはいかない。うるさくても暑くても、自分にとって合わないなぁと感じる人がいても、無理やりそこに身を置かざるを得ない状況を体験する場として、リアルキャンパスは重要でしょう。
「リアルキャンパスの良さは授業の空き時間にある」佐藤 萌さん
——オンラインとリアルの違いがいろいろと見えてきました。では、コロナ禍で改めて感じた、リアルのキャンパスライフの良さについてお話いただけますか。
坪田さん 大学は、そこを拠点に人がつながったり、情報を仕入れて外に出ていったりできる、いわばプラットフォームです。オンラインでもその役割を満たしてはいますが、大学生活のリアル、たとえば自由さとか自分でいろいろ選択できるとか、そういうことを知らないままでは質に差が生まれる気がします。一緒に学び、何かを体験するリアルがあるからこそ、オンラインでそれが再現されつながりが生まれやすい。オンラインだけで、五感を使ったリアリティがない状態で出発した今の1年生や2年生の感じ方はどうなのか、観察していきたいと思っています。
学長 1、2年生は、大学生活も高校生活と同じと思う学生も多いかもしれません。
坪田さん 先輩ともつながりにくいですしね。
小松さん リアルの場合、学生は大学に行って授業に出て単位を取ることで、「大学生としてやることをやっている」と感じられました。時間割と場所があり、そこに行って聞けばいい、という授業のシステムは参加しやすく、みんなが行くから自分も受ける、というのも成立します。しかし、オンラインは自分で管理して受講しなければならないため、目的意識が必ずしも高くない学生にとっては難しかったりします。また、家に居場所がない学生など、授業を落ち着いて受けられる環境が確保できているとは限らないという問題もあります。勉強する空間、環境、居場所をまとめて提供しているのがリアルキャンパスだと、改めて感じます。
佐藤さん リアルキャンパスの良さは、特に空き時間の使い方にあるように思います。人間関係を深めたり、新たなコミュニティに参加したりするには、やはりリアルでないとだめ。休み時間に一定数の学生が集まっている場所に行くことで友だちの輪が広がる、といったことはリアルだからこそ可能です。自分から飛び込むコミュニティだけでなく、より人間関係を広げられる場があると感じます。
下浦さん 確かに、新しいコミュニティに参加しようとするとき、最初にリアルで会うことは意外に重要ですよね。私自身、初めて会うメンバーとの会合にオンラインで参加した時、対面で集まっている人もいる中で思ったように輪に入れず、ここからつながりを広げていくのは簡単ではないと感じました。学生の場合も、授業や課外活動など最初の顔合わせは対面のほうがうまくいくのではないでしょうか。
学長 リアルキャンパスには余白の空間があり、それがすごく大事だと思います。建物内だと廊下なんかもそう。キャンパスの余白で何かに出会える仕組みをもっと考えないといけないなと思うようになりました。
安田さん リアルキャンパスには、いろんなところにきっかけが山ほどあると感じます。佐藤さんのおっしゃっていた空き時間の使い方はまさにそうで、友だちと一緒に時間割を組むだけでも、何かが生まれます。発信する側になって気づいたのは、KVC、Teamsなどのオンラインだけでは、イベントの情報をキャッチできない学生が非常に多いこと。いろんな情報が新着で入って来るから、把握しにくいというのもあるようですが。私が学生の時には、教務部、学生部、就職課などお世話になっている場に足を運ぶと職員さんがいろいろ情報を提供してくれました。また、やりたい、参加したい、という気持ちも、リアルのほうがより湧いてきましたね。
学長 オンラインは、1対大勢という形はできますが、2、3人のミニ集団というのはつくりにくいですよね。Zoomのブレイクアウトルームとか、やり方はあるけどリアルのようにはいきません。安田さんが言った情報提供については、オンラインの場合、伝える相手を集団でしかとらえられていないことが問題かもしれません。
「個に寄り沿ったニーズの把握やフォローが必要になる」坪田 祐季さん
——コロナが収束したあとも学びのオンライン化は残り、キャンパスライフにも何かしらの変化が起こりそうです。アフターコロナのキャンパスライフはどのようになるとお考えでしょうか。
佐藤さん 単純に、学内にノートパソコンを持ち歩く学生が増えるだろうなと感じています。コロナとは関係なく、BYOD(Bring Your Own Device自分のパソコンを持ち込む)が進んできていましたし、実際にパソコンがないとオンラインの授業が受けられません。学生はノートパソコンがあればどこでも受けられる利点を感じたでしょうから、大学に持ってきて談話室で授業を受ける、といったことも増えてくるでしょう。オンラインやハイブリッドの授業が増えると、4年間の過ごし方にも幅が広がるのではと思います。日本中をバックパックで回りながら授業を受ける、といった大学生活も可能になります。教職員の働き方改革にも似て、学生にも授業の受け方の選択肢や自由度は広がるのではないでしょうか。
下浦さん 確かに、日本全体にICT化や働き方改革がどんどん進んでいますからね。学生は社会人になると、そのようなところに身を投じないといけなくなるわけですから、スムーズに社会に溶け込めるよう、ある程度のICTスキルの獲得を大学全体でサポートして卒業させてあげることが必要でしょう。キャンパスライフをおくるのに不可欠な様々な手続きなどにしても、どんどんデジタル化を進めていく必要があるような気がします。学生が不便だと思っていることを吸い上げて変えていかないといけないと思います。
小松さん 佐藤さんがおっしゃるように、全国どこででも授業が受けられるようになれば、本学のような文系中心の大学は学生がますます大学から離れていきそうです。私が学生の時は、研究室で先輩や先生の研究風景を見たり、時には手伝わされてそのご褒美として一緒にご飯を食べさせてもらうとか、学校の使い方が多様だった気がします。学部系統の違いが大きいかもしれませんが、本学では大学との関係が淡泊な気がします。教室以外にももっと学生が集まる場所を用意できないでしょうか。大教室が不要になるなら、その場所をオンライン授業を受けるのに使わせてあげたり、自主ゼミなどができるようにしてもいい。せっかく学び方が変わるという時なので、キャンパスを使い倒せるようにできると面白いですよね。
学長 キャンパスがきれいすぎるのも問題かもしれませんね。ある程度乱雑だったりすると、自由に使いやすいじゃないですか。15年ぐらい前は、キャンパス内でカードゲームをやって騒いでいる学生もいましたが、キャンパスが整いすぎてお行儀よくなったのかも。
小松さん 安全管理面から、たとえば煮炊きなんかもできなくなりました。ただ、学生たちが楽しいと思うことができる空間だったら、その中でいろんな関係が生まれてくるのではないかと思います。たとえば、本学の図書館は他大学に比べて利用度が低いように思います。
坪田さん あまり人がいるのを見ないというか、短時間で人が入れ替わっていきますね。
下浦さん 上新庄から来る学生からすると、入口が遠いのも関係しているかもしれません。
学長 飲食できたり、おしゃべりできる空間にしては、という話はしていますが。
佐藤さん 1階はしゃべってもいいのですが、そんなにしゃべっていませんね。
弦間さん アカデミックコモンズって、そういうしゃべったりできるスペースですよね。近畿大学の図書館などは、しゃべっていいところのほうが多いです。
学長 ジャズをかけたりしてもいいような。
坪田さん 音楽がかかっているほうが、しゃべりやすいということはありますね。
小松さん 「しゃべっていいんだ」という空気というか意識が引き継がれることで、一つのUIにもつながりそうです。
佐藤さん 図書館については、ラーニングコモンズ設置を検討しているところです。
坪田さん 私は普段、ほとんどA館にいるのですが、A館にはたまり場がありません。授業後、研究室に寄ってしゃべっていくことはありますが、それ以外は学生全員がいなくなります。教室以外に弁当を食べたり何でもしていいようなスペースがないからなんでしょうが、何かもったいないなと感じます。学生は、授業の空き時間など、どこでたまっているんでしょうか。
学長 カフェとか雀荘とかも、周辺にはありませんからね。どこに行っているのか、調査をしてもいいかもしれません。
安田さん 梅田に出るのではないでしょうか。3、4限目に授業がなければ梅田に行き、5限目に帰って来る。近くにカフェもないので、ボーリングとか買い物とかいろんな遊びの手段がある梅田に行ってしまう。15分で行けますしね。私たちは、大学近くのカラオケ屋さんまで歩いて行き、3限目だけ過ごして帰る、とかしていました。空き時間に大学で過ごす学生は周囲にはあまりいませんでしたね。
下浦さん 私は2009年度卒業ですが、状況は安田さんが言っているのとほぼ同じでした。梅田まで電車代も百数十円ですからね。
学長 ということは、キャンパス内に梅田をつくらなくてもいいのか(笑)。
下浦さん 利便性がいいキャンパスならではの状況かもしれません。
安田さん 都市型の大学では、大学に集まるのはあまりないんじゃないでしょうか。
坪田さん 少し話は変わるのですが、コロナ禍では多くの学生がオンラインとリアルの違いを実際に体験し、リアルが楽しいとか、リアルだからできることがあるといった実感を持ちました。その場として大学が機能し、人とつながって何かしたいと思ったときに、大学に来ていろいろ選択できるのはすごく意味があるのではないでしょうか。選択肢が広がることはいいことですが、一方で、それに適応して選んでいける学生と選びにくさを感じる学生とのギャップは生まれやすくなります。それは、オンライン導入で多様化が進む学びにおいても同じでしょう。学生支援や学生相談など、より個に寄り沿ったニーズの把握、フォローが今まで以上に必要になるのではないでしょうか。
弦間さん コンシェルジュ的なものがあればいいのかもしれないですね。オンラインだけでなく、リアルでもあったほうがいいのかもしれない。学生相談室とかは悩みがないと使いにくいけど、コンシェルジュならもっと気軽に相談できそうです。
「対面とオンラインの良さを組み合わせて教育の充実へ」弦間 一雄さん
——学びのオンライン化は、授業のあり方にも影響を与えたと思います。今後、どのような変化が起こりそうでしょうか。また、どう変化していくといいのでしょう。
安田さん 私は、大講義室での対面授業がなくなり、少人数制の授業がより発展するのではないかと思っています。「ゼミの大経大」をうたっていますが、他大学でもゼミの強化が進んできています。本学のゼミが強いことを、よりアピールしていかなければならないのではないでしょうか。大講義室の授業は質問がしにくいですが、少人数の授業だと意見を言いやすいです。私はその空間が楽しくて、大学時代、ゼミをしに本学に通っていると思っていました。
学長 なるほど。大講義室だと、大学らしいなという気がするとは思うんですが。大教室でもチャットを使えば、質問しやすくなりそうです。
弦間さん 私はFormsを使い、スマホでちょっとしたアンケートに答えたりできるようにしています。大講義室で手をあげるのはハードルが高いけれど、聞きっぱなしは退屈。Formsだとスマホで簡単にやれるし結果がすぐわかるので、学生は面白いと言っていますね。
学長 オンラインになって、教員の教授法が成長するのではないかと思っているのですがどうでしょう。退屈したり伝わらない授業にならないように、たとえば劇場型っぽく授業をするといったこともやらないといけないのかなあ、と思ったり。実際、教える側も、画面に向かって一方通行で反応もないまま90分しゃべるのはとても疲れます。より楽しくできる方法を開発したいのですが。
弦間さん 私は、オンデマンド授業にエンターテインメントはいらないと思います。学生も求めていないんじゃないでしょうか。オンデマンド授業は特に、できるだけムダなくコンパクトに収めるようにしています。面白おかしくするよりは濃度を高めて、短時間で受講できるようにするほうが、オンデマンド用の教材としてはいいのではないかと思っています。
安田さん すべての授業が劇場型になると飽きそうです。授業の中身より、そっちに気がいってしまって、学びに集中できないかもしれません。
弦間さん YouTubeでも、スキルを教えるタイプのものはスピーディな展開が求められているようです。もちろん、学問的な興味を持たせる、というところはあったほうがいいでしょうが、オンデマンドの授業でそこまでは難しいような気もします。
学長 確かに展開が速いものを求める傾向はありますね。わかった気になるという危険性もありますが。テロップを使うのは、とてもいいと思います。丁寧だし、障がいを持つ方にも便利でしょう。
弦間さん 若い世代は、一日24時間のうち28時間、メディアに接していると言われているように、テレビを見ながらスマホを見たりとか一つのメディアを集中して見ない傾向があります。そういう使い方の人にインパクトを与える意味でも、目で見てパっと一瞬でわかるテロップが重宝されています。わかった気になるのを防ぐ方法の一つとして、最初にインパクトを与えておいて、その後に深く丁寧に説明するなどの方法もあるでしょう。
小松さん オンラインは、学生の多様なニーズに応えることができると思います。発達障がいなどで周囲の雑音があると話が聞き取りにくい人や、佐藤さんからも出た、自己啓発と両立させたいからキャンパス外で受けたい人なども、学習がしやすくなります。ただ、便利だから、ニーズが高いからだけでなく、どのような教育がしたいのかや、教育機会を与えたいのか、といったところから授業の形態を考えていかなければいけないと思います。たとえば、大教室の授業は対面ではインタラクティブにするのが難しいためオンライン化が進みそうですが、一方で、学生同士が授業の前後にコミュニケーションできる機会になるという対面のメリットも重視する必要があります。
弦間さん リアルキャンパスや対面授業の良さを、オンラインにうまく加えていくということかもしれませんね。対面しかなかった時代にはゼミか講義かぐらいしかなかったのが、オンライン導入で授業のバリエーションが広がったと言えます。うまく組み合わせれば、教育サービスの充実や本学らしい教育の仕組みをつくり出せるのではないでしょうか。たとえば、課題です。オンライン授業の導入で、課題を出して提出しないと出席にならないシステムになりました。毎回課題が必須だったわけですが、私は、対面になってもそのままにしているんです。ハードルの高い課題や時間のかかる課題を出して、学生からは非常に評判が悪いです(笑)。でも、学生は、文句を言いながらでも結構、対応しているんですよね。先ほど、高校と大学の違いが意識できないという話も出ていましたが、学びもそうでしょう。社会では仕事への責任が求められプレッシャーを乗り越えないといけないのですから、高校と社会との間にある大学で、ある程度厳しさを教える必要があると思うんです。大学はいろいろ自由さはあるけど、単位取得に関してはむしろ高校よりきつい、という形もあるのではないでしょうか。これに限らず、高校と大学、大学と社会の接点はどうあるべきか、見直しをする必要があるかなと思っています。
——キャンパスライフや授業において、対面とオンラインとの違いがいかに大きいのか、現状にはどんな課題があるのかが見えてきました。後編では、それを踏まえて、魅力的なキャンパスづくりや本学のUI醸成に向けて何をすべきかを話し合います。
▼ 後編はこちら
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