座談会

エッセイコンテスト「17歳からのメッセージ」の学生審査員たちが語る、議論を越えて生まれた気づきとは。

本学が2001年から主催しているエッセイコンテスト「17歳からのメッセージ」。24回目となった今回は2万8,976点もの作品が全国の高校生たちから寄せられ、9月初旬に上位作品の中からグランプリなど各賞を選ぶ最終審査会が行われました。本コンテストでは学生審査員賞を設けており、本学に在籍する4名の学生が審査を担当。今回は阪神・淡路大震災から復興した神戸への思いが込められた『あの時の神戸から』が選ばれました。大役を果たした審査員たちに、それぞれが異なる意見をもつ中で一つの作品を選ぶという審査の過程や、そこから得た気づきなどを伺いました。


教育ビジョン

自ら学びをデザインできる学生を生み出す

予測困難な時代を生き抜くために、主体的に学ぶ姿勢をはぐくみます。
多様な体験で得たものを発表・議論する場を設け、さらなる学びへ発展させます。

お話を伺った方

奥野 智大さん

経営学部4年生。「17歳からのメッセージ」では学生審査員長を担当。今の17歳の感性を知りたいと本学からの募集メールを見て参加を決めた。

村上 旅途さん

経済学部2年生。過去の応募作品のすばらしさに衝撃を受け、学生審査員の一人として参加。学生のピアサポート団体・DOGsの代表も務めている。

矢田 将之さん 

経済学部2年生。昨年の同コンテストでは学生審査員長を務めた。作品を読むことでさまざまな気づきがあり、今年も審査員として参加したいと応募した。

(欠席)寺田 耕平さん 人間科学部2年生

17歳でしか表現できない感性を知るため審査員に

――はじめに、今回の「17歳からのメッセージ」で学生審査員をやってみようと思われたきっかけを教えてください。

奥野 僕は17歳頃から闘病生活をしており、大学入学後もたびたび休学して、最近やっと復学できたんです。今は20代半ばなので、同年代の友人たちは社会人として働き、結婚している人もいます。一方、今、同じ4年生として一緒に学んでいる人たちと話すと、すごく夢にあふれているなと感じて。僕はどちらの立場にも共感できるのですが、これがもっと若い人たちの話を聞くということになると、どんな感情を抱くのだろうと興味が湧いたので参加しました。

村上 本学の広報課の方からご紹介をいただき、二つの理由で、ぜひ参加したいと思いました。一つはいろいろなタイプの17歳の考え方を知ることができること。もう一つは、自分が17歳だった時のことを全然思い出せなかったこと。その年代特有のもやもやした気持ちや楽しさなど、さまざまな感情があったはずが、さっぱり忘れているので、それを思い出すために学生審査員をやりたいと思いました。以前の応募作品を見て、自分にはない考え方や視点に衝撃を受けたことも気持ちを後押ししました。

矢田 僕は高校3年生の頃から、思ったことを振り返ってメモに書き留めるようにしているのですが、それより前となると村上くんと同じで17歳当時のことはすっぽり抜け落ちていたんです。やはり、当時の感情というのはリアルタイムでしか書けないということと、自分が体験していない出来事を読めるということに改めておもしろさを感じ、今回も参加しようと思いました。

――審査の際は、最終審査に選ばれた35作品の中から学生審査員賞を選出されたと伺いました。どのように審査を進められたのですか。

奥野 審査会の日は9月初旬だったのですが、それまでに35作品を読み込みました。どれも「自分にはこんな文章書けない!」と思うものばかりで、17歳だからこその言葉、文章に圧倒されつつ、定められた審査基準をみながら自分なりに評価を行いました。

矢田 ただ、審査基準はあくまで参考として、学生審査員はそれぞれの価値観、考え方を大切にして選んでほしいというのが事務局の依頼でしたね。それぞれがいったん5作品を選んで、順位付けをしたうえでのぞみました。

奥野 当日、村上くんが急用で30分ぐらいしか参加できなかったのですが、最初に村上くんの選んだ作品を発表してもらい、その理由などもどんどん質問し合うなど、今後の議論にもつながる密度の濃い時間をつくることができました。あとは、他のメンバーにも順番に発表してもらい、それらを元に審査を進めて。10時半から僕たちの審査が始まって、お昼から先生たちによる最終審査会が始まることになっていたのですが、ギリギリまで粘りましたね。

村上 当日は、全員ほぼ初対面だったのですが、矢田くんが積極的にみんなに話しかけてくれて雰囲気づくりをしてくれていましたし、寺田さんも僕が発表している間、すごく頷いてくれてとても聞き上手な方だなと。奥野さんも審査員長として全体をリードして最初に意見を引き出してくださったので、30分でも思いを伝え切ることができました。

「初めて会った人とでもしっかり議論できる場をつくることができるんだと改めて感じた。他の場でも活かしていきたい」という村上さん

奥野 そう思ってくれてよかったです。僕はわりと自分から話すタイプなので、自分の意見を押し通さないよう、みなさんの意見を先に引き出すように心がけていました。村上くんは評価の基準が一貫していてわかりやすかったので、退出された後も村上くんの観点でこの作品のこういう点はいいよね、と話し合うことができましたよ。

自己開示できたことで議論が深まった

――審査の際は、それぞれどのような点を意識し評価されましたか。

村上 コンテストでは、高校生が書きたいテーマを3つの中から選ぶことができます。テーマ3の「今、これだけは言いたい!(自由課題)」では、「自分たちを高校生ということで一括りにしないで」という思いのこもった作品が多かったのですが、僕はむしろ、そういったところに17歳の熱さを感じていました。あと、書き出しから結論が読めてしまうようなものではなく、論理的でありながら、良い意味で期待を裏切ってくれる、新しい視界が開けるような作品がいいなと思い、高く評価しました。

矢田 僕は、作品の中で相手に伝えたい!という思いがあるか、そのメッセージが明確か、意図していることが文中から読み取れるかという点をみていました。前回、学生審査員長を務めた時とブレないようにしました。

奥野 僕は独自性というか、作品から感じられるその人らしさに重きをおいて選びました。今日は残念ながら欠席していますが、寺田くんは文中から希望が感じられるような作品を選んだと話していましたね。

――学生審査員賞を決定する際には、どのような話し合いがありましたか。

奥野 それぞれの評価の基準や価値観は当然違ってくるので、選んできた作品も結構ばらつきがあったんです。そこで、なぜそういう基準にしたのか、なぜこの作品に対してこう思ったのか、ということを深堀りしていきました。

矢田 村上くんも言っていたように、奥野さんが最初に評価の基準を共有するよう進めてくれたことで、すぐに踏み込んだ議論ができたなと思います。お互いのことを認めつつ、でもここは譲れないという価値観をお互い手札のような感じで出していって「あ、これ一緒だね」とか「これを出すなら、こっちは引いてもいいかな」といったように、自己開示していきました。そうやってお互いの価値観をすり合わせていく中で、共通する点をまとめていくことができました。

最初の手札(価値観)がわかれば、どこから議論するべきかわかるという矢田さん。「考えがブレそうになったときも、それは矢田くんの価値観と違うんじゃない?とみんなが言ってくれて踏みとどまれました」

奥野 それでだんだんと作品を絞り込んでいったものの、なかなか結論が出せずにいました。やっぱり自分が良いと思った作品を推したいという気持ちがみんな強くて…(笑)ですが、審査の最終段階で寺田くんが「自分が選んだ作品以外で推すなら、どの作品が良いと思う?」と提案してくれたことで、流れが変わりました。

矢田 寺田さんがもともと選んでいた『あの時の神戸から』を改めてみんなで読み直したんですが、互いの価値観に合う作品なのではと感じて。作者の経験にもとづいて書かれているということで、説得力が感じられたのも評価につながったポイントです。それぞれの価値観を示し合う中でも、そこは共通して審査の基準にしていました。寺田くんが軸としていた希望も感じられますよね。

奥野 彼の提案は、凝り固まった視点からの切り替えにつながったので、とても良かったと思います。寺田くんは防災関係のゼミに関わっているそうで、『あの時の神戸から』の最後にあるような「自分がこの街を良くするんだ」という決意表明にも心を打たれたと話してくれました。

村上 学生審査員は全員、よく話すし我が強いというのが最初の30分でもわかったのですが(笑)、イエスマンばかりで受賞が決まるより、ギリギリまで議論できたことで推したい作品を明確に示すことができたのかなと思いますね。

さまざまな視点を学べることが、学生審査員の醍醐味

――今回、学生審査員を経験したことで、自身の成長は感じられましたか?

村上 僕はもともと、短い言葉で情報を伝えられる文章こそが正解なのかなと思っていたのですが…、今回、学生審査員を経験して、2文字で言えるような言葉でも気持ちに沿って丁寧に表現することで、読み手は優しい気持ちになったり、その先にある情景が見えてくることがわかり、自分の世界がすごく広がりました。

奥野 僕も応募作品を読んで、育ってきた環境や成長過程の中から生まれた文章が本当にすばらしいと思いました。それと同時に、思いを伝えるときにうまく言葉が出てこなくても飾らないことが大事ということを、審査会での議論を通しても実感しました。その時々の等身大の言葉で発信するからこそ読みたい、聞きたい、と思わせることができる。だから自分の等身大の言葉を信じて、言葉を発していこう!と思えるようになりました。

矢田 審査員みんなが考えを示し合ったことで、前回に引き続き自分にはない視点を知ることができました。本音で表現して伝えていくということ、自己開示してくれた相手を受け止めるということを、これからも続けていきたいと改めて思いました。

奥野 自己開示も大事だし、もう一つは「尊重」なのかなと。どれだけ自分とは違う意見が出てきても、尊重するという姿勢を持つことで、共感できる部分はないかなとか、おや?と思ったらそれはなぜなんだろうとか。頭から否定するのではなく、そうやって考えることができると思います。

「尊重というワンクッションをおくことによって、相手の意見をより考察できると気づいた」という奥野さん

――最後に、学生審査員に興味のある学生へのメッセージをお願いします。

奥野 学生の審査の後に先生方の審査が行われるのですが、自分たちの審査方法との違いや、僕たち以上に作品へのこだわりを持ってらっしゃることに驚きました。高校生の熱いメッセージを読むことができるし、先生方の視点や意見も知ることができるので、ぜひ一度挑戦してもらえたらと思います。

村上 学生審査会では自分の意見をしっかり言わないと議論が進みません。議論を重ねる中でお互いの気持ちがわかってくるので、話すことが好きな人だけでなく、人に考えを伝えるのが苦手という人にもあえて挑戦してもらえたら。審査員同士、仲良くなれるので、新たなつながりができるのもいいところです。

矢田 人生を歩んでいく中で、自分の生き方や考え方と向き合う瞬間が誰しも訪れると思うのですが、僕は、それはできるだけ早いほうが良いと考えています。時間がたっぷりある大学生なら20数年分のことをすぐに振り返られるし、学生審査会はそのための絶好の機会になると思います。自分と向き合いたい、考えを言語化したいと思っている人には、ぜひおすすめしたいです。

Hints for SOUHATSU

創発につながるヒント

ほぼ初対面にもかかわらず、学生審査員のみなさんが充実した議論ができたのは、お互いが異なる価値観や意見を率直に開示できたからだと感じました。「そのためには少し勇気が必要でした」と語る矢田さんですが、そうした一歩踏み出す姿勢を互いに感じ取ったからこそ、信頼関係が生まれたのではないかと振り返ってくれました。また、全員が自然と相手を尊重する気持ちを持っていたため、ゴールに向かって話し合いを積み重ねることができたように思います。今後も、学生審査員による独自の視点を持った作品審査が期待されます。

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