インタビュー

新主将とコーチが考える「勝てるチーム」とは?関西の強豪校から全国に並ぶチームへ成長するための創発。

大学三大駅伝と総称される「全日本大学駅伝」「出雲駅伝」「箱根駅伝」。この数年で大阪経済大学陸上競技部は、関東の大学のみ参加できる箱根駅伝を除く2大会にて、関東を除く地方勢としてトップクラスの実力を発揮してきました。関東勢が圧倒的強さを見せる大学駅伝・長距離陸上界でさらに飛躍するためにはどのような創発が必要なのか、木村哲也コーチと、11月末に主将となった新博貴さんに対談いただきました。

対談者

木村 哲也さん

陸上競技部 長距離ヘッドコーチ。大阪経済大学経営情報学部2011年3月卒業。実業団で活躍の後、2022年度よりコーチとして母校へ。3000mSCマスターズM30日本記録保持。

新 博貴さん

陸上競技部 主将。人間科学部2年生。2023年10月に開催された出雲駅伝では1区を担当。11月末より4年生の引退に伴い、3年生をおさえて主将に抜擢された。

熱意を共有することで勝てるチームへと成長できる

――2023年の11月から、2年生の新博貴さんを主将とする陸上競技部長距離部門の新体制がスタートしたとのこと。本日の対談では「良いチーム・勝てるチームとは」をテーマに、これからに向けたビジョンなどをお話しいただければと思っています。

木村・新 よろしくお願いします。

――木村コーチが長距離ヘッドコーチとして着任した年と、新主将が入学した年は同じ2年前だそうですね。新主将が大経大に入学された理由を教えていただけますか?

 僕は陸上を本格的に始めたのが高校からで、全国で戦えるような選手ではなかったけれど、大学でも続けたいと考えていました。関西で長距離の強豪校といえば立命館大学や京都産業大学が有名でしたが、僕が高校3年生になる頃から大阪経済大学も常勝軍団として知られるようになっていて興味を持ちました。ここなら自分も努力次第で、関東強豪校の選手とも戦えるぐらい成長できるんじゃないかと思ったんです。

木村 うちはスポーツ推薦で入った選手ばかりではないので、入部時の走力や意欲にばらつきがあるんですよ。でも僕がコーチに就任する2~3年前から、かなり良いチームになってきていましたね。特に今年は、過去一番強いチームだったと感じています。

 僕を含め一般入試で大経大に入った部員でも、チームとして関西トップをめざすという目標を共有することで、成長することができたと思います。

新たな主将に抜擢された新さん

――近年の陸上競技部長距離部門が、良いチーム、強いチームになってきたというお話しが出ました。良いチームまたは勝てるチームとは、どのようなものだとお考えですか?

木村 「良いチーム」とは、目標に対しての熱意を共有できるチームだと考えています。大学の陸上競技長距離界では関東圏に強豪校が集中しています。これは大学駅伝で最も有名な箱根駅伝に参加できるのが関東の大学のみというルールがあるからで、僕ら関西勢を含め北海道・東北・北信越・東海は一括りに地方勢と呼ばれています。
今年は2024年の箱根駅伝が100周年大会ということで、地方勢の僕らにも予選参加のチャンスが訪れました。しかしながら、箱根駅伝予選会と出雲駅伝の日程が近いことから、本学は出雲駅伝にはトップ選手が出場し、箱根駅伝の予選は全国大会未経験の部員が関東勢と戦う経験の場とすることにしたんです。

 監督やコーチの意向もありましたが、最終的には僕ら部員が決めたことです。上位層の選手と下位層の選手で目標とする大会が分かれてしまうので、チーム内にねじれが生まれないか心配でしたが、終わってみれば全員が「全国と戦う」という目標を共有できるようになっていました。

木村 出雲駅伝、箱根駅伝予選を通じて、チームとしては成長したと思います。ですが2023年シーズンを振り返って感じたのは、勝負に勝つことへの貪欲さがまだ欠けているということです。

 チームとしては良くなってきたと思うのですが、課題は中間層以下の選手の覇気をどう育てるかですね。僕の肌感ですが「意地でも上位メンバーに食い込んでやる」という気持ちがまだ弱いんだと感じています。

木村 本学は今シーズンの全日本大学駅伝で、初めて地方勢トップに躍り出ることができました。大いに誇れる快挙なのですが、関東に集中する強豪校を視野に入れるなら、意識をもう一段上げていかないといけないと考えています。

2023年6月の関西学連出場大学選考会にて。地方勢トップからより高みをめざす

部内での競い合いで走力を鍛え、アクシデントに強いチームをめざす

――良いチーム・勝てるチームをつくるために、陸上競技部で大切していることや、マネジメントにおいて工夫していることはありますか?

木村 僕自身としては、チームの成長には、学年や実力を問わずフラットに意見を交わせる環境があることが大事だと考えています。その観点からゆくと、新たち2年生は、1年生のときからチームに対して積極的に発言していましたね。

 僕を入れて2年生は8人いるのですが、スポーツ推薦で入った選手と一般入試で入った選手が混じっていたため、本来なら意識の差があってもおかしくなかったと思います。ですが僕らの代は1年生の頃から「俺らが絶対にチームを引っ張って強くするぞ!」という意識を共有できていたんです。

木村 走力の面でも今の2年生は1年生の秋頃から記録が出始め、一気に成長したように感じています。

 1人が急激に伸びて、それに負けずと全員が競い続けるなかで、また別の1人がダークホースのように記録を出して…という繰り返しで切磋琢磨してきました。ライバル同士だけど、チームを強くするためにはどうしたらいいかを話し合える仲間でもあるという、良い関係が築けていると思います。

卒業生でもある木村コーチ。チームづくりはもちろんPRなども担う

――その意識の高さが、2年生をチームの主力に据える決断につながったのでしょうか?

木村 新たちの学年に関しては、お互いに面と向かって「次のレースは負けへんからな」「次の記録会は、絶対俺が大経大ベスト記録を出す」みたいなことを言い合っている姿をよく見かけていたんですよ。それどころか先輩にも「次は抜くんで」みたいな強気な発言をします。そんな彼らの姿勢を僕はすごくいいなと思っていて、だからこそ新を主将に抜擢しましたし、この学年がチームを引っ張ってくれると期待しています。

 僕の代は全員が主将を務められる器だと思うのですが、選ばれたからには勤めを果たせるようがんばります。

――新主将は今シーズンの出雲駅伝で1区を務められましたが、脱水症状を起こされるというアクシデントがありましたね。当時のお話を伺ってもよろしいでしょうか?

 あれは僕の陸上人生の中で一番の挫折でした。1年生のときも4区を走らせてもらいましたが、今年は1区という大役。春からずっと自己ベスト記録を出し続け、夏もしっかり練習できて順調だったんです。自分としても関東の選手と真っ向勝負で戦えるまたとない機会だと、大きな緊張と楽しみを感じながら出場したのですが、終盤で脱水症状を起こしてしまって…。

木村 何kmまで意識があった?

 6kmぐらいまでは意識があったのですが、残り約2kmは全く意識がなく、気づいたら倒れていました。3日前から出雲入りして調整していたものの、いつもと違う環境で水分をしっかり摂れてなかったことなど、反省点が多くあります。

木村 新を1区に抜擢したことは全く後悔していません。間違いなく走れると自信を持って送り出しましたし、レース自体もアクシデントが起きるまでは想像以上の順位で走っていました。これはもう僕のコーチとしての経験不足が招いたことで、彼に非はありません。

 来シーズンはリベンジします。

さらなるレベルアップをめざし、課題や目標を共有

木村 僕としては今後取るべき戦術も見えた、いい経験となった大会だと思っています。ただしチームの課題として感じたのは、トータルではいいタイムで走り切ったのですが、1区リタイアのショックから、後続の選手が想定よりもかなり悪いタイムになったことです。去年から大経大は安定して走れるチームだという評価を得てきましたが、アクシデントに弱い現実が浮き彫りになりました。

 先日の丹後駅伝の反省会でも「自分のところで流れ変えてやるぞという選手がいない」と仰ってましたね。

木村 関東の強豪校でも1区・2区でアクシデントが起こるとブレーキがかかってしまい、ほとんど上位に上がってこれません。だから特別うちのチームが弱いというわけではないのですが、やはりそこを変えていかないと、高い目標には届かないと考えています。

心理的な壁を乗り越えることで、より強い創発が生まれていく

――チームの課題についてお二人から意見が出ました。今後はどのような取り組みが必要となってくるのでしょう。

木村 そうですね、新たちは同期同士で刺激し合ったことで、高い意識を持つようになったわけですが…、他の部員たちはどうしたら意識を上げられると思う?

 成功体験を重ねることだと思います。僕は日々の練習で先輩が崩れても自分は走り切れたことや、記録会を一緒に走って先輩に勝てたという小さな成功の積み重ねが、上をめざす意識につながりました。また先輩と話すことでも意識が高まった経験があるので、タイムが伸び悩んでいる選手と積極的に対話したいなと考えています。

――大経大が「DAIKEI 2032」で掲げるミッションには「創発」という言葉があります。これは、予期せぬものとの出会いや異質なものとのぶつかり合いが、新たなものを生み出すといった意味の言葉なのですが、陸上競技における「創発」にはどんなものがあるとお考えですか?

木村 僕は心理的な壁を越えることが、チームの成長や創発につながるんではないかと考えています。心理学用語にバニスター効果というのがあるのですが、これはイギリスのロジャー・バニスターという陸上選手が、1954年に初めて1マイル(約1,600m)を4分を切るタイムで走ったことが他の選手にも影響したことが由来となっています。それまでは運動生理学的に4分の壁は切れないとされていました。でもバニスターが記録を出した途端に、そこから約3年で15人ぐらいが3分台の記録を連発したんですよ。

僕ら大経大も、2022年の全日本大学駅伝の予選で、初めてトップ通過を経験したのがバニスター効果になったと考えています。それまで選手単体での優勝はあっても、チームでトップを取ったのはそれが初めてでしたから。そこから2023年大会でも予選をトップ通過し、本戦では初めて関西・地方勢トップという順位を獲得できたのも、自分たちでは無理だという思い込みの壁を乗り越えたからこその結果だったと考えています。

なので、本学の陸上競技部における創発は、チームのエースがそれこそ記録会で関東勢の一角を倒したり、実業団選手に競り勝つような実績を作ることから始まるのではないでしょうか。そして「あいつにできるなら、俺にもできるはずだ」というチーム内の競争が生まれ、選手同士のいい意味でのぶつかり合いが、本当の意味での常勝軍団になることにつながっていくのではないかと考えています。

――新主将には、大会を通じて関東強豪校と接してきたことで得た創発もあったのではないかと思うのですが、いかがでしょう?

 やはり関東のエース選手は自分の走りに圧倒的な自信を持っていて、「自分が走れば区間賞を取れる」というような自負がオーラとなってるように感じます。僕も主将としてそんなオーラを身につけて、走る背中でチームを引っ張っていきたいですね。

また僕自身の来シーズンの目標として、チームの主将・エースとして誰からも認められる選手になることを掲げています。大経大の10,000mの大学記録が28分56秒なのですが、まずはそこの壁を超えて、僕が新しい記録を出したいです。それにより2年後には、本気で関東勢と戦える選手が複数人揃い、全日本大学駅伝や出雲駅伝で1校でも多く関東勢に勝てるチームになりたいです。

メンバーとの集合写真