実業界から高い評価を得ている本学の強みを、さらに次のステージへと上げるために。(理事長 山澤 倶和さん)
阪急電鉄をはじめインフラ系企業などで長年キャリアを重ね、2023年7月から大阪経済大学の理事長を務める山澤倶和さんに、100周年ビジョン「DAIKEI 2032」についてインタビューしました。
本当のニーズを汲みとるためのプロダクトアウトが勝ち抜くカギ
私もまだ理事長に就任して時を経ていないので、自身でも大学の在り方を模索している最中です。大学にとってお客様とは誰か。学生の就職先となる企業や地域も含まれるかもしれませんが、学生がお客様だと仮定すると、ニーズを読み解くのがとても難しいのです。
社会の基盤となるべき人材を育てる大学は、インフラ系のサービスと近しいものがあります。メーカーの商品ならマーケットインすればわかりやすいのでしょうが、インフラ系は、お客様の固定観念もあり、提供されるものにあまり疑問を抱かない傾向が強い。たとえば鉄道であれば、「混雑をなんとかしてほしい」という素朴な願いはあったとしても、ダイヤを変えるとか、連結を増やすとか、駅を広げるとかいった、莫大なお金のかかることまで、個人のお客様がお考えになるわけではありません。まだニーズにも上ってきていない部分を汲み取って改善の提案をしていくのが、インフラ系のサービスを行う側の使命です。
私の経験上、明確なニーズを持っている人は少ないので、マーケットインだけでは不十分なのです。サービス提供側が徹底した「お客様目線」でそのウォンツを感じ取り、サービスを提供する側がプロダクトアウトの思想で、自分たちの知見や技術を顧客の要望に落とし込み、「より良い価値」を提案していくセンスを身につけていかなければ、これからの厳しい時代に勝ち残ることは難しいと考えます。
大学に置き換えれば、学生の意見を聞き、彼らの希望する教育を行えばいいというものではありません。学生が自身の本当のニーズを認識していない面があるので、そこを汲みとって新しいサービスを組み立てていく責任があります。本学にプロダクトアウトする技術力がどこまであるのかは、学生にはわからないから「こんなことをしてほしい」とは言えないわけです。学生の学びやライフスタイルを提案する力を、大学側がつけていくべきです。
次のステップへと進むアイデアを、臆せず提案していただきたい
大阪経済大学は、実業人を養成するという社会のニーズを受けてできた大学です。2032年に創立100周年を迎えるにあたり、90周年の時点で掲げたビジョン「DAIKEI 2032」はとてもすばらしい内容です。こういう厳しい時代にあって、縮小均衡をめざすのではなく、もう一度、原点に立ち返り、地域社会や日本の経済社会に貢献しようという、将来設定型のビジョンがつくられたと感じています。しかし100周年の先には、高齢者の割合がピークになりつつ生産年齢人口は急減する、いわゆる2040年問題が待ち構えています。この少子化のなかで2040年問題を見据えて大学の実力を高めていくのは大変なことです。
本学は伝統的に続いているゼミ中心教育によって、企業から高い評価をいただいています。企業に伺うと、OJTでは社会の進歩についていけないから、適応できる教育を大学でしてほしいという要望をよく耳にしますが、学生たちをゼミで鍛え、この声に応えられている結果として、本学は企業から高い評価を得ているのでしょう。
しかし、この状況に甘んじるのではなく、評価をさらに高めるために、ゼミ以外の教育にも特色を出し、次のステップに向かわなければいけません。
また、大学の運営は、学生からいただいた貴重な授業料で賄っていますが、それだけでは手がけられる範疇は限られています。社会の中で大きな役割を担い、なおかつ競争に勝ち残っていくのには、自らもファウンディングの力をつけないといけません。大学自体が資金調達をする道も模索する必要があると考えます。
そして、これらの改革を多くの関係者の皆さまが積極的にPRし、当大学のブランドをより高めていくことも重要です。教職員の皆さんには、これら「教学・財政・ブランド力」という三つの改革を実施するためのアイデアを臆せず提案していただきたい。そして自分たちの力を信じて、本学ならではのノウハウやパワーをもっと学生たちに伝えていってほしいと願っています。
Profile
大阪経済大学 理事長 山澤 倶和
1971年、京阪神急行電鉄株式会社(現・阪急電鉄株式会社)へ入社し、2000年に同社取締役 統括本部長に。その後、阪急阪神ホールディングス株式会社 取締役、株式会社阪急阪神ホテルズ 代表取締役社長、阪神高速道路株式会社 代表取締役社長、池田泉州ホールディングス取締役などを歴任。一般社団法人日本ホテル協会 本部理事・大阪兵庫支部長、大阪商工会議所サービス産業部会 副部会長、公益社団法人関西経済連合会 評議員、大阪経済大学 理事、大阪商工会議所運輸部会 副部会長なども兼務。2023年7月、大阪経済大学の理事長に就任。