インタビュー

リゲッタ代表・高本さんに聞く——学生の発信を受け止めるのが大経大らしさ。応援された経験がポジティブさを育む。

大阪経済大学にとって「創発」とは、一人ひとりの考えや行動が相互作用し、新たな価値が生まれることを意味します。では、「DAIKEI 2032」のミッションに掲げられている「生き続ける学びが創発する場」になるためには、何が必要なのでしょうか。山本俊一郎学長が学外で創発を実践する人たちのもとを訪れ、創発を起こすためのヒントを探ります。今回は、ユニークなコンセプト、デザインの靴づくりで成長を果たし、リーダーシップを発揮する株式会社リゲッタ代表取締役・高本泰朗さんをお訪ねしました。

対談者

高本 泰朗さん

たかもと・やすお。大阪市生野区のシューズメーカー、株式会社リゲッタ代表取締役。2005年、高本社長がつくりたい靴を形にした「リゲッタブランド」を立ち上げ、製造から卸、小売まで一貫して行う体制を確立。グッドデザイン賞受賞、大阪製ブランド認定など、個性的で機能性の高いデザインが評価を受けている。「大阪市内ものづくり企業×大学生交流事業」では連携企業の一社として本学学生に課題解決テーマを提供するなど、日頃から本学の教育にも積極的にご協力いただいている。

まだ誰も見たことのないものを
カタチにするために徹底的に話し合う

山本 リゲッタさんには、うちのゼミの学生と課題解決学習を実施させていただいたのをはじめ、いろいろとお世話になっています。まず、この場を借りてお礼を申し上げます。今回、高本さんのお話をうかがいたいと思ったのは、創発という言葉のイメージに、リゲッタさんの中期経営計画発表会のシーンが重なって見えたからです。中期経営計画が成功した時の姿を、計画を提案したトップ層が演劇にして表現するというユニークな取り組みでした。社員さんは一生懸命に伝えようとする経営幹部の方々の姿に感動したでしょうし、社外の人には会社の社風も含めて伝わったのではないでしょうか。発表会の前に、発表者が円陣を組んで「よし行くぞ!」ってやっておられる姿を拝見し、滲み出るワンチーム感にも感銘を受けました。他社がやっていないことを、自由に取り入れていらっしゃる点も憧れています。

高本 ありがとうございます。やったことのないことをやり、考えたことのないことを考えるというのが、うちの会社の基本なんです。ルーティンで作業をやるのは入社3年までで、それ以降は、前例や常識にとらわれずにオープンなことを考えてもらいたいと思っています。

山本 まさに創発だと思うのですが、そういう空気は、社内にどのように広がっていくのでしょうか。日頃から、高本さんが伝えることによってそうなっていくのでしょうか。

高本 月に1~2回、部署の長が十数人ぐらい集まってミーティングをするんですね。最初、チェックインと言って、一人ずつ最近起こったことを話していきます。仕事には何の関係もない雑談で、それだけで1時間ぐらいかかってしまうんですけど、実はこれが結構大事。自分の話、関心事を聞いてくれるメンバーがいる、共感してくれる同じ目線の人がいると感じられるからです。そういう雰囲気をつくった上で、ブレーンストーミングというか、イエスノーでは答えられないようなオープンなこと、これまで考えたこともないようなことをみんなで考えていきます。そういうアウトプットを、部署の長が体験していることが、社員全員に新しいことを考えようという意識が芽生えるきっかけの一つになっているでしょうか。

山本 悪い会社は会議が多い、とかよく言いますが、リゲッタさんでは会議も一味違うんですね。

高本 報告会になるのなら、時間のムダになるからやめる。でも、よくわからないようなことについては、どんどん話し合います。だから、いろんな部屋でいろんな人がミーティングばっかりやっている(笑)。質問や相談に対しても、私が意見を言うより、相手の意見を引き出すことに重点を置き、「なんでそこに悩んでいる?」「その対立の正体は何?」「どこから始まった?」というふうに問いを立てるようにしています。社員も、「社長は話を聞いてくれる」と感じてくれているようです。

株式会社リゲッタの代表を務める高本さん

山本 社内には、みなさんが描く会社の将来の姿が、イラスト入りの手作りボードとして壁に貼り出してありますよね。アイデアをみんなで共有して、ワクワクする雰囲気をつくり、自分自身で考えていくという姿勢が根付いていて、アイデアもポコポコ湧き出しているという感じがします。そういうことを、本学でもやりたいんです。社員さんのアイデアを拾い上げる工夫というのはあるんでしょうか。

高本 最初は、提案なんてやっていいのかな、と思っていたみたいですけど、今は積極的にやってくれるようになりました。デザインの部署からは、こんな靴がつくりたい、というような提案がバンバンありますし、営業からはもっと売上げを上げたいから、こんな展示会に出たいとか、躊躇せずに会社に役立つアイデアを出してくれるようになりました。

山本 アイデアを出しやすい雰囲気をつくったのですか。

高本 それはありますね。全社員の日報を毎日読んでいるので、何か面白いことや気になることは、次の日、しゃべりかけるようにしたりとか。社員のやっていることやアイデアなどを、私のブログや社内メンバーしか聞けない社内ラジオで紹介したりもしています。

失敗できる環境をつくることが
若い人の成長につながる

山本 私たちは100周年に向け、創発という言葉をキーワードに改革を行っています。ちょっと直球の質問ですが、高本さんにとって創発とは何か、お聞かせください。

高本 今回、このお話をいただいて、創発って何だろうって考えてみたんです。浮かんできたのは、何か一つきっかけがあるだけで、ぐるんぐるん変わっていく、より強みが出る、といったイメージでした。考えてみたら、リゲッタってそうだったんです。サンダル製造は生野区の地場産業でうちも家内制でやっていましたが、近年はずいぶん沈滞して仕事もなくなり、僕自身もその中でさびれてしまっていた。しかし何とか人生を逆転したくて、リゲッタという新しいコンセプトの靴をつくり、発売しました。コピーされるなど紆余曲折もありましたが、とにかく新しいことに挑戦し続けていきました。すると地域でライバル関係だったメーカーもうちの会社に仕事をくれと言ってくるようになり、それを受けて事業を拡大することにしました。一番多い時は6社ぐらいが協力工場になり、今までライバルだった会社、下請けをしてくれる職人さんたちと一緒に燃え上がったんです(笑)。もう引退しようと思っていた職人さんも再起してくれ、売上げがよかった年の忘年会には200人が集まり本当にみんな笑顔でした。もともとは「辛い現状から脱したい」という利己的な気持ちで始めたことが、気付いたら人を助けることにつながっていた。いつのまにかそうなっているのが、創発なのかなと思いますね。

会社名にもなったコンフォートシューズブランド「Re:getA(リゲッタ)」

山本 起こそうと思っても起きるものではないということですね。

高本 起きるときもあるでしょう。でも、起こそうと思うと、誰かのことをコントロールしたり、けしかけたりすることになるかもしれません。それは違うと思うんです。むしろ、周りが育っていく、というようなイメージでしょうか。この会社に入ったおかげでほんまによかったと思ってくれたら、経営者としてはとても名誉なことです。

山本 確かに、大経大に入ってよかったと言われたら、どんな苦労もふっ飛びますね。日頃から、どうしたら創発が起こせるのかをいろいろと模索していて、昼休みに覆面被ってギターを持って歌えば何かが変わるかも、なんて真剣に考えたりしています(笑)。要するに、突破するきっかけをつくりたいんですよね。一つ思うのは、かっこいい先輩がいることが重要ではないかということです。また、誰かがやってみることでそれが呼び水になり、「ああ、そういうのをやっていいんや」とみんなが思えば火がつくかなとも思います。うちのキャンパスは落書きもゴミもなくてきれいに整っているので、ちょっと逸脱できない雰囲気があるかもしれないのですが。

高本 「それ、やっていいの?」と思うかどうかは、一つの指標になるんじゃないでしょうか。そう思うということは、行動しやすい、発言しやすい場ではないということでしょう。創発と言われたときに、私が思い出したのが、YouTubeで話題になった「裸の男」という動画です。その動画では、野外コンサートの合間の暇な時間に、上半身裸の男が踊り出すんです。それがあまりにも楽しそうだったから、二人目、三人目とフォロワーが増え、気が付いたら大勢の人が踊り出していました。これが会社や組織の基本ではないでしょうか。うちの会社も、私が「裸の男」のようにワーッて踊っていたら、一緒に仕事をしたいという人たちが集まってきて、1回目の創発が起きた。それで火がつき、リミッターが外れた人が今度は自分でも企画を立てだして、その人がまた「裸の男」になっていったんだなと。創発には、まず一人の行動に強く共感した人がフォロワーになり、面白そうでワクワクし、組織の利益にもつながるようなことを共にやることが重要かなと思います。

山本 最近、学生から「夏祭りがしたい」という声があがりました。ドレスコードを浴衣にして、みんなをキャンパスに呼びたいと。コロナ禍でこの2年間何もできなくて鬱屈しているので、そろそろ爆発したいという思いがあるのだと思います。それを聞いて、今というタイミングは、もしかしたら創発の種をまくチャンスなのかなと感じました。学生がやりたがっている今、学生から火がつき教職員も巻き込んでいくことができるかも、と期待しています。

高本 学生から発信したことを受け止めようというのは、大経大っぽいですね。「失敗したらどうするんだ」と詰めると子どもは怖がってしまうけど、受け止めてくれる大人がいたら「失敗してもええんや」と思えます。大人が後押しをしてくれて何かできたという体験は、社会に出てから生きてくるのではないでしょうか。もっと面白いことを探そうとしたり、上司に何か提案や相談をしたくなった時、「聞いてくれるはず」とポジティブに考えられる気がします。イベントをしたいなら、学生さんが知恵を絞ってお金を集めるのもいいですよね。

山本 夏祭りを実行するためのチームができればいいねと助言したら、30人ぐらい仲間を集めたようです。私たちも応援し、なんとか実現にこぎつけたいと思っています。

高本 うちの会社が変わるきっかけになったのも、若い人が主体になって行ったあるイベントでした。区役所から依頼され、「リゲッタ生野区ラグビーフェスティバル」という冠イベントを企画運営したんです。イベントの目的を「ラグビーを通じて生野区を知ってもらいたい」と決めるところまでは私がしっかり話しましたが、あとは社員に全部委ねました。進捗の共有だけはしますが、口は極力出さなかったんです。イベントにはたくさんの来場者を呼び、大いに盛り上がりました。それが社員にとっては成功体験になり、自信につながったと思います。

リゲッタ生野区ラグビーフェスティバル

山本 やはり、信頼して委ねることが重要なんですね。

高本 失敗もこみで認めてあげられると、成長につながりますよね。信頼して委ね、失敗できる環境をつくってあげることが大切だと思います。

山本 高本さんの、周りを育てる、フォロワーを育てるという視点が、とても面白いと思いました。興味深いですね。

高本 ただ、何かをやってもらうのに、理念そっちのけになるのは困ります。周囲の人を巻き込んで一緒にやるには、理念を理解してもらうことが非常に重要だと思っています。うちも、2014年に経営理念を初めてつくりましたが、その時「経営理念を使ってみよう」という表現をあえて使いました。最初の経営理念「足元から世界に喜びと感動を」は、16人で8カ月をかけてつくったんですけど、3年間使ってみた結果、どうも言いにくい、覚えられない、例えられないという意見が多かったんです。それで、今の理念「楽しく歩く人をふやす」を14人で5カ月をかけてつくりました。何回ももんでやり取りしたので、みんなでつくったという感覚がありました。経営理念をつくってそれにまつわるイベントをしたりすると、理念にフィットするかどうかが自分でよくわかってきます。うちの場合は、それで辞める人も出ました。それぐらい理念は重要であり、人と人とが話し合い、とことんすり合わせることが大事だと思います。

隠し事をしないことが社員のやる気に
認め合い尊重し合える組織をめざして

山本 高本さんは、スタッフと「面白くて楽しくてワクワクできる仕事をしたい」と言っています。面白いことやワクワクできることは、アイデアがないとできませんよね。

高本 「めっちゃこれやりたい」と宣言するのは、僕以外には、1人か2人しかいませんね。起承転結で言うと起、ゼロから一をつくり、ワクワクできる人です。承は、どうやったらもっと売れるか、どういう見せ方をするか考える人、転は、こういう売り方もあるな、と見方を変えられる人。そして結は、まとめていく人、書類仕事なんかもやれる人ですね。

山本 アイデアが枯渇することはないんですか。

高本 制約が厳しすぎると枯渇しますよね。値段が決まっているとかね。だから、値段の制約を外し、好きにつくって売りに行くことにしました。一時期は靴業界ではつくれるものがない、退屈だと思っていたけど、通販業界に行くことであふれんばかりのアイデアが生まれてきました。退屈だと思ったら次のステージにいけばいいと開き直ったら、そこから枯渇することはなくなりました。逆に、やりたいことがいっぱいあるんだけど、社長業をしないといけないことが一番嫌です。利益とか在庫みたいな話は、誰かに代わってほしいぐらいです。今年で47歳ですが、65歳までにもう一度全力でやってみたいですね。

山本 私も、学長をしていると、やりたい研究ができないということはあります。忙しい時に限って、そっちがしたくなったり。でも、こうして対話させてもらったりしていることが、きっと研究にも役立つだろうと思っています。高本さんは、何かアイデアを入れるためにやっていることはありますか。

高本 人に会ったり、本を読んだりすることは大きな刺激です。あと、僕が大事にしている感情が、ジェラシーです。それが生まれているときは、何か創造につながります。ジャンルが全く違うことでも嫉妬しますよ。長渕剛のコンサートで10万人が集まったのを見て、くそ、なぜ俺にはこれができなかったのか、とか(笑)。同じ業界なら、売上げが高い会社や、若手デザイナーに嫉妬したりもしますが、この感情は大事ですよ。逆に、僕に嫉妬している人とも話がしたいですね。もっと私もやらないとと、すごく刺激になります。もちろん、社長業も全然完璧ではないので勉強中です。

山本 社員のやる気を高めるためにやっていることってありますか。

高本 会社で隠し事をしないようにしています。私のスケジュールは全社員にわかるようにしているし、聞かれたことには全部答えます。会社もガラスの部屋ばかりなので、隠し事をしたい人は自然にいなくなります。というのは、何か隠しているなという人の話は入ってこないし、信用できませんよね、やっぱり。

山本 確かに、高本さんはカッコ悪いことも恥ずかしいところも、全部出しますよね。本当に裏表がない方だなあと感じます。私は、恥ずかしいところはなかなか出せないんですが(笑)。それでも、私が大学をよくするためにやろうとしているということは、なんとか学内の人たちも認めてくれているのかなと思っています。

高本 「長」のつく人は孤独だといいますよね。でも、長だから、ということではなく、誰でもそれぞれ孤独だと思います。孤独は仕方ないが、孤立はいけません。たとえば、私一人だけが悩みを抱えていると思って孤独を感じると、「ちょっと悩みを聞いてもらっていいかな」と社内の誰かに話かけにいくようにしているんです。

山本 弱みをさらしてしまうんですね。

高本 そんなふうなことを続けていると、「社長、こんなんありますよ」とか、「前から思っていたんですが、こっちの方がいいですよ」なんて、助言してくれることも増えてきました。長はすべて知っているように誤解されますが、実は知らないことがたくさんありますから。

山本 創発には多様性や個性を生かすことがとても重要だと思っています。だからこそ、一人ひとりの主義主張をできるだけ聞こうとしてきました。そのことが、無用の対立を防ぐと、最近わかってきました。「いつでも話せる、文句があったらいつでも言える」という環境がいい影響を与えるようです。

高本 いつでも話せると思うと、心理的な安定がもたらされそうですね。

山本 意見は聞くのですが、それについて突き詰めたり、答えを求めたりするようなことはしないようにしています。

高本 答えって、その時々で変わっていきますよね。時代の変化とか、会社で言うと経営状態や人員の変化で方向性が変わることもあります。うちの会社では、経営理念や私たちの存在価値を示すマニフェスト、やってはいけないことを示している原則といったものにてらして、ぶれていなければいい。

山本 私も、活力のある組織には柔軟さと寛容さが大事だと思っています。

高本 そうですね。対立している人同士、分かり合うことは難しいかもしれませんが、対話をし続けることで徐々に認め合ったり、尊重し合ったりはできると思うんですよね。

対話の大切さを語る山本学長

山本 組織のセクショナリズムについてはどうですか。リゲッタさんには、そんなのなさそうですけど。

高本 いやいや、経営は山あり谷ありです。各組織が排他的になったり、横につながったり、瞬間、瞬間で変化しますよ。売上げが一番上がっていた頃、ガチガチのセクショナリズムに陥っていたことがありました。初めて経験する売上げで、製品は間に合わない、不良品は多い、納期は遅れるといった失態が続き、互いに他部署のせいにして争いました。誰も楽しそうではありませんでした。それで、合宿をし、部署をシャッフルしてしゃべり合ったんです。すると、各部署の仕事の紹介をし合うだけでも会社がどう動いているかについて理解が深まり、協力し合わないとうまくいかないことがわかってきました。タイミングを見て、「お客さんって誰なんだろう。隣の人ではないのか?」と問いかけました。隣の人のおかげで仕事ができているのだから、まずはこの人を見よう。自分のお客さんをまっとうするために、隣の人をないがしろにはできないよねと。それで腹落ちし、部署間で助け合いや話し合いも起きるようになりました。

山本 本学の場合は、セクション間だけでなく教員と職員とか、学生と接する部署と大学経営の部署とか、いろいろな壁があります。まとまって動く機会をつくるようにできないかなと思っています。

高本 仕事で協力し合わないと絶対にできないような場面をつくることは大事ですよね。真面目な組織ほど、実益になる仕事で協働できる場を用意し、共通の目的を持てるようにすると関係性は深まると思います。

組織をまとめる力はとても重要
未来を一緒に見つめるために必要なこと

山本 少し、リーダー像についてもお話を聞かせてください。

高本 私には、長尾彰さんというファシリテーションの師匠がいるのですが、彼に聞いてはっとしたのは「落とし物をしないリーダーは完璧すぎて周りがしんどい」ということです。やりたいことがいっぱいあって、両手に持っているものをぽろぽろこぼすから、周囲が落とし物を拾ってくれているうちにチームになると気づいたんです。チームをつくるより、自然にチームになるんですね。

山本 なるほど。私も、長尾さんの『完璧なリーダーはもういらない』という本を読んで非常に共感しました。高本さんと私では、背負っているものが違うから比較はできないですが、高本さんには、様々なことを経験し、大きな山を越えてきた分だけ滲み出る何か、たとえば頼りがいのようなものがあると感じています。私は学長経験も浅く、そこを何かで補わなければならないと思ってきました。人と違うことを考える発想、諦めずに実現に向けて物事をまとめる粘り、対立を生まない柔軟さや寛容さ、といった部分では人に負けないようにしようと努力してきました。3年半を経て、そういう自分のリーダーとしての持ち味をさらに活かしていければと思っています。

高本 日本では、リーダーは引っ張る人、という印象が強いですが、あの人がいるたけで組織がむちゃくちゃうまくいく、というリーダーもたくさんいるんですよね。

山本 この3年半で種は一応まけたので、残りの2年半で収穫できるよう成長させなければなりません。それが、創発の雰囲気をつくることかなと思っているんです。創発を定着させるには、月日が必要でしょうから。最近になって、トップが変われば組織は変わるんだなと思えるようになりました。体質はそうそう変わらないにしても、何か影響を与えるんだなと。

高本 それは絶対そうだと思います。3年だと短いなと思っていたので、山本さんが2期目も学長を務められると聞いて安心しました。

ときには真面目に、ときには笑顔で話し合う高本さんと山本学長

山本 今、組織の課題だと思っていることはありますか。

高本 うちの会社はサプライチェーンになっていて、製造して卸すだけでなく、販売もやっています。多くの靴メーカーは、展示会に出して卸先のバイヤーの評価を得て採用されたら製品化できるのですが、うちは、つくったものをいつでも自分たちの意志で販売することができます。だからこそ、売れるから何をつくってもいいわけではなく、理念に基づいてエンドユーザーのことを考えなければいけないんです。その徹底のために、ルールをもう少し煮詰めないといけないなと思っています。

山本 ブランドのコンセプトから逸脱するようなものになってはいけない、ということですね。

高本 ええ。でも、どうしてもつくりたいものがある、自分たちのブランド立ち上げたい、と言うのは大歓迎です。それがうちの理念に通じるのならどうぞやってくれと言いたいです。経営者にとっては、そうしてスタッフが育って人の役に立ち、売上げが上がり会社がよくなることは、何ものにも代えがたいうれしさですよね。

山本 それこそ、創発ですね。高本さんご自身は、プレイングマネジャーとしてものづくりはしないのですか。

高本 どうしてもつくりたいと思えばやります。この前、ペットボトルを再生した素材でつくる靴のブランドを立ち上げたときは、どうしても自分でやりたくてやりました。でも、僕一人ではものは売れません。このブランドを生かすにはどの展示会に出たらいいか考えてというような感じで、スタッフに多くの部分を委ねています。私の10歳ぐらい年下の社員たちが全力で会社を回している姿を見るのが、今楽しみにしていることです。

山本 やはり、会社の未来は大きな関心事の一つなのですね。

高本 そうですね。今のテーマは、新人の育成です。会社は若い人たちがどんどん変えていかないといけないから、採用は10年後の投資だと考えています。クラブチームみたいになりたいですね。狭き門だが、あの会社で働きたいという人が入ってきて活躍していくという。今後を考えると、20代から70代まで多様な世代に活躍の場があるというような会社をつくり、世代が循環していけばと思います。

山本 長期のスパンで考えられる思考はとても大事ですよね。私の研究テーマの一つに伝統工芸品がありますが、歴史ある老舗企業は50年、100年先を考えながら、今できることに取り組んでおり、それが時代の変化に柔軟に対応できる力となっています。大学も20年ぐらい先を考えて行動しないといけないし、それをみんなが理解することが重要です。

高本 ビジョンの説明を続けていくことで、今わからなくても、何年か先にはわかるようになると思うんですね。

山本 確かに、説明が重要ですね。遠くのことですけど、それを十分に理解できる形にして見せてあげ、不安やもやもやを解消させることがリーダーの仕事でもあるんだと思います。今日は、本当に貴重なお話をありがとうございました。