インタビュー

友安製作所代表・友安さんに聞く——社員全員で見つめた友安らしさ。「いちいちかっこいい仕事」をする会社とは。

大阪経済大学にとって「創発」とは、一人ひとりの考えや行動が相互作用し、新たな価値が生まれることを意味します。では、「DAIKEI 2032」のミッションに掲げられている「生き続ける学びが創発する場」になるためには、何が必要なのでしょうか。山本俊一郎学長が学外で創発を実践する人たちのもとを訪れ、創発を起こすためのヒントを探ります。今回は、企業理念の共有によって常にチャレンジする風土を作り上げ事業を成長させている、株式会社友安製作所代表取締役社長・友安啓則さんをお訪ねしました。

対談者

友安 啓則さん

ともやす・ひろのり。八尾市でインテリア・DIY用品のインターネット通販を中心に、カフェ、工務店、レンタルスペースのマッチングなど様々な事業を展開し急成長中の株式会社友安製作所を率いる。「FactorISM」「みせるばやお」などモノづくり企業の連携による産業振興・地域活性化の活動も積極的に推進するリーダー的存在の一人。2022年「学生に知ってほしい“働きがいのある企業”賞」(一般社団法人大阪府経営合理化協会、大阪経済大学、大阪工業大学主催)で大賞、学生が選ぶ働きがいのある企業賞を受賞。

15年かけて理念を自分事にできる会社をつくってきた

学長 友安製作所は、本学も主催者に名を連ねている「学生に知ってほしい“働きがいのある企業”賞」で2022年度大賞を受賞され、同時に学生が選ぶ働きがいのある企業賞も受賞されました。この賞は、企業理念の共有化や浸透の度合い、チャレンジできる組織風土などが評価のポイントになっています。そのような環境をなぜつくろうと思われたのか、どう実現されたのかなど、いろいろと伺いたいと思っています。

友安 大変ありがたい賞をいただけたと感謝しています。というのもうちの会社は、理念の共有に真剣に取り組んできたからです。最初に定めた理念は「Add Colors to everyone’s Home.」といい、祖父が創業し父が引き継いでいた町工場に私が入社し、新事業を立ち上げたときに決めました。私が始めたのはインテリアやDIY用品のEC事業で、ブランド名は「Colors(カラーズ)」といいます。「自社商品カラーズを世界中の人々に届け、彩りを加える」ということをうたっているんです。

友安製作所が提案する空間デザインやインテリアのイメージ

学長 この理念を定めたときの思いを、少しお話いただけませんか。

友安 私は、大学・大学院とアメリカで学び、修了後も現地の商社で働いていたのですが、父の病気をきっかけに2004年に帰国し、25歳の時に当社に入社しました。幸いなことに父はその後回復し、私は父と一緒に働きたくてそのまま会社にいるつもりでしたが、父はすごく反対で。カーテンフックをつくっていた父の会社は、一時は30名ほどの規模だったものの、その頃は私を入れて6名にまで縮小しており「こんな町工場で働くことはない」という気持ちだったようです。僕がとどまる条件として、月に15万円の給料を半年出してやるから、何か新しいことで自分の給料を稼いでみろと言いました。

学長 その新事業が当たったと。

友安 結果的に言えばそうですけど、当時はむしろ背水の陣といったほうがいいような状況でしたよ。私は、クリップ式のデザイン性のあるカーテンフックをつくって問屋に売りに行きましたが、撃沈しました。当時、父が作っていたカーテンフックの売値は1個につき80銭程度でしたが、そのフックは8個で640円。1個80円で100倍もしたからです。
問屋にノーと言われるとメーカーは手も足も出ない。ものづくりを一旦あきらめ、自分の得意な英語を使う商売を始めました。海外から商品を仕入れて販売する自社ブランド「Colors」を立ち上げ、車に積んで売り歩くことにしたんです。

なぜ「Colors」だったかというと、アメリカから帰国して日本の住宅がみんな同じような白い壁と茶色い床、間取りや外観も似ているのを見て、少し残念に感じたからです。それに当時、家族間で起こった凄惨な事件がいろいろ報道されていて、「あれ、日本って世界一安全な国だったはずなのに」という違和感もありました。もしかして規格化されすぎた家の中で暮らしを楽しめていないことも、何か関係があるのではないか。飛躍ですけど、そんな気持ちになって、生活の「彩り」に着目するようになったんです。

八尾市の本社オフィスにて話す友安さん。生活に彩りがある人とは「生きる活動(生活)をエンジョイしている人」という

学長 なるほど。それで「Add Colors to everyone’s Home.」なのですね。社員のみなさんの受け止め方はどうでしたか。

友安 最初は、理念を掲げてもなかなか伝わらないという状況が続きました。ちょっとあきらめもあった気がしますが、5年ほど経って売り上げが上がってきた頃、そうは言っていられないことが起こりました。あるスタッフが矯正下着を売ろうと言い出したんですね。なぜかと聞くと「すごく売れているから」という返事です。経営の主軸が理念ではなく、売り上げになっていることに危機感を覚えました。

これがきっかけで、もっと真剣に理念に忠実な経営をしようと思うようになり、理念を社員の行動に落とし込んだコアバリュー、つまり社員が持つ共通の価値観・行動指針を設定することにしました。単なるお題目にならないように、査定をするときにもコアバリューと関連づけるようにしたんです。ちょっと刷り込みみたいな感じにはなってしまうんですが、査定に組み入れて意識することで自分事にしてもらえるのではないかと考えました。

学長 理念や行動指針をどのように浸透させるかという意味で、興味深いお話です。

友安 理念は事業領域の拡大に伴って2022年に見直しをし、ミッション、ビジョン、バリュー、コアバリューとともに整理しました。現在の理念「Add Colors to everyone’s Life.」、ビジョン「世界中の人々の人生に彩りを。」、ミッション「世界中の人々の人生の一部にわたしたちの製品・サービスを。」はそのときに定めたものです。

私は、理念とは、それを自分事にした人たちが糧にする、というのが理想じゃないかと思っているんですよ。会社の理念に共鳴し、退職してもそれを軸に仕事をしているという知り合いも結構いますしね。

うちの会社では、理念を自分事にしてもらうための試みとして、理念の見直しの際、コアバリューについては社員全員でアイデア出しをしてもらうことにしました。そしてそれを基に、先に設定していたものも含んで10個の行動指針「TOMOYASU WAY OF LIFE」をつくりました。

「Take ownership/仕事やミッションを自分事化し、主体的に取り組む姿勢を」「Work as a team/集団的創造(チーム力)で想像を超える創造を」「Do with passion/仕事に、遊びに、情熱を! いちいちかっこいい仕事を」「Enjoy yourself/家族に、仕事に、遊びにワクワク」など、見ていただくとわかるように情緒的な文言です。社員の気持ちから出たアイデアが基になっているからそうなったのでしょうし、逆に気持ちに訴えないと人には届かないとも思っています。

学長 危機感を覚えて理念に忠実な経営をめざしてから15年ぐらい経っているわけですが、手ごたえはどうですか。

友安 先日も戦略を共有する全体会議で流すために、理念・ミッション・ビジョン・コアバリューを紹介する動画をつくってもらったのですが、とてもいい内容でした。私では出てこなかったけれど、本質的なところを言い当てている表現が結構出てきていたり。もう私はいなくてもいいのかもと思って、寂しくなりました(笑)。

学長 その動画を見せていただきましたが、外部の私たちでも伝えたいことが一瞬でわかりました。理念の共有の仕方として、可視化することのメリットを強く感じました。本学の場合だと、職員が楽しくかっこよく働く姿を見せるとか、そういうこともしていかないといけないのではないかと思いました。

友安 ブランディングは言語化だとよく言われますが、そのさらに上がビジュアライズなのではないでしょうか。言葉や意味、意義、主張をビジュアライズすると、理解が早くなるように思います。

共感できる仕組みづくりで組織の分断を埋めていく

学長 今度は、組織作りについてもうかがっていきたいと思います。セクショナリズムってどの組織にもあると思うのですが、こちらはいかがですか。コアバリューがしみ込んでいるから、そんなことはないのでしょうか。

友安 いえいえ、セクショナリズムは当然あります。事業部間の問題だけではなくて、会社が好きな人たちが2割いるとすれば、どうでもよい人たちが6割ぐらい、会社が嫌いという人が2割ぐらいいるとよく言われますが、うちも例外ではないと思っています。

それらの層が分断されないよう意識してやってきたのが、イベントやクラブ活動を盛り上げたり、プロジェクトをつくっていろんな人が一緒に仕事をする機会をつくることでした。「友安製作所フェスタ」は、その一つです。お客さまに向けて暮らしの中で使うアイテムや暮らしを楽しくするアイデアを提案する、年に一度のイベントで、当社だけでなくさまざまな企業も参加して物販、飲食、実演やワークショップなどを行います。2日間で約5000人を集客しますから、まさに全員野球で社員が協力し合って取り組まないと到底間に合わないわけです。

こうして一緒に仕事をする機会が増えたり、課外活動にお金を出したりすると、自然にコミュニケーションができ仲良くなれる環境ができます。その上でどの層にも同じようにタスクをふると、互いに迷惑をかけたくないと仕事に力を入れてくれるようになるんですね。

友安製作所フェスタ。物販やグルメ屋台、ワークショップなど社員が一丸となってイベントを盛り上げる

学長 やはり、協力し合えるような環境づくりは大事ですね。クラブ活動というのは、どういうものですか。

友安 その名の通り、自由な趣味の集まりなんですけどね。ランニングクラブとか、自転車の会とか、チョコミントの会とかいうのもあったかな(笑)。私は自転車の会に入れてもらって、若い社員に教えてもらっています(笑)。

学長 いろんな集まりがあるのはいいですね。その中でときに普段の上下関係が逆転していたりすることも、きっととても大事なことなんでしょうね。そういうのも、友安さんご自身が自然にやれているところがすごいなと思います。

友安 単純に、すごい人を尊敬してしまうんですよ。デザインや言語化のセンス、ものづくりなど、ある程度自分ができると思っていたことについて、もっと上をいく人が社内に多いですから。当社では日報をSNS化しているのですが、それを読んでいても感心することばかりです。

学長 日報をSNS化ですか。くわしくお聞きしたいですね。

友安 日報といっても、今日一日どうだったのか、今何を思っているのか、感想でいいから書いてください、というお願いをしました。それをSNSにして全員が見られて、「いいね」とかコメントとか入れられるようにしたんです。こういう形にしたのは、それぞれの人の仕事への思いや気持ちが伝われば応援したくなると思ったからです。

学長 なるほど。隣にいる人の仕事の中身もわからないことが多いですが、気持ちとなるともっとわからないですからね。

友安 SNS世代は承認欲求が強いというのか、自分ががんばっていることをアピールする場はほしいはずです。思いを書くようにすれば、日報の余分なタスクというイメージが少し変わってきます。私は全員の分を見ていますが、みんなには自分に関係のある部署の人たちの分ぐらいは最低見ようねと呼びかけています。ちなみに、社員全員で選ぶ「Tomoyasu Award」というのもあるんですよ。1年間がんばったと思う人を3人投票して、上位10名を発表しています。誰が誰に投票したのか私だけは見られるのですが、全然違う部署の人に投票している人も多くなってきていて、いい変化だなと思っています。

学長 組織の中に共感や交流をつくる仕組みをいろいろ設けられているのですね。

自分にも会社を変えられると信じられる気持ちが創発の源に

学長 私たち大阪経済大学は、いろいろな人が互いに影響し合って新しい価値を生み出す「創発」という言葉をミッションのキーワードにしているのですが、友安さんは創発の環境をつくりだすことに長けていらっしゃるなあと感じました。

創発の源について尋ねる山本学長

友安 今は、多様なバックグラウンドをもつ新しいスタッフが入社して、その人たちの得意なことがサービス・商品につながっていく形で成長してきました。EC事業からカフェ、リフォーム、レンタルスペース、メディア、まちづくりと事業が拡大したのは、人と場が起こした創発だと言えます。

そういう会社だから、こういうことがやりたいね、みたいなことは誰が言ってもいいし、NGもあんまりない。ミッション・バリューに反していなければいいので。また、誰かからアイデアが出たときに、いいね、おもしろそうだねと乗っかる文化が根づいてきて、アイデアが出しやすいということもあるかもしれません。同様に、社内環境の整備についてもここ15年ぐらいずっと社員に要望を出してもらって少々わがままなことでも実現してきたんですね。自分にも会社を変えられることが実感でき、能動的に働くことにつながっていると感じています。

レンタルスペースの検索予約サイト「カシカシ」。新しい出会いと創発によって生み出された新事業の一つ

学長 社外での活動もいろいろとなさっておられますが、それも創発の源になっていたりするのでしょうか。

友安 おっしゃる通りです。「FactorISM(ファクトリズム)」という府内のものづくり企業100社程度が参加してものづくり現場を公開するイベントでは副実行委員長をしていますし、八尾の企業が集まってリソースをシェアする「みせるばやお」では代表理事を務めていますが、こうした社外との連携やコラボの中からアイデアや仕事がものすごく生まれています。企業の集まりでリーダーシップを取るのは会社経営とは違った視点が必要ですが、ただ、理念を一番上に置く、というところは共通点としてあるのかもしれません。リーダーではなく理念に照らして物事を判断・評価することで、より早く目的に到達できるということをめざしています。

学長 大学にはそれぞれに個性的な教員がいて、ある意味経営者の集まりみたいなところがあります。違いはあっても、それをうまくより上位の概念でまとめ、遠くから見たら大阪経済大学とはこうだ、というものをつくりたいと思っているんです。その意味でも、今日のミッション・バリュー・コアバリューの位置づけや組織づくりのお話はとても参考になりました。端々に、友安さんの熱が社員さんに伝わっている様子がみられ、社員と会社の想いを一つにすることの大切さを改めて感じました。今後、友安製作所からどんな試みが飛び出すのか、大いに期待しています。ありがとうございました。