座談会

今求められているメンタルヘルスケアとは。学生の充実したキャンパスライフをどう支えるのか。(前編)

100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は、学生のメンタルヘルスとその対応へのヒントをテーマに、日頃、学生のメンタルヘルスや幅広い生活支援を担当する職員と、ゼミなどを通じて学生と距離の近い関係を築く若手教員が学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。前編では、コロナ禍の影響も含め、学生のメンタルに今何が起こっているのかについて、様々な側面から語り合いました。
※本記事の内容は2022年2月に取材したものになります

大学運営・組織ビジョン

居心地の良い学びの場を形成する

空間・制度の面から、学びを誘発するキャンパスをデザイン。
教職員の能力を発揮できる組織運営を行い、ビジョン実現の土台を形作ります。

今回の参加者

学長

山本 俊一郎さん

埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。地場産業の活性化策、生き残り戦略を研究。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。

情報社会学部

苫米地 なつ帆さん

情報社会学部准教授。専門は計量社会学。社会階層と家族構成との関係、親子関係や夫婦関係などに関わるテーマについて、社会調査データを使って研究している。

人間科学部

團 康晃さん

人間科学部講師。社会学の中でも、文化社会学、社会調査を専門に研究。メディア環境とコミュケーションの関わり、趣味や遊びの実践などを主なテーマにしている。

学生部

斉藤 裕士さん

学生部長。奨学金をはじめとする生活サポート、メンタルヘルスなど幅広い相談、クラブ・サークルなど課外活動の推進など、学生生活全般を支援する部門をマネジメントする。

保健室

米山 佳代さん

学生部保健室に養護教諭として勤務。学校医、看護師とともに、学生の健康管理と相談に従事している。

学生相談室

増田 千景さん

学生相談室カウンセラー、人間科学部非常勤講師。公認心理師、臨床心理士、特別支援教育士。学生のカウンセリングのほか、保護者の相談、教員のコンサルテーションも行う。

「自宅生は、家庭の状況による影響を受けやすい面がある」團 康晃さん

——学生と関わっておられるそれぞれの立場から、大経大生のメンタルヘルスについて気づいたことをお話しください。

米山さん 保健室は、日勤帯は看護師と養護教諭、夜間帯は非常勤の看護師が勤務、月に一度各専門分野の学校医4名が来学し、診察などの業務にあたっています。最近、保健室を訪れる学生に目立つ傾向としては、コロナ禍によってリモート授業から対面授業に変わったことで、対応しきれていない様子が見られることですね。対面授業に出ようと登学したけれど、身体症状として過呼吸や吐き気などがあり、保健室を緊急避難場所として利用し休養する、といった学生が増えています。また、学生相談室と保健室が一緒に見守っている学生が保健室に来ることもよくあります。

増田さん 学生相談室は、カウンセラー3人で業務を分担しながら学生からの様々な相談を受け付けています。保健室と連携するケースは多いですね。

斉藤さん ここ最近、連携して対応することが多くなっていますね。学校医の精神科の先生に入っていただいて、情報共有や対応の協議をしたり、学生相談室と保健室で一緒にイベントも行っています。メンタルの不調を訴えている学生に対して、グループワークなどを行うサポートプログラムも実施しました。

学長 学生に接しておられて、大経大の学生に共通の特徴みたいなものを感じられることはありますか。

米山さん 高校の保健室にも勤務していましたが、高校では女子生徒の方がメンタル面の話をしに来ます。男子の場合、メンタルな悩みを言語化せずにもやもやして、身体に出るケースが多いように思います。大経大では男子の比率が多いので、そういった男子学生もいる反面、大学生になって少しずつ言語化できるようになり学生相談室に来る男子学生も多いように思います。

増田さん やはり、大学生になると言葉にできるようになり、高校時代とは違ってきます。ただ、全般的に、今の学生は自分の悩みを誰かに話すことに抵抗があるようです。話すことでどう見られるか、どう思われるかを考えてしまい、それが強い抵抗になるようで、本当に仲のいい友達や親に対しても悩みなどネガティブなことを話せない傾向はあるようです。カウンセリングの過程で、身近な友達や親に話してみると意外と受け止めてくれることがわかり、そこから変わっていくケースもあります。大経大の傾向としては、私は16年ぐらいここの学生相談室に勤務していますので、その間の変化は少し感じますね。入職した頃は、悩みを言語化できる学生が多くカウンセリングできるケースが多かったと思います。その後、言葉にできない人や本人でなく周囲が悩むケースが増えましたが、最近になってまた、言葉にできる学生さんが増えてきたという印象を持っています。

團さん 大経大というより、関西の私大に共通の特徴かもしれませんが、7割、8割弱が自宅から通学していますよね。一人暮らしの学生は、クラブ・サークル活動やアルバイトが生活の中心になりがちですが、大経大では家を起点に活動してちゃんと家に帰ったり、家庭の事情でアルバイトをセーブしている学生もいました。家庭の状況が、学生の状態により影響を与えることも考えられそうです。

斉藤さん 確かに自宅通学生が多いのは関西の私立大の特徴で、その中で言えば、大経大の4人に3人が自宅通学というのは、それでも他学に比べると少ない方です。

團さん 調査では、大経大生の平均通学時間は62分でした。通学時間の長い学生では、1時間半とか2時間かけて通っていますね。コロナ禍では、電車に乗ることへの抵抗感が、祖父母たちと一緒に住んでいたりすると特に強く感じられることもあったのではないでしょうか。

斉藤さん 一般的な特徴として、遠距離通学の学生は地元の友だちとのつながりが強く、近場や一人暮らしの学生は大学の中の友だちが多いと言えます。地元で人間関係を築けていても、学内での人間関係を構築できていないと、距離の遠さや学修が上手くいかないといった理由で大学から足が遠のき、メンタルにかなりの影響が出てくるケースもあります。保健室や学生相談室で気づくだけでなく、教務の学修支援担当部署が気づく場合もあります。奨学金を受けている場合は、それがプレッシャーにもなりやすいんですね。ストレートで卒業できないことが決まると同時に、奨学金の支給が止まりますから。

「コロナ禍でつながりがつくれない学生がいる」米山 佳代さん

——コロナ禍で大学に来る機会が減ったことは、メンタルにも影響があったと思います。どんなところに問題があると感じておられますか。

團さん コロナ禍では、大経大に限らず、一人暮らしの学生が孤立化するという問題が起こりました。居場所づくりにとって非常に重要なクラブ・サークル活動ができなくなって、特に今の1年生や2年生は、大学内でのネットワークができていないのではないかと心配しています。

学長 そもそも、コロナ禍前でも、ゼミの後にすっと帰ってしまう学生が多かったですしね。

團さん 大学でできる交遊の機会が減り、これまではできていたことができなくなっています。今の1、2年生が3年生になった時、学生同士のコミュニケーションのあり方はどうなっていくのか気になります。うちのゼミでは、オンライン会議システムを使って皆でゲームをしよう、と学生が提案してくれたので、僕も一緒に参加したりしていました。オンラインでも、何かつながれたらいいかなと思って。

斉藤さん 今年、スポーツ系も文化系も休部になるところがあります。クラブの加入率もどんどん減り、サークルも活動停止のところがたくさんあります。集まっても少人数で、たくさんの人数が集まって大騒ぎとかはできません。

増田さん それに関連して、コロナ禍では、普通なら学生相談に来ないような、社会性もそれなりに高い学生が相談に来るケースが増えました。友だちができない、大学が面白くないという相談です。そういう学生は、ゆくゆくは適応していくケースも多く、長期間のカウンセリングにならないことも多いのですが。これまでなら、恥ずかしいとか人とつながることに抵抗がある学生も、クラブ・サークルの新入生歓迎イベントでお祭りのような雰囲気に後押しされて、自然とつながっていけたりしたでしょう。コロナ禍でそのような機会がなくなり、意識的に関わらないとつながれない、待っていてもチャンスがない、というのがあるようです。友だちと会う機会がないから、雑談ができないという学生もいました。わざわざ呼び出してまでするような相談でもないので、学生相談室に来たというんです。

米山さん 下宿などで一人きりで過ごす日々が続き、いたたまれなくなって誰か人がいるところにいたい、と保健室に来て休んで帰ったケースもありました。やはり、つながりがつくれない学生がいるというのは、すごく感じます。

学長 それがないと輪に入れない、入らない学生は、背中を押してくれる機会を失っているわけですね。

「今の2年生は、キャンパスライフの喪失感がより大きい」増田 千景さん

——コロナ禍の影響は大きいということですね。先ほど少しお話にも出ましたが、授業のスタイルが変わったことによる変化については、いかがでしょうか。

増田さん 米山さんの話にもありましたが、オンライン授業から対面授業への切り替えが大きな変化で、そこで苦労した学生がいます。もともと自律神経が整いにくいような起立性調節障害の人だと、朝起きられなくて対面授業に行けなくなり、一回行けないと、もう行けなくなるというようなケースがあります。また、人に見られる、大勢の中に入っていくことに強い抵抗がある学生は、対面授業が開始されて行けなくなり、単位が取れないという相談もあります。対面授業が始まった2021年の10月中旬以降、学生相談はとても忙しくなりました。それほど、オンラインから対面への変化が大きかったのだろうと思います。

斉藤さん それ以降、相談件数が増えたまま、変わりませんからね。いつも枠がいっぱいで、新規の学生がなかなか相談できないような状況です。

團さん 学生生活実態調査を見ると、オンライン授業が始まってからの授業に対する満足度がアップしているんです。これまで、物理的に顔を合わせるのが苦手としていた子にとっては、コロナ禍でよかったこともあるのではないでしょうか。

苫米地さん 資料を事前にKVCにアップロードしているのですが、対面授業でもきちんと資料を自分のデバイスに入れ、それを手元で見ながら授業を受ける学生も出てきています。オンライン授業を経験したことで、自分でやりやすい学修スタイルを見つけられた学生もいるようです。

團さん ただ、オンライン授業になって以来、昼間はネットで自分の好きな動画を見たり、ゲームをしてしまい、そのあと夜中に授業動画を見て課題をこなすようになった結果、睡眠時間が減ってしまった学生もいました。生活リズムが乱れて、期末試験の時期はとてもしんどそうでした。

学長 コロナ禍の影響という意味では、今の2年生と1年生とでは差があるんじゃないでしょうか。

米山さん 今の2年生が1年生の頃は、入学直後、ほとんど大学に来られなかったですよね。

増田さん 今の1年生は、ある程度コロナ禍に慣れたうえで入学しているので、衝撃としてもちょっと違うと思いますね。2年生は、入学時点で混乱して大学に行けないとなったので、衝撃はより大きく、キャンパスライフの喪失感が大きかったでしょう。大学生活にどう適応していくか、1年間かけて寄り添い、ずっと悩みを聞いてきた学生はいます。友だちができない孤独感も、今の2年生の方が大きい感じがします。

米山さん 新人歓迎会もクラブ勧誘も、すべての行事がありませんでしたからね。

増田さん そう、大学生活への憧れとか幻想だけが残っている状況でした。いざ大学生活が始まってみると、その幻想と現実とのギャップがあまりにも大きくて、もやもやを含めた心理的な葛藤が出てきたのだと思います。

團さん 学習面でも、1年目は、課題の負担がかなり大きかったでしょう。これまで2年生のゼミでは、フィールドワークの練習として、「ゴールデンウィークに何をしたかを精緻に書きなさい」という課題を与えています。今の2年生が1年生の時は、そもそもゴールデンウィークの翌週からの授業開始になり、その直後の生活について記述してもらいましたが、とにかく急激な環境の変化の中で必死に課題をこなしている様子が描かれていました。一方、今年の2年生は、みんな自分なりに楽しみ方を見出しているという感じがして、そこはずいぶん違うなと思います。

増田さん 課題がすごく多くてバーンアウトして、こなせないと相談に来る学生もいましたね。教員も慣れていなくて、少しパニックになっているような状態でしたし。

苫米地さん 最初の年は、授業は動画や資料ばかりだし、思っていた大学と全然違うという感想をよく聞きました。

斉藤さん 上級生からも、早く対面授業が始まってほしい、という声をよく聞きました。対面授業だと90分出席していれば何とかなるが、授業もしっかりあってその後、課題も出されるから、就職活動との両立が大変だと言っていました。

学長 これを機に、自宅学習の習慣がつかないかと思ったこともありました。それまで、予習復習の時間が足りなかった、という側面もありますから。

苫米地さん 家で勉強する習慣は、少しは身についたのではないでしょうか。

学長 この2年でいろいろスキルが身についた面はあるでしょう。動画は倍速で見るとか、要領のよい勉強の仕方ですよね。その意味では、オンラインの導入によって、教育も変わってきていると言えるかもしれません。

「『0か1か』という考え方をする学生が増えている」斉藤 裕士さん

——それでは、メンタルヘルスの背景を考えるという意味で、大経大生やそのキャンパスライフの特徴といったものについてもご意見をうかがえればと思います。

学長 大経大の学生像として、真面目で実直、コツコツと積み上げる、地味だけど素直といったイメージがあります。実際、学生と関わっておられて、みなさんはどう感じておられますか。

斉藤さん 窓口で対応している職員の話を聞く限りでは、明らかに以前より大人しくなっていると感じます。私は学生部に7年間勤務していますが、以前は、窓口で語気荒く、自分の意見を押し通したりする感じの学生もいました。

増田さん 300人ぐらいの大人数の授業だと、以前は、私語が多くて収拾がつかなくなることもありましたが、最近は、といってもコロナ前ですが、静かに授業を聞いてくれています。

團さん 他大学で非常勤講師をされている先生から、大経大の学生は、大講義でも静かに聞いてくれるから授業がやりやすいとよく聞きました。

苫米地さん たまに、スマホを見ている学生がいますね。すぐに注意しますが。

学長 ファッションが変わったという気もします。おしゃれになりましたね。以前は、ジャージやスウェットで来る学生もいましたが、今はあまり見かけなくなりました。

斉藤さん うちの学生だけでなく、全体的な若い人の傾向かもしれません。私の勝手な印象ですが、ネット通販が浸透して、全国どこでも同じものが手に入るようになって、地域の個性がなくなってきたのもあるのかなと思ったりします。いろいろな層がいたのが、平均的なところに集約されてしまったような感じでしょうか。

團さん ファストファッション化が進んで、あまりお金をかけなくても、おしゃれにできるようになったというのもあるかもしれません。

学長 服装も含めて、やんちゃな感じの学生は少なくなっていますね。

増田さん 大人しくなりました。

米山さん エネルギーが少なくなってきたとも言えるのでしょうか。

学長 発散できていないのかもしれません。とくに今はコロナ禍ですし。それと、建物も関係あるのではないかと少し思います。校舎が建て替わり、がちっときれいになってから、大人しくなったという印象があります。

斉藤さん ここ10年ぐらい、受験生の大学を選ぶポイントが、「建物がきれい」と「通いやすい」になっていますからね。キャンパスの雰囲気の影響も、確かにあるかもしれません。

学長 僕は最近、もう少し「キャンパスが雑然としてもいい」と言い始めているんです。学生がつくったポスターなどがたくさん貼ってあることで、大学の色や自由にエネルギーを発散できるような雰囲気をつくり出している面もあります。今のキャンパスは、少しきれいすぎて、学生が発散できる雰囲気ではないのではないでしょうか。

斉藤さん 発散できる、できない、ということに関係するかもしれないのですが、コロナ禍の少し以前から感じているのは、0か1かしかないような考え方をする人が増えたということです。学生というより、世の中全般の傾向かもしれないのですが。例えば、「それは成功なのか失敗なのか」とか「損か得か」とか、どっちかに偏った反応が増えました。こういう傾向は、中高時代のキャリア教育にも関係していると思います。「何になりたいのか」「それなら、どこそこの学校に進学すればよい」というようなことをずっと言われているから、そこに行けなかったら失敗と考えてしまう面があるのかもしれません。真面目な学生ほど、心が折れてしまいがちです。実際は、大学に入ってアルバイトやクラブ・サークル、一人暮らしなどいろんなことを体験して見える世界が変わってくるので、その新たな世界で面白いものに挑戦すればいいのですが、そういう転換ができない学生もいます。

学長 近年、大経大には、上位校をめざしていたのに入れなかった、いわゆる不本意入学者が増えていると言われています。そのキャリア教育の話は、不本意入学の学生に如実に出ているのかもしれないですね。レールから逸れた、思ったのと違うというようなことで、適応できないケースがありそうです。

團さん 「〇〇大を落ちたから来た」というようなことを、口に出すことに抵抗のない学生はいますね。

学長 全体的に学力が上がってきているという変化の中で、不本意入学者に限らず、やる気を失ったり、モチベーションを上げられないというような様子に注意をしていく必要がありますね。

「学内でのネットワークをつくれる場づくりが重要」苫米地 なつ帆さん

——斉藤さんがおっしゃったような、新しい世界で挑戦する気持ちを抱かせるために必要なものについて、お考えをお聞かせください。

斉藤さん 学生の受け止め方は、入学してみてどうだったかによって変わると思います。最初は極めて不満だった層が、最終的に希望の就職先、進路につながれば、「ここへ来てよかった」とひっくり返ります。もちろん、逆に、就職がうまくいかないと「こんなところに来るんじゃなかった」となることもあります。最初の不満な気持ちをどう切り替えられるか、いかに前向きな気持ちを持てるかどうかが重要です。

苫米地さん 目的ははっきりしていないが、何かしら資格が取れるかな、というようなモチベーションで入学した学生たちにも、大学が楽しい、プラスになったと感じることをより多くしてあげたいと思います。それには、学内の友人関係、人間関係、ネットワークの部分が大事で、気の合う友だちに出会えれば、授業に出るのもゼミ活動も楽しくなって、それだけで単位が取りやすくなります。就職活動においても、そのようなネットワークが情報収集などの面で効いてきますし、いい影響を与えるでしょう。その意味で、オンライン授業ばかりになって、そのような良いサイクルができるのかどうか心配しています。大学にコミットする要因が減って、ネットワークづくりがなかなかできない学生も多くなっているかもしれません。

学長 就職の時にどうなるかですよね。

苫米地さん そうなんです。対面授業が始まって、ゼミでも、「今まで、友だちをつくる機会がなかったから、ゼミのみんなと仲良くなれたらうれしい」といった発言が聞かれます。何かしら短期勝負で、ネットワークをうまくつくらせてあげられればと思います。

斉藤さん それは、学生の居場所ということにもなると思うのですが、確かにコロナ禍以降、学生は居場所を求めているようです。関西圏の大学の学生部担当者によるオンライン会議では、今まで大学祭実行委員が全く集まらなかったのに、昨年は募集したらすぐに埋まった、という話を聞きました。みんな居場所を探しているので、何か仕掛けがあれば変わるとおっしゃっていました。大経大では、これまでクラブの芸術会本部が中心になって大学祭実行委員をやってきましたが、コロナ禍で活動を休止するクラブが増えたため、この春から学内の一般公募で実行委員を集めることになりました。ふたをあけてみてどう動くのか、注目しています。

増田さん ある程度エネルギーのある学生なら、機会があれば何かやってみたいと思う人も多いでしょう。それは焦りの表れでもあると思います。就職活動の中でアピールしたいから、学生生活の中で何か残したいという焦りもありそうです。

苫米地さん 「がくちか(学生時代に力を入れたこと)」ですね。ゼミの学生からもよく聞きます。

学長 今こそ、ゼミが大事ですね。大学でのつながりということになると、ゼミは大きな要素でしょう。

團さん カリキュラムに入っているので、自然に参加しやすいですしね。

斉藤さん 自発性がなくても参加しやすいですね。

團さん コロナ禍のため、対面でのコミュニケーションの量は減り、人間関係を築く機会を逃した学生も少なくないように思います。特に、入学時に一番混乱していた時期が重なった2年生は、例年より所属が少ないように思います。何か関係をつくるきっかけになる仕掛けを提供することは意味があるのかもしれません。

学長 昨年の夏、社会連携の部署で夏休みプログラム「夏学」を企画・運営してもらいました。企業や包括連携協定を締結している地域にご協力いただき、課題解決型のプロジェクトをいくつか行いましたが、多くの学生が参加してくれました。やはり受け皿を用意してあげることが必要なのかもしれません。

苫米地さん 学生にチャンスを提供できるので、出来る限り仕掛けをつくってあげられたらいいと思います。やはり、この大学でよかった、と思える何かを見つけてほしい。大学の人たちと交流する何かを持ってもらえると、「この大学に入ってよかった」につながると思います。

團さん 先ほど斉藤さんがおっしゃった「0か1か」ではありませんが、人は、いろんなところに所属したり、いろんな機会を持つことで、「これはだめでもあれがある」という感じでうまく対応していける面があります。そのような選択肢を増やせることが大事です。

学長 少し、高校の延長のようになっているのかもしれません。授業も高校と同じような感じで受けているのでしょうか。

團さん それはコロナ禍前から感じています。高校生のようだと思うことが時々ありました。

増田さん 授業の形式も、高校時代のようなものを求めていますね。それは、どこの大学でもそういう傾向があるようです。

苫米地さん 授業アンケートを見ていると、詳しい資料は評判良いですね。穴埋めするような教材をつくってほしいとも言われます。

團さん 「自分でノートをとろう」と言うと、すごく嫌がられたことがあります。ノートのとり方がわからない学生もいるようです。

学長 「どこが大切なのか教えてください」とよく言われますね。

増田さん 大事なポイントがわからないのでしょう。講師がしゃべるだけの授業だと、学生が重要な部分だけを書き取るということができなくなっているようです。

斉藤さん 生活面でも、昔に比べて、弁当を持ってくる子が多くなっていますね。それも高校に近いと言えるのかもしれません。親がつくってくれているのなら、なおさら高校の延長です。一人暮らしでもしない限り、大学に入っても、生活面での大きな変化がないのです。

團さん さっきの自宅通学とも関連すると思いますが、コロナ禍以前、赴任したばかりの頃、5限が終わってすぐ帰る学生が多いなと思いました。1、2年次は授業が詰まっていることが多いので、休み時間にたむろする時間がそもそもなかったりします。そうすると、いつ友だちとだらだらできるのかということですよね。私の大学時代の経験で言うと、クラブやサークルとか、一人暮らしで家が近いから、ずっとだらだらキャンパスにいる学生がいたし、そういう空間もありました。大経大には、そういうたむろするような時間も空間も実はあまりないなと思います。コロナ禍以前もそうでしたが、コロナ禍によってよりはっきりしてきたと言えるかもしれません。

——メンタルヘルスケアやその背景とも言える現代の学生気質について、様々な方向から考えてみることができました。後編では、現状を踏まえて、学生のメンタルヘルスをどう支援していくべきかを話し合います。


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