創発レポート

浅田ゼミに聞く―地域のために大経大だからできることを追いかける。「福学地域連携プロジェクト」(前編)

福祉事業所と大学との連携によって実現した「くすのきエール・マルシェ」

これからの大阪経済大学を考えるうえでの重要なキーワード「創発」。本記事では、たくさんの人を巻き込み創発を実践する教職員や学生と学長との対話から、大阪経済大学の創発とは何か、より創発が起こりやすい大学になるため必要なことを明らかにしていきます。
今回のテーマは、情報社会学部・浅田拓史准教授と浅田ゼミの学生が取り組んでいる「福学地域連携プロジェクト」。「障がい者福祉」と「大学」のパートナーシップをめざすユニークな活動です。学内はもちろん学外の様々な人々とつながりながら、レンジの広い活動に進展していく可能性を秘めています。浅田准教授をはじめプロジェクトに関わる方々をお招きして、学長がお話をうかがいました。その内容を前後編に分けてお伝えします。前編では、活動がスタートした経緯と、最初の取り組みとして現在も継続的に行われている「くすのきエール・マルシェ」をテーマにお届けします。

お話を伺った方

浅田 拓史さん

情報社会学部准教授。専門は管理会計。創造性を高めイノベーションにつながるような組織管理のあり方に関心を持っている。

内橋 洋喜さん

情報社会学部情報社会学科情報コミュニケーションコース4年生。浅田ゼミを引っ張る頼りになるリーダー。

若岡 聡子さん

中小企業診断士。本学の中小企業診断士登録養成課程修了生。本プロジェクトにアドバイザーとして参加。

木村 優介さん

大阪市東淀川区にある就労継続支援B型事業所「ミシン工房 道の空」を運営する株式会社道代表代理。「福祉事業所としての新たな取り組み」と本プロジェクトに期待を寄せる。

ブレークスルーから始まったプロジェクト

学長 私は、様々なものが組み合わさって何かが生み出されたり、活性化したりするというのが創発の一つの姿だと思っているのですが、「福学地域連携プロジェクト」はその典型ではないかと感じています。そもそもどのような経緯で、始まったプロジェクトなのでしょうか。

浅田 うちのゼミでは「創業体験」と言って、学生がチームに分かれて大樟祭(大学祭)に3日間模擬店を出店し、利益を競う取り組みを行ってきました。事業計画を立て、毎日終わったら振り返りをして行動修正をする、つまりPDCAサイクルを実践してもらうのです。どんな事業でもいいのですが、やはり学祭の模擬店ですから、ほぼ全チームが飲食の店を出店します。事業資金は僕やOBが貸し、本当のビジネスと同じように利息を取る仕組みにしていますが、この利息を引いても1人当たり15,000円程度の利益が出るという、なかなか優秀な実績を上げてくれています。ちなみに利息は、私が大経大を辞めるときにゼミの大同窓会をやろうと、代々プールしているんですよ(笑)。

内橋 2年生のゼミ選択の際にこの創業体験の話を聞いてぜひやりたいと思い、浅田ゼミに入りました。でも、コロナ禍で大学にも行けなくなりました。オンラインの夏期集中講義で創業体験の準備として事業計画を立てるまでは行ったのですが、肝心の大学祭がオンライン化されたことで出店ができなくなりました。とても残念でしたが、3年になると浅田先生から「創業体験はやります。コロナ禍でもできることをみんなで考えてみよう」という提案があり、希望が出てきました。飲食以外で販売するとしたら東淀川区らしいものがいいと考え、ネットで地場産業を調べてみたのですが出てきません。そこで、区役所に聞きに行きました。

学長 おお。行動力がありますねえ。企画書とか持って行ったんですか。

内橋 いえ、もちろんアポイントは取って行きましたが、手ぶらでした。「東淀川ではこんなのが地場産業だよ」とか簡単に教えていただけるものと思っていたんです。そうしたら、いつ、どんな形で店を出すのか、来場者はどのくらい見込めるのかとかいろいろ聞かれました。地場の企業さんにつなぐこともできないことはないようでしたが、学生向けの商品をつくっていないところも多いし、僕たちに実績がないこともネックのようでした。浅田先生に相談すると、相手にメリットを提示しないと話に乗ろうとは思わないと言われ、考えが甘かったことを痛感しました。

学長 いや、その学びがいいんですよ(笑)。

座談会風景。左から、浅田先生、若岡さん、山本学長、内橋さん、木村さん

内橋 先生からは、福祉系や農業との連携を考えてみたらどうかというヒントをいただきました。特に障がいをもつ方がつくった商品を販売し就労を支援している事業所がコロナ禍で販売機会を失っていることを知り、興味を持ちました。調べてみると、月に2回区役所内で販売会をしているとわかり、早速見に行きました。その印象が、販売会とは言いつつ殺風景な感じで自分の想像とずいぶん違っていたんです。もし大学のキャンパスで販売会ができたら、もっといろんな売り方を考えることができそうだし、僕たちにもお手伝いできることがあるのではないかと感じました。それで、区役所内で販売している事業者さん全部に声をかけてみたところ、みなさん「それは面白いね」と言ってくださり、手応えを感じました。

学長 見に行って話もしてくるとはすごいですね。すでに一歩踏み出しています。

内橋 実績がないので認めてもらえないかもしれないとは思いながら、やはり大学のゼミの活動なので、思い切ってやってみよう、という気持ちでしたね。それと、コロナ禍で何もできなかったので、「できない」では終わらせたくなかったんです。それまでずっと先輩たちが飲食の模擬店をやってきて、コロナ禍でそれができなくなった今だからこそ新しいことができるというわくわくした気持ちもありました。

浅田 ゼミでは他のチームも何を売るか考えていたのですが、早い時期に、内橋くんたちが5つの事業所と連絡を取って話をつけてきてくれました。それで、内橋班の一人ひとりをリーダーにしてゼミ全体を5つの班に組み替え、全員で取りかかることにしました。

学長 いよいよスタートですね。どういうコンセプトを立てたのでしょうか。

内橋 浅田先生から、福祉事業所でつくって販売されている商品は薄利多売で、安いから売れているため、工賃を上げることにつながらない、という課題があることを学びました。せっかくハンドメイドで良い品質のものをつくっているのに、「安いから買われている」のはおかしい。その現状を変えて工賃を上げるために、付加価値をつけて適切な価格で買ってもらえるようにすることをテーマにしました。そういう方向で資料をつくり、浅田先生にも同行してもらって事業所さんを訪問しました。事業所さんにこちらの意図を伝えると同時に、それぞれ何をどう販売したらいいのかプランを立てるために、お話をお聞きしたり商品を見せてもらったりしました。

学長 木村さんは、「ミシン工房 道の空」を運営していらっしゃって、今回のプロジェクトにも参画してくださっています。本学の学生から連絡があってプロジェクトに参加いただいたと思いますが、最初の印象などお聞かせください。

木村 学生さんの印象は良かったですね。最初はメールでしたが、文面から概要は伝わりましたし丁寧でした。返信するとすぐ返事が返ってくるなど、目に見えにくいところですが、やり取りをしながら信頼できるなと感じました。プロジェクト自体は、率直に面白いなと思いました。自分たちの商品を外から評価してもらい、どのように付加価値をつけていったらいいのか若い人の感覚で売り方を考えてもらえるというのは貴重なチャンスだと感じましたね。

和やかな雰囲気のなかで話し合う、内橋さんと木村さん

本学から巣立った中小企業診断士が協力

学長 付加価値をどう付けていくかを考えるには、内橋くんたちも学びが必要だと思うのですが。

浅田 ええ、それで若岡さんに依頼したんです。中小企業診断士登録養成課程を修了した診断士はたくさんいますが、それぞれに得意分野があります。小さな事業をスタートアップから育てる時には、問題点の洗い出しやその解決について、多少自分の専門から外れていてもきちんと焦点を捉えたアドバイスを行っていく必要があります。養成課程の授業を私も担当していて、その時に聞いた若岡さんのプレゼンの印象から、彼女ならやってくれるのではないかと思って声をかけたんです。また、もう一人、南良典さんというイベントを立ち上げるのが得意な診断士にも参加してもらいました。

浅田先生は、様々なかたちで学生たちを支えている

若岡 私が、農産物の生産から加工、販売まで手がけ、農産物の価値の向上を図っている事業者さんをテーマにプレゼンしたのを、浅田先生が覚えていてくださったんです。付加価値をつけるには、自分たちの商品の良さを理解し、それを消費者に価値として受け入れてもらえるよう伝えることが重要になります。このプロジェクトのお話を聞いて、事業者さんの商品の価値をどう伝えるかや、伝えるための環境について学生さんにアドバイスをしていくことが、私に期待されている役割なんだなと思いました。

内橋 そのころには、ゼミの2年生も参加しており彼らが探した事業所さんも含めて10事業所にまで増えていました。それぞれの班で、仕入額(売上原価)に運送費や販売費も勘定に入れながら販売価格を設定し、ターゲット層や販売方法について事業計画書にまとめました。収益を上げるためにどうしたらいいかまずは自分たちで考え、行き詰まったら若岡さんや南さんに相談してアドバイスをいただきました。また、若岡さんや東淀川区にある雑貨店のオーナーさんにも来ていただいて、製品の魅力を伝えるための接客法やディスプレイ、ラッピングなどの販売ノウハウを学びました。作り手の想いや製作の様子を伝えられるよう、各事業所の方にヒアリングをさせてもらったりもしました。それぞれの班で「価値あるものを相場に合わせてどう販売するか」という課題に応える販売法を工夫し、まずは2021年11月3日、4日に大学キャンパスで販売会「くすのきエール・マルシェ」を開くところまでこぎつけました。

若岡 私は最初に指導しただけなのですが、学生さんたちはそこから自分たちで工夫して、いろいろと発展させているんですよね。袋とガムテープと紐でショッピングバッグをつくっていたり、自分たちで考えて楽しくやっているのが伝わってきました。販売する人が楽しそうな売り場は、買いに行っても楽しい売り場です。ここには、売り手の自慢の商品があるんだなあと、一目でわかりますからね。

たくさんの人でにぎわう「くすのきエール・マルシェ」

事業所が増えることで課題が明確になった

浅田 ただ、最初の販売会は、赤字だったんだよね。

内橋 はい。何万円かの赤字が出ました。でも、12月1日、2日にやった2回目は、すごく売上がよかったです。

浅田 11月の販売会のデータを分析して、全チームで事業計画書をつくり直しました。PDCAですね。そうして改善を図りながら、ゼミの広報部隊が近隣の区役所や幼稚園、事業所を回ってチラシの設置を依頼するなど、地域の方々にも幅広く来場を呼びかける活動を行いました。そういう努力の成果だと思います。2回目のマルシェは、広報課からプレスリリースを出してもらい、それを見た事業所からも問い合わせがありました。現在、15~16事業所にまでお付き合いが広がっています。

学長 木村さんは、事業所が増えるのをどう思われましたか。

木村 当初は少し焦りや不安を感じていましたが、事業所と大学が地域で連携することを通じて互いの課題を解決することが取り組みの趣旨なので事業所が増えていくことは、当然と言えば当然ですよね。それに、いろんな事業所の商品や活動を見て刺激を受けたり、自分たちの課題がどこにあるのかが見えてきたりもします。私たちは、たまたま内橋さんから最初に声をかけてもらった事業所の一つですが、もし順番が逆だったら声がかからなかったかもしれません。せっかく声をかけてもらったのだから、もっと目を引く商品をつくるとか、売上を上げるとか自分たちのできることをやっていかないと、と思っています。

浅田 お菓子はどうしても重複してしまうことがありますが、それ以外の商品はなるべく重複は避けています。バリエーションが多いからこそお客さんに来てもらえるし、集客力が上がれば個々の事業者さんの売上も増えていくと思うんです。今後も、商品の種類を増やしていくことは大事ですね。

くすのきエール・マルシェで販売する、各事業所で制作した商品の数々

学長 マルシェはその後、4月の入学式や6月の教育懇談会に合わせて開催したり、学外へも広げて「かみしんプラザ」でも開催しているんですよね。(かみしんプラザ:大阪経済大学の近隣にあるショッピングセンター)

浅田 12月に行ったマルシェに、かみしんプラザの館長さんが来られていて、「うちでもやりませんか」とお誘いくださいました。今のところ、4カ月に1回というお話をいただいています。その間に学内で1回ぐらいやるのが、学生の学びにとってもちょうどいいペースかなと思っています。

内橋 僕としては、たとえば布製品なら、同じようなものをつくっているところが多いので、もう少し、何か新しい商品の提案ができるのではないかと思ったのですが、なかなか良いものが提案できていないのが残念ですね。

浅田 iPadケースとかいろいろ考えましたが、なかなか実現には至りませんでした。今後も考えていきたいテーマですね。それとは別に、企業の贈答用に何か企画できないかと思っているんです。納品日が確実に決まっているなら、生産計画を組んで確実に製造できるしロスも出ないので、ビジネスモデルとしてはかなり良いと思っています。たとえば、大経大とお付き合いのあるメーカーさんとかとコラボして新たな商品を開発する、といったことも考えられるかもしれません。

学長 なるほど、それはいいですね。このプロジェクトは、まさにマルシェのように、売り手や買い手やいろんな人が行き交い情報が集まって、出会いや対話の中から何かが生まれていく活動だと感じます。

若岡さんと山本学長

多くの人を巻き込んで学生の自主的な活動をサポートしていく様子が伝わってきました。後編では、「福学地域連携プロジェクト」のさらなる広がりと、このプロジェクトから見えてきた大阪経済大学らしい創発のかたちを考えます。


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