知の“結接点”となり、新たな知が生み出される大学となるために必要な研究環境を考える。(後編)
100周年ビジョン「DAIKEI 2032」に定める4つのビジョンについて、教職員が深く理解していくことを目的に、各ビジョンと関連する方たちが学部や部署を横断して語り合う座談会を開催しています。今回は研究ビジョンをテーマに、2018年度からスタートした教員表彰制度の受賞者4名と研究担当学長補佐が学長とともに語り合いました。その内容を前・後編に分けてお伝えします。本学の研究環境の現状や今後の課題について考えた前編に続き、研究を活性化させる環境づくりについて様々な方向から議論しました。
研究ビジョン
知の“結接点”となる
分野や産学官民を問わず、国内外の多彩な知を集積し、
それぞれをつなげる場を形成することで、新たな価値を創出していきます。
今回の参加者
学長
山本 俊一郎さん
埼玉大学、東北大学大学院を経て2005年本学着任。専門は経済地理学。学内で多数の賛同を得て2019年4月より学長に就任。
経営学部
大森 孝造さん
経営学部准教授。専門はファイナンス。金融商品の設計やその利用方法に関する理論的・実証的研究を行う。銀行での経験を生かし、2016年本学着任。学長補佐として研究を担当。
経済学部
藤本 髙志さん
経済学部教授。専門は農業経済学。2018年度教員表彰受賞。離島経済の研究で2015年日本農業経済学会誌賞受賞、さらに発展させた研究で2018年『Special Economic Analysis』誌掲載。
情報社会学部
中村 健二さん
情報社会学部教授。AI、Webマイニング、情報検索などICTを研究。新しい学問分野である土木情報学の専門家でもある。2018年度教員表彰受賞。2016年文部科学大臣表彰受賞。
人間科学部
相原 正道さん
人間科学部教授。専門はスポーツマネジメント、プロスポーツ。東京オリンピック招致などスポーツ行政の有識者として活躍。2018年度教員表彰受賞。2021年文部科学大臣表彰受賞。
人間科学部
松田 幸弘さん
人間科学部教授。専門は社会心理学、産業・組織心理学。2019年度教員表彰受賞。編著書の出版とともに学会誌の論文査読委員として多くの論文を審査している。
「組織的なアプローチで社会連携の活性化を」大森 孝造さん
——前編で研究環境の課題がいくつか出てきました。これから、どのようにして課題を解決していくのがいいと思われますか。
松田さん 研究ビジョンの表現にもある、「知の“結接点”」をつくることだと思います。たとえば、経済学部や経営学部には研究機関として日本経済史研究所と中小企業・経営研究所がありますが、情報社会学部と人間科学部にも同じような研究所をつくり、年に2~4回ぐらいは定例的な研究発表会をするのはどうでしょうか。オンラインなどを使って学部を超えて研究の話ができる環境をつくり、お互いに知り合えると共同研究をやろうという機運につながると思います。
大森さん 私の出身大学ではそういう研究会をやっていました。大学院生もそこで発表し、鍛えられていました。オンラインを使えば比較的簡単にできると思うので、ぜひやりたいですね。ただし、研究会後のオフラインの交流から新しいことが出てくる可能性が高いので、そこをどう実現するかについても考えていきたいです。
学長 つながりづくりという意味では、大学院生と研究者の居場所はもっと近い距離になるよう、動線を考えた方がいいと思います。現在の大学院生がいるところは、離れ小島みたいです。それと、図書館をもっと何とかできないかなあと思っているんです。今の図書館は、学生が集まらないだけでなく、教員の姿も見かけません。
中村さん 図書館で本を探すことはないですね。昔は図書館で論文をいっぱいコピーしましたが、今は電子ジャーナルがありますから。
藤本さん 僕もほとんど電子ジャーナルで読むので、最近、研究室の本を半分ぐらい処分しました。ただ、本学の図書館には、珍しい戦前の統計などが残っていて、それはありがたかったですね。
学長 サロンやたまり場が必要だという話もしましたが、図書館を活用してはどうでしょうか。たとえば、昼休みに、ゼミよりくだけた感じのランチミーティングのような催しを開いて、関心のある教員や学生が集まるとか。みなさんでいろいろなアイデアを考えていきたいと思います。
藤本さん 私は、研究活動について、もっと社会への情報発信の仕方を考えていく必要があるのではないかと思います。教員の研究についての情報は、経済学部では学部ホームページで紹介していますが、大学ホームページでも、もっと公表してもいいのではないでしょうか。希望者には、リサーチマップへのリンクも貼ってほしいです。本学のホームページは、学生活動のPRが中心のように見えます。もっと、本を出したとか国際ジャーナルに載ったというような情報をしっかり載せれば、研究機関としてのアピールにもなるし、研究者のモチベーションアップにも役立つのではないでしょうか。
学長 この間、あるシンクタンクの人に紀要を見せる機会がありましたが、このような研究をしている先生方なら連携したい企業はたくさんある、というようなことを言われました。本学の教員がどのような研究をしているのかを、いかに外部の人に知られていないのかを痛感しました。ホームページなどで発信するだけでなく、企業などに対してピンポイントに情報を発信することも必要ではないでしょうか。もちろん、企業支援のためだけに研究をしているわけではないので、あまりやり過ぎるのはよくないのでしょうが。ただ、研究成果についてもっと気軽に、軽い情報も流していくといいのかなと思います。
大森さん 今、企業と連携して研究している先生は、個人的なつながりをきっかけに始めた人がほとんどなので、もう少し組織的なアプローチをしなければならないのではないかと思っています。たとえば、進路支援部で持っている企業の情報を、教員と企業とが連携するために活用してみることも考えてみてもいいのではないでしょうか。
松田さん 社会への研究成果の発信としては、いろいろな形があり得ます。学会で発表したり本を出版したりする以外に、学問の進み具合を一般向けにわかりやすく発信するのも大切ではないかと思います。心理学の分野なら、今一番新しいのは脳の話や進化の話など、一般の人にも興味が持てるテーマもたくさんあります。また、本学にはいろんな分野の先生がいるので、社会人向けの講座もいろいろとできると思います。学問への糸口をつくることが、将来の志願者や社会人入学者の増加にもつながるのではないかと思います。
「連携や研究の支援に専門スタッフを登用」相原 正道さん
中村さん 私は、研究の活性化という視点で考えてみました。たとえば、OBを通じて産学連携を積極的に進めていくというのはどうでしょうか。大樟会には経営者がたくさんいらっしゃいますが、その方々に研究資金を出していただくのです。各学部の教員がポスターセッションを行い、この研究に参加する経営者には研究費として30万円出してもらうとか。社会とつながって資金が確保できる場があれば、研究グループも生まれやすいし、お金をもらうことで責任も生まれるので研究が続いていく力にもなるでしょう。また、学内ベンチャーのような企画に対して、成功しても失敗しても学生が育つための寄付金だという意識でお金を出してもらい、学生はそこで業務を体験し対価をもらいながら学ぶといったことも考えられます。本学にはありませんが、○○先生の○○の開発研究に助成する、というような使途指定寄附の仕組みがあれば、OBの方々も母校を応援しがいがあるのではないでしょうか。
大森さん クラウドファンディングみたいな感じでしょうか。指定寄附の制度は、新たにつくってもいいかもしれませんね。
学長 研究というより教育の取り組みではありますが、中村先生が言われたような仕組みに近いものはすでに始めています。昨年から行っているのは、卒業生が経営する企業に通関士養成のための寄付講座を開講してもらい、受講した学生はさらにその企業での有償インターンシップに参加できるというものです。すでに2回実施しており、各回20名ずつぐらい受講しています。このような動きをどんどん広げていきたいですね。ビジネスプランコンテストのような大会を行って、優勝した学生やグループには、資金や場を提供してプランの実現をサポートするような取り組みもあればいいと考えています。
相原さん 学内に設けた産学連携拠点のスタッフに民間出身者を登用する大学もありますし、連携企業から研究者が大学に派遣されているケースもよく見聞きします。私自身は、企業人が加わることで共同研究などでも話のスピードやテンポが速くなり、仕事がやりやすかったという経験があります。
学長 企業に場所を貸し出して学生と共同で商品開発をする拠点にし、取り組んでいる様子を積極的に発信している大学もあるようです。大学側から、研究拠点として使ってもらうように売り込むというのもあるのかもしれませんね。
中村さん 僕たちは研究成果をベースにして、最終的に製品化をめざす産学連携に取り組んでいます。製品化となれば、プログラムにしてもきちんとしたシステム開発会社に発注する必要があり、仕様の変更などにも機敏に対応しなければなりません。大学の教員だけでは対応できないため、ドクター15名で窓口となる会社を立ち上げました。そこに入ったお金は、コーディング費用やバグ対応費用として第三者に流れるため、儲けが残るわけではないのですが、社会実装に対して責任を負える団体としてつくりました。
学長 社会実装を意識した研究だと、そのような対応も必要になるんですね。
大森さん 行政や企業との連携の話が出ましたが、そのような情報発信には時間も手間もかかります。大学として組織的に対応しようと思えば、そうした業務を行う専門職が必要だと感じます。外部資金獲得の支援など研究活動の企画・マネジメントや研究成果の活用をサポートする専門職としてURAがありますが、さらに拡張して企業等の連携もサポートしていただける専任職員を配置するのも一つの方法でないかと思います。
「研究の国際化を進める必要がある」藤本 髙志さん
——藤本先生が国際査読誌に投稿されている話をされましたが、海外への発信についてはどうでしょうか。
相原さん 僕も2、3年前から学会発表は海外だけに切り替えました。特にスポーツの世界は欧米が中心なので、英語で発信しないと読んでももらえません。逆に言えば、英語で発表すると海外とのネットワークが広がり、中には新しい研究や連携につながることがあるなど、ゲインが大きい。日本のスポーツ事情は海外ではあまり知られていないので、日本人であることで優位に立つこともできます。研究というとよく論文の引用数が話題になりますが、国際的な論文に引用されようと思うなら英語で書かないと無理ですしね。論文を書く労力そのものは同じなので、英語にした方が有利だと思います。勝負どころだと思う論文では、ネイティブに校正をしてもらうのですが、その費用を大学が研究奨励費として出してくれるのは本当にありがたいです。偉そうに言っていますが、このような海外中心の研究体制が組めているのは本学のサポートがあるからです。
藤本さん 今は、インターネットを使って簡単に査読誌に投稿できる仕組みがあります。自分の論文が今どういう段階にあるのか、途中経過もオンラインですぐにわかります。実際私も、論文を送った10秒後にリジェクトされたこともありますよ。投稿しやすくなったこともあって権威ある査読誌には世界中から論文が集まり、インパクトファクターが上がるからまた投稿が増えていく。研究のグローバル化は加速するばかりで、世界で認められないと国内でも認められません。本学も、ぜひとも研究の国際化を進めていく必要があると思います。
「研究によって大学のプレゼンスを高める」中村 健二さん
——研究を通じて地域社会との接点を持たれている先生も多いと思います。ご経験も踏まえて、本学が地域社会とどのようにつながっていけばいいのか、ご意見をうかがいたいと思います。
相原さん 私は5年ほど前から大阪市のスポーツ振興政策の委員をさせていただいています。都市の魅力づくりや大阪万博などを柱に中長期計画を考える中で、社会の課題解決ができればと考えています。この活動自体は研究ではありませんが、その中で何か問いを生み出し研究に結びつけようと意識しています。研究を通じて課題解決につながる成果をあげることができれば、大阪市に貢献できるわけですから。
中村さん 地方公共団体や国の研究機関、企業などと研究をしていますが、課題やニーズは相手が持っているとは限らない、というのが実感です。むしろ、相手の業務や作業について聞き取り、他の団体から聞いた話などと組み合わせながら、客観的な視点で研究テーマをつくって提案するほうがうまくいくことが多いです。中でも、防災政策などの分野は、どの市区町村でも所属を超えて共同で取り組む問題で、共通のテーマもたくさんあります。現在、ある自治体と災害査定ツールの開発を進めており、それが完成したら他の自治体にも使ってもらえるのではないかと考えています。
学長 中小研では、企業支援を行うプラットフォームを目指して、研究者とのマッチングなど含めて組織的に行っていきたいと思っています。中小企業診断士養成課程が始まったことで、診断士が間に入れば支援しやすくなるのではないかと動き始めているところです。先生方が、いろいろな分野で地域との連携を進めておられますが、今のところは一人ひとりの先生のつながりに依存しており、大学が組織として連携を進めるようにはなっていないのが課題です。
大森さん 地域社会ではないのですが、依頼されて一般法人などの資金管理を支援しています。学長がおっしゃるまさに個人のつながりでやっており、口コミで話が来るといった感じです。もう少し情報をうまく仲介して、本学の研究者が社会に貢献できるような仕組みがつくれるといいと思います。
学長 新学部・コースの説明会でも話しましたが、これからは、本学が地方の大学や自治体と結びつくことが重要になると思っています。学生を交換したり地域の課題解決に協力したりするといった取り組みは、本学の学生の成長にもつながります。これまで、私のやっている地理学などは、政策のためにやっている学問ではないというプライドがありました。大学にもそういう思いがあり、社会連携を今まで声高には言ってこなかったのだと思いますが、いまや、地域社会は大学に期待し協力を要請しています。個人的には、これからは、大学として地域と協働していかなければならないと思います。
——最後に、今回の議論を振り返って、研究についてご意見や感想がありましたら自由にお話ください。
相原さん 先日、国の「第6期科学技術イノベーション基本計画」が発表されました。2021年度からの5年間で政府の研究開発投資総額30兆円、官民合わせた研究開発投資総額120兆円。日本が科学技術にここまで大規模な予算を割いて何をしようとしているのか、研究者として意識しておくことは重要で、研究の広がり方を考える一つのプロットになるのではないかと思います。お金のことばかり言うようですが、科研費にしても申請が通るかどうかの基準は国の方針と深く関わっているので、それを読み取りうまくかみ合った研究である必要があります。能力が高い人がいても、それをうまく使わなければ人材のロスです。個人ワークの強さだけでなく、大学組織として外部資金を獲得するというような方向性や戦略を共有することで、大学の評価はもっと違ってくるように思います。
松田さん 学長が「研究ビジョンが4つのビジョンの中で一番難しい」とおっしゃっていたことがよくわかりました。先生方と話をしながら考える点がいろいろとあり勉強になりました。同じ学部にいても研究について語る機会はなかったので、とても刺激的でした。この座談会のように研究者が接触し結びつく機会を、何か確かな形にしていければいいですね。
藤本さん 教員にとって、研究も教育も両方大事です。医学部や薬学部と違って、本学の場合、学生の進路は基本的に決まっていません。社会の仕組みを学び、知的な刺激を受けて、いろんな人と協調しながら人生を開いていけるような人材を育てよう、という大学です。その意味でも、研究を教育のベースと位置付けて、力を入れていくことがとても重要だと思います。
中村さん 本学は、本当に自由に動くことができます。他大学では、制限があって出張に行けないとかいう話もよく聞きます。外に出かけて話をするからこそ生まれる研究というのがあり、その意味ですごく支援してもらっていると感じています。今日の座談会では、プレゼンスということを改めて考えさせられる機会になりました。海外に出ていったり科研費を申請したりといったことを、やらなければと思いながらも後回しにしていたので、今後は頑張ろうと思います。
大森さん 多くのアウトプットをされている先生方の話を聞いて、刺激を受けました。研究環境について、課題や希望を聞けたのは何よりの収穫でした。研究とは、他人が「これをやれ」という目標を決めてやるものではなく、それぞれの興味と考え方の中で決めていくものです。研究力は、なるべく制約をなくし、つながりをつくって創発できる環境を整備することでしか高めていくことができないので、環境の重要性について共有できたのがよかったと思います。
学長 「研究ビジョンはなかなか難しい」と言ったのは、盛り上げていこうという機運をつくるのが難しいと感じたからです。でも、そう思った時点で、自ら限界をつくっていたのだと反省させられました。今日話をしてみて、個々の研究者はプレゼンスがあり、可能性を秘めている人たちばかりであり、その人たちを伸ばしサポートしていけば、研究大学としても伸びていく素地があることを再認識しました。研究にもっと力を入れる大学にしたいと思います。私立大学等改革総合支援事業のタイプ1など、外部資金をどんどん取っていこうと発信した2年ほど前と比べて、雰囲気もだいぶ変わってきました。国際化にももっと取り組んでいかなければなりません。この1、2年を、数値目標を設定するなど次の段階に進むためのステップにしたいと強く思いました。
conclusion
座談会を終えて
経営学部
大森 孝造さん
自由で、研究費も潤沢ではないにしろ十分にある、という本学の恵まれた研究環境がよくわかりました。今後、執行部として、不足している点を見直し、よりよくしていきたいと思います。
経済学部
藤本 髙志さん
教育をよくしていくためにも研究は非常に重要。その意味で、現在の本学の研究環境はありがたいし、今後もよくしていかなければならないと思います。
情報社会学部
中村 健二さん
本学には若手を育て見守っていく温かさがあります。この土壌を生かして積極的につながり、様々な研究成果を生み出していければいいですね。
人間科学部
相原 正道さん
とても刺激を受けましたし、本学の研究環境の良さにも改めて気づくことができました。研究に関わる情報を学内にしっかり提供することが大切だと感じました。
人間科学部
松田 幸弘さん
同じ大学や学部にいても、研究について語る機会はなかったので、今日のような機会は刺激的でした。いろんな機会を通じて情報交換ができるのを楽しみにしています。
学長
山本 俊一郎さん
研究についていろいろなご意見が聞けて、とても勉強になりました。職員さんも交えてさらに議論を広げていきたいテーマです。読んでいる方も、いろいろなご意見をぜひ聞かせてください。
1min いろいろアンケート
座談会参加者から、教職員のみなさんに聞いてみたい質問を集め、アンケートを実施しました。本学の隠れた一面を発見したり、新たなアイデアが生まれてくるかもしれません。