インタビュー

文系と工学系のハイブリッドな取り組みで、社会に出てからも伸びていける自信と基礎力を。

情報社会学部の中村健二先生が指導するゼミでは、ICTやAIなど最先端の情報技術を駆使し、近年ではデータサイエンスの分野にも研究範囲を広めています。2年次・3年次の中心的な取り組みとされているビジネスプランコンテストへの参加では、初めての参加から現在まで、10年間で56回受賞 (157人中132人:約84%)の受賞を達成するなど輝かしい実績を残しています。情報化社会を生き抜き、社会課題を解決できる人材の育成を目的とした中村ゼミは、厳しいことで知られる一方で、民間企業でキャリアを積んだ中村先生の指導により社会人としての素養を存分に身につけることも評判となっています。ビジネスプランコンテストへの取り組みを中心に、ゼミの運営や指導の方針を中村先生に伺いました。

お話を伺った方

中村 健二さん

大阪経済大学情報社会学部情報社会学科教授。関西大学総合情報学研究科修士課程修了。博士(情報学)。専門分野は土木情報学、知識情報学、社会システム工学・安全システムなど。平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(科学技術振興部門)受賞。

ICTの学びと結束力を深めるビジネスプランコンテストへの挑戦

中村ゼミは、ICTの技術を応用することでさまざまな社会課題を解決する糸口を見つけることを活動の目的とし、近年ではChatGPTのLLM(大規模言語モデル)を学生にカスタムさせるなど、文系・工学系、両方の側面を伸ばす取り組みを行っています。また、ゼミの大きな特徴として2年次・3年次の期間中に学生たちでグループを編成し、学外のビジネスプランコンテスト(以下、ビジプラ)に積極的に参加。ビジプラでの受賞を目指して研究を重ねることで課題を発見・解決するための能力を養っています。

「ビジプラへの出場は私のゼミで毎年行っている取り組みです。受賞の経歴は就職に役立つので当然それを目指しますが、現実問題として、どれだけ興味深いテーマを選んで頑張っても臨んだ結果を出せないときもあります。しかし、その場合でも自分がビジプラに参加して最新のICTを学んだ経験は確実に活きてきます。就職活動時のエントリーシートでも、学生たちは関関同立・産近甲龍には到底及ばないと考えがちですが、私のゼミでビジプラにしっかり取り組んでいたら、決してそれらに引けを取らないぐらい充実した内容を書くことができるでしょう」

ビジプラで取り扱うテーマは学生発案によるものという姿勢を一貫。これには中村先生が学生を成長させるための方法論が込められています。

「他の大学の場合、ビジプラで取り上げるテーマは先生の研究をベースにすることが多いのですが、それだと同じことの繰り返しでアイデアが枯渇するおそれがあります。当ゼミでビジプラに向けての取り組みとしてやっているのが、2年次の春学期に気の合う人とグループを組ませて最新のICTや社会における困りごとなどを調べて発表させるという課題。毎年だいたい3つのグループに100案ものビジネスプランを考えさせるのですが、どのチームも100の中の1つは面白そうなものを挙げてきてくれます。それを徹底的にブラッシュアップすることでビジプラでの賞の獲得に向けて動いていきます。近年では手話翻訳アプリや小規模農家の生産性向上に寄与するアプリを提案し、高い評価を獲得しました。ただ、学生の発想は自由な反面、調べる範囲が狭いというのが欠点。それを補うには海外の状況にも常に目を向けるようにということも伝えています」

ZEMI-1グランプリでの発表の様子

大学在学中からベンチャー企業に入社し、情報化社会の最前線で働いてきた中村先生は、教員となった現在もさまざまな企業と産学連携の取り組みを行っています。「民間にふれることで、初めてニーズがわかる」というモットーのもと、これらの企業にヒアリングを行い、民間の生の情報に触れることができるのも中村ゼミの特徴の一つです。

「近年のICTは技術発展の勢いが目覚ましく、学生たちには最新技術をどんどん取り入れて利用するように伝えており、同時にそれを使っている企業に話を聞きに行くようにも勧めています。インターネットの情報を鵜呑みにするのではなく、現場で使用している人たちの生の声を聞くことでエビデンスを強化させます。企業にいきなり送り込まれるので学生にとっては躊躇するように思われそうですが、『相手が学生なら優しくしてくれる。思い切ってなんでも質問してきなさい!』と送り出すと、意外と恐れず挑んでくれています」

発足から現在まで、中村ゼミの変遷

ビジプラでの受賞など数々の実績を築いてきた中村先生ですが、ゼミの発足から10年を経て、近年は学生たちの研究に取り組む姿勢に対して変化も感じています。

「近年はコロナ禍の影響もありますが、人と人との関係が密ではなくなってきていますね。グループで意見を交わして課題に取り組んでほしいと思っても、お互いに遠慮しあって深い関係にまで踏み込めない人や、『一生懸命やっているのに認めてもらえない…』と独りよがりになってしまう人も多い。そういった状況を崩すことが今の自分にとって大きな課題となっています。ビジプラの申請書を作るにしても簡単にまとめただけのものを持ってくることが多いので、グループ内で本当に喧嘩するぐらい熱く議論して、しっかり精査するようにとは伝えています」

意見の異なる学生たちをまとめ、ゼミを活性化させるには、グループ内の人間関係を円滑にすることが最優先。個々の才能を見抜き、適材適所に振り分けできる人材がリーダーとして求められます。

「学生の中には、『他の人に任せたら自分の思う通りにならないので、結局自分が全部やってしまう』という人もいますが、これはプロジェクトマネジメントとして一番やってはいけないこと。リーダーだけが独りで全部やって賞を取れることもありますが、それはもうグループの意味を成さないし、そのような人は大きなプロジェクトには絶対に携われません。プロジェクトをスムーズに進めるには、やはりリーダーシップを発揮して他のメンバーを動かし、作業を逐一チェックできるような人が求められます。ただ、ゼミは同学年の学生が集まって上下関係がないから、こういった役割分担を行うのは想像以上に難しい。リーダーを中心に据え、他のメンバーは適材適所で頑張るという意識がないので、そのあたりをどう醸成していくべきか、重点的に考える必要がありますね」

「学生時代に苦労することで、社会に出てからの伸びしろを大きくしたい」と中村先生。

社会人として大きな一歩を踏み出すために

中村先生のゼミでは発足以来、ICTや情報社会への学びを深めることはもちろん、ビジプラへの参加や企業との交流を活発に行うことで、社会人として歩むための基礎づくりに注力する行ことを活動の主体としています。そこには、知識的な学びだけでなく人としての成長を促進したいという教育者としての中村先生の思いが息づいています。

「自分自身の体験もふまえると、ゼミは一生の友人を作ることができる場所だと思います。本気でビジプラに取り組めば、意見の違いから対立することもあるでしょうが、それを乗り越えた先には仲間としての深い信頼を築くことができます。学業の観点でいえば教育の最後を担う場所、なおかつ自分で取り組んで課題を見つけ、解決方法を考えるという社会の荒波にもまれる予行演習を行う場であると思います。やった分だけ必ず成長できる場所であり、ビジプラにしても卒論にしてもやることはハードですが、社会に出た時に同期から頭一つ抜きん出たスタートダッシュが切れる実力が確実に身につきます。卒業し、就職した教え子からは、『人生でいちばんパソコンに向かったのは中村ゼミで過ごした時期でした』と言われるほどです(笑)」

今後、中村ゼミを志望する学生たちには、どのような心構えが必要なのか。中村先生から聞かれたのは、コンピューターやICTの知識ではなく、「あいさつをできること」「文章がしっかり書けること」という意外ともいえるシンプルな要望でした。

「あまりにも基本的で見過ごされがちですが、学生の中には挨拶をしない人が意外と多い。初めてゼミに来た時でも、ちゃんと挨拶すれば顔を覚えられるし、それだけで印象が良くなります。『ありがとう』など感謝の言葉も重要ですし、もし先輩に何かをお願いするときは礼を尽くさなければいけない。こういった基本的な礼儀を教えることも今後の就活をふまえた上で重要かと思っています。文章に関しては、連携している企業から『技術的なことは後からいくらでも付いてくるから、主語・述語、構成など、最低限の文章の知識は身に着けさせて』とよく言われます。理工系は先生が文章の指導をしないことも多いのですが、当ゼミでは卒論やレポートは何度もチェックして書き直しをさせ、文章力の向上につとめています」

今後のゼミの活性化に向けて「固定の研究室が欲しいのと、現役の学生とOB・OGが積極的に交流して意見交換を行える場を作りたい」と語る中村先生。大学入学当初、パソコンに触れたこともなく遊び回っていた学生生活が、恩師と出会ったことで劇的な変化を得たという自身の経験や、先輩から学びを得ることの重要性を次の世代に受け継ぐべく、さらなる奮闘を続けています。