教育ビジョンをテーマに、ビジョン実現に向けてできることを考える、全学FD・SDフォーラムを開催。
開催日:2023年4月7日
参加者:180名
2023年4月7日、「全学FD・SDフォーラム」を開催しました。テーマは、「教育ビジョン『自ら学びをデザインできる学生を生み出す』について考える」です。新任教職員の紹介もプログラムに含め、新たに本学に加わった方々にも100周年ビジョン「DAIKEI 2032」への理解を深めてもらいながら、改めて教育ビジョンの実現に向けて何ができるかをそれぞれが考える機会になればと企画されました。
教育ビジョンはどのようにして生まれたのか
メインプログラムの一つ、「ビジョントーク」では山本俊一郎学長が登壇し、今回のフォーラムのテーマである教育ビジョン「自ら学びをデザインできる学生を生み出す」について、このビジョンが生まれた背景や経緯について語りました。起点となった新しいミッション・ビジョン策定のためのワーキンググループで、具体的にどのような検討が行われたのかが示されました。
まず大学を取り巻くこれからの社会状況の変化を想定し、そこから学生、創立理念・基本方針、社会ニーズの3つの側面からめざす学生像を明確化。そうした人材になるために育むべき力を整理し、次の3つの軸に集約しました。
- 困難な課題に対しても試行錯誤をし続け、挑み続ける力
- 多様な知を融合し、柔軟な創造力を持って共創をリードする力
- 既存の評価軸・枠組みから飛び出し、新たな価値観の中でも活躍する力
こうした力を端的に表すならどんな表現になるかを議論する中で、「学生とともに生き続ける学びを創発する」という現在のミッションの原案ができあがりました。学長は、「学生とともに」「生き続ける学び」「創発する」という各文節に込められた意味を示しながら、ミッションから派生した教育ビジョンの重要性を指摘。教職員それぞれが教育ビジョンに対する自分の答えを見つけてほしいと述べました。
対話しながらみんなで考える「トークセッション」
続いて行われた「トークセッション」は、教育ビジョンをどう具体化するかを、対話をしながら考えるという趣向でした。2022年11月に行われた「未来ビジョン具体化ワークショップ」の参加者が登壇。前半では、「自ら学びをデザインするとはどういうことか」「学生はどうやって自ら学びをデザインできるようになっていくのか」「学生の成長プロセスにどう寄り添えるのか」といったワークショップでの議論の内容を会場に共有しながら、それについてさらに考えを深め合いました。
学生が自ら学びをデザインできるようになる過程については、1、2年生の基礎的な学修で漠然とした志向をつかみ、3、4年生になるにつれて抽象的な目標からだんだんと具体的になっていくという一般的な傾向を分析。学生にとって重要なのは卒業して就職することだと思うが、そのためだけに学びのデザインをするのではなく、どんな学びに興味があるのか、どういう人生を送りたいのかなど少し客観的な視点で自分を見つめることが必要だという意見も出ました。
そうした学生の成長プロセスにどう寄り添えるかという点については、学びのデザインとはどういうことなのかを教職員が教え、自分で考える手助けをする必要があるのではないか、という意見がありました。また、学生が学びをなかなか自分事として捉えられないという問題に対して、入学後早い段階から様々な経験の場を提供して目標の具体化を促すといった支援のアイデアや、成功体験だけでなく挫折体験も重要であるといった指摘がありました。一方で、本学の教育は手厚い支援を行うのが特徴だが、卒業後にサポートがなくても自分で学びをつくれるよう、在学中に自走を支援する取り組みが必要だという意見もありました。さらに、こうしたワークショップの議論を、イラストで記録するグラフィック・レコーディングの手法でまとめたことが紹介されました。
話すことでまた新しいテーマが生まれる創発環境
この「未来ビジョン具体化ワークショップ」をきっかけに、もう一つのワークショップが展開されたことについての報告もありました。参加者から「大学生活がうまくいかない学生についてはどうするのか」という意見が出たことを受け、後日、急遽「フォローアップワークショップ」を実施。入学以降、様々なタイミングで零れ落ちてしまう学生がいることが指摘され、傍観者になっている、あるいは孤立してしまっている学生をどう救うかを軸に議論が進みました。話し合いの中から「誰かと誰かはつながっている」というキーワードが生まれ、学生が零れ落ちたり一人ぼっちになるリスクを拾い上げていく仕組みや学内の雰囲気をつくっていくことが大事だという確認につながったという報告がありました。
山本学長はワークショップでの議論があったからこそ、新たなテーマについての議論が起こったことを取り上げ、「これこそまさに創発」だと指摘。ワークショップや「Talk with」の座談会「DAIKEI TALK」で似たテーマで議論をしているが、「メンバーが違うとまた新たな観点が出てくるので、今後も様々な人に参加してもらい続けていきたい」と述べました。また、登壇者から「『自ら学びをデザインする』というビジョンについてまだ咀嚼できておらず、議論においても自分は不完全燃焼だなと感じる」といった本音の発言も出て、山本学長が「答えは一つではないし、迷いながら考え続けるというのでいいのではないか」とアドバイスするシーンもありました。
このような様々な対話の機会を通じて出てきた意見を、どうしたら具体的な施策に落とし込めるのかについても話題が広がりました。そして、これまでのワークショップや「DAIKEI TALK」の中で出た課題を、現場の意見として第二次中期計画を立てる際に活用してもらうことを山本学長に約束してもらいました。
アンケートから浮かび上がる情報共有の大切さ
トークセッションの後半では、今回のフォーラムに先立って実施した教育ビジョンについての教職員へのアンケート結果を取り上げました。103名から回答があり、皆さんの関心の高さがうかがえます。詳細はフォーラム後のアンケートとともに参加者に公開する予定となっており、ここではアウトラインとして3つの質問を選んで、その回答の一部を紹介しながら意見を交換しました。
「学生支援に関するもので、教員から職員にお願いしたいこと、職員から教員にお願いしたいこと」という質問への回答からは、「情報共有」「学生支援/対応」といったキーワードが抽出されました。セッションメンバーからは、アドバイザーを担当している学生の情報が不足していて介入がしにくい、職員の仕事や役割は他部署からは見えにくい、教員と職員の情報共有の場として座談会のような人同士がつながる場は重要、さらに情報共有のシステムをつくることが必要ではないかといった声があがりました。
残りの2つの質問は、「教育ビジョンを実現するためにやってみたいアイデア」と「すでに始めている取り組み」を紹介してもらうものでした。意外にみんなに知られていない取り組みがたくさんあることが再確認され、情報共有の必要性が改めてクローズアップされました。その中で、セッションメンバーの一人である経営学部・稲岡大志准教授が取り組んでいる「志プロジェクト」が話題になりました。
このプロジェクトはゼミ活動から授業へと発展した取り組みで、学生が大阪市内の中小企業を取材し会社案内やSDGsレポートなどを制作するというものです。稲岡准教授は産学連携で学生の成長を促す取り組みになっていると評価しながら、教員側が与えるフレームの中で行っているため、どこまで学生が「自ら学びをデザイン」できているかは疑問もあると語ります。一方で、企業からは「学生が失敗するのは当たり前」とその自由な取り組みを支援してくれることに言及しながら、様々な立場の人が関わる連携の面白さやメリットを指摘しました。この経験談を受けて、学生が自主的に学ぶためのヒントの与え方として、成果を急いで手を出し過ぎるのではなく、失敗をさせた後に少し難易度を落とした課題に差し替えるなどの工夫が考えられるといった意見も出ました。
このほか、アンケートで「正課の授業をきちんとやっていくことが基本」といった意見が寄せられたことが取り上げられ、様々な取り組みを通して経験の幅を広げ自分の学びをデザインしていくためには基礎的な学力の定着が重要であることが改めて認識されました。また、C館の増築棟をはじめ遊び心のある空間がキャンパスの中にあることや、誰かとつながっているという実感を持てるようなきっかけや雰囲気づくりなど、創発が起きる環境づくりの重要性を指摘する声もあがりました。
様々な立場の人が集まり対話できる場が創発を生む
最後に山本学長が、今回のフォーラムで取り上げられた報告やセッションでの対話を振り返りました。創発は学内の様々なところですでに起きていると指摘。創発には、このように様々な立場の人が集まってざっくばらんに対話をすることが大切なので、今後もこのような場をたくさんつくりたいと述べ、教職員全員に積極的な参加を促しました。
フォーラムや研修会といえば、講演を聞くなど一方通行のコミュニケーションが多い中、今回のフォーラムは対話に重点が置かれました。トークセッションを聞きながら、対話の楽しい雰囲気や話題や思考が思わぬ方向に転がっていく面白さを実感した方も多かったのではないでしょうか。教育ビジョンとは何か、その実現に向けて何ができるのか、教員と職員が一体となることで生まれる価値とは何かが確認できる機会となりました。
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